貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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528話

「うっす、沖ノッチ珈琲でもいかが。お神籤珈琲入ったけど」

「おっ貰うぜ、さてと俺の今日の運勢は……おおっコク苦み深み強めの男の珈琲……大吉だな!!」

「あら珍しい」

 

ダービーが近づいてくる中でもトレーナーの仕事はいつも通り。今日も今日とて仕事をしているランページだが、ご機嫌な沖野へと珈琲の差し入れを出した。

 

「ご機嫌だな」

「そりゃそうだろ、なんせヴィクトリアマイルじゃローマンが勝ってくれたからな!!」

 

新世代のティアラ路線の女傑を争う最中で行われたシニアのティアラ戦線、ヴィクトリアマイルでヒシアマゾン、ドラグーンランス、オグリローマンのティアラ三強が激突した。去年のエリザベス女王杯での屈辱を晴らすと言いたげに行われたそれを制覇したのは樫の女王オグリローマン。果敢に大逃げを打ったドラグーンランスを差し返し、背後から迫るヒシアマゾンの激烈な追い込みからは逃げきってみせての1バ身差の激闘を勝利してみせた。

 

「三強なんて言われてるが実質的には二強だよなシニアのティアラ、カノープスとスピカで」

「まあそこは見栄えの問題だろ、チーム単位よりも一個人を強調する方が目立つしチームっつってもチームワーク発揮して争うレースじゃないからな」

 

見事に勝利したローマンはその後、オグリに勝利を報告した。オグリはそれを受けて喜びながらも少しだけ考えてランページへと連絡を送ってきた。

 

『如何しましたオグリ先輩、こういうのなんですけど珍しいっすね』

『ランページ、以前貰ったお食事招待券なんだが……ローマンと共に使う事は出来るか?』

『問題はないと思いますけど、何人かはご一緒出来ますって筈でしたけど何だったら今確認しますから暫しお待ちを……大丈夫っすね』

『そうか、お祝いパーティをしてあげたいと思ったんだ。これは有難くその為に使わせて貰うよ』

 

その後、ランページの携帯にオグリから店の支配人と料理長、ローマンと共に記念撮影をした時の写真が送られてきてほっこりした。この店にはオグリとローマンからのサインと写真が飾れる事になり、それが話題性を呼び多くのお客さんで賑わう人気店となった。

 

「いよいよダービーも近いか……」

 

マヤは技術面はいい、どんどん蓄積が出来ている。自分の時は出来なかった自在性のある幻惑走りとチェンジオブペースを組み合わせられた。敢えて名前を付けるならば幻惑変化だろうか。ハッキリいって、凄い厄介だった。

 

「エアエア達と走らせてもいいな……多分あれらを真似てくる奴らもいるだろうし」

 

ペースを気づかれない程度に調節していた自分のそれとは全く違う走り、ネイチャのロングスパートのプレッシャーに近いと言えば近いが、マヤのそれは如何しても意識してしまうし集中力が著しく削られてしまう。

 

「さてと―――フジ、ジェイン、マベ、勝ってみろ俺達のマヤに」

 

そして季節は巡っていく。今年のオークスの解説要請も来ていたがガン無視してダービーへの向けての対策に没頭していたので知らなかったのだが、なんと解説にはターボが呼ばれていた。確かに同じくトリプルティアラではあるがターボに解説が出来るのか?と思ったのだが

 

『ちょっと焦り過ぎだな~今ここで焦っても意味ないぞ~あの走りはダメ、周り気にし過ぎだからコーナー行ったら直ぐにバテると思う』

『おっと此処で先頭を駆け抜けていたアークルエンジェルが落ちてきた!?変わって先頭に立つのはワンダーパヒューム!!』

『今の上手かったけど、ちょっとコース取りが不安定。そうしてると内から』

『ダンスパートナーが差し返したァ!!』

『ほらね』

『さあこのまま行けるのか!?しかし悉くツインターボさんの解説が的を射ております!!』

 

意外な事にターボは解説者として確りと仕事をした事だった。ターボに求められていた子供らしいテンションの高いコメントとはまた別のベクトル、子供らしさのある遠慮のないツッコミにやや辛みがブレンドされたコメントを連発した。そして見事にオークスを制したダンスパートナーの勝利を言い当てるかのようなやり取りからターボへの声が完全にダンスパートナーを食っていたのはご愛敬である。肝心のダンスパートナーは

 

『憧れのターボさんに色々とアドバイスを頂けて光栄でした!!』

『『イエ~イピースピース!!』』

 

ターボと仲良くなっていた。流石は歴代で一番親しみやすいと名高いトリプルティアラだ。まあ自分とラモーヌと比べたらターボがそう言われるのも当たり前の話なのだが……自分は親しみやすくないのかと少しだけ無言になったランページがいた。

 

「いよいよか……マヤ調子は?」

「絶好調!!」

「そいつは何より」

 

間もなく行われる日本ダービーを前にマヤは絶好調である事をアピールする。元気いっぱいの子供が更に元気いっぱいで手が付けられない。

 

「しっかしまぁ良くもランページは余裕そうだな……走る訳でもないのに俺なんてフマキラーしっぱなしじゃなくて緊張しっぱなしだぞ俺」

「それもしかしてキンチョールの間違いかい?」

「元会長のギャグよりかは全然面白いから68点」

「どんだけ面白くねぇんだよルドルフのギャグ」

 

軽口を叩いている上水流だがその実は震えまくっている、まだまだ新人の域を出ないのにダービーへと臨む事になった。サブトレーナーではあるがその緊張感は酷く強い。坂原はまだ余裕そうだがそれでも表情が硬いので緊張している、そんな彼にマヤが抱き着くと漸く顔を崩して撫で始める。本当に良いコンビだ。

 

「あ~もう情けない……肝心の走るマヤちゃんはこんなにリラックスしててサブトレーナーの俺が一番緊張してるとか……はぁ……大人として恥ずかしい」

「気にすんなよ上ちゃん、世間一般的に言えば日本ダービーはそんだけ名誉のあるレースなんだからそうだとしても恥ずかしくねぇよ」

「そういう君は全くじゃないか」

「言うのも飽きたが国のトップと会うのに比べたらなぁ……」

「そうだった、この暴君そう言う意味だと一番の強者だった……」

 

そんなランページはマヤに目線を合わせるように床に座りながら言う。

 

「マヤ、緊張してる?」

「全然!!だってマヤ、タマさんとかサンデーさんと走ったんだもん!!」

「そりゃ何よりだ」

 

確かにあの二人から掛けられる覇気というかプレッシャーに比べたらゴミのような緊張なのかもしれないな、と笑いながら言の葉を紡ぐ。

 

「良いかマヤ、日本ダービーは日本のトゥインクルシリーズの中でも最も誇りと名誉が集中すると言われているレースだ。このレースに勝つ事を至上の命題のように掲げるトレーナーやウマ娘はそれこそ星の数ほどいると言っても過言じゃない。ダービートレーナーになる事は一国の宰相になる事よりも難しいとさえ言われている、それがどれだけの名誉を現れているかと言ってもいい」

 

真面目な話にマヤも真剣な顔でそれを聞く、坂原と上水流も同じくだった。

 

「ウマ娘にとってもトレーナーにとってもこのダービーは大きなレース―――だが逆に言えばその程度のレースでしかないんだ」

「へっ?」

「名誉?誇り?ハッそんなのを俺達が求めると思ってるか、ンなもんは捨てちまっていいんだよ。生憎俺は世界を取ってるようなもんだ、今更一国の宰相程度の地位なんざいらないんでね。俺が欲しいのは唯一つでしかない、それはな……」

 

マヤの頭を撫でながら、ニカッと笑った。

 

「お前がセンターに立つウイニングライブの特等席だ。winning the soulは俺の好きな曲だ、最高の場所で聞かせてくれ」

「―――うんっ任せといて!!」

「クククッアハハハハハッ!!確かにそうだね、僕達は世界最高最強の暴君の側近みたいなことやってるんだもんね、一国の宰相以上の地位だもんね!!」

「言われてみりゃそうだな!!そんな事で俺緊張してたのか、だっせぇ~!!!アハハハッ!!」

「上ちゃん恥ずかしい~マヤってばお腹よじれちゃう位に笑っちゃう~!!!」

 

ダービー出走前の控室とは思えぬ程に笑い声に満ちた空間、誰もが笑顔だった。その笑顔は力となって―――マヤの助けとなる。

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