「よくやりましたねライアン……本当によくやりました」
メジロ家の邸宅、その一室、メジロアサマが居る部屋にいるライアンはお婆様から称賛を向けられて気恥ずかしそうにしていた。
「や、やめてくださいお婆様。そんなに褒められると照れますって……」
「それだけ貴方の成し遂げた事は誉れ高いのですよ、そしてメジロ家にとっても誇らしい事です」
メジロ家の長い歴史の中でダービーはまだ一度も取れた事のない称号だった。ウマ娘にとっての勲章ともいうべきダービー制覇、天皇賞の連覇を掲げていると言ってもやはり意識しない訳には行かず数多くのメジロのウマ娘がそれに挑んでいった、何度もその高い壁に阻まれて来た。モンスニーですらシービーというライバルに敗れているが……今、ライアンは新しいメジロの歴史を作ったウマ娘となったのだ。
「次は菊花賞ですか」
「はい、そのつもりです」
次なる目標はクラシック三冠路線の最後のG1レース、京都の菊、菊花賞。3000mという長距離レースではあるが、長距離と言えばと言われる名門なのがメジロ。ライアンも長距離のレースには自信がある。だが問題なのは自分以上に長距離が得意であるマックイーンが出走する事を決めている事である。
「マックイーンも菊花賞への出走を決めています、あの子は強いですよ」
「ええ分かってます。でも逃げるつもりはありませんよ、寧ろワクワクしてます。だってG1の舞台でマックイーンと戦えるんですから!!」
歓喜に胸を弾ませながらも笑顔を作る孫にアサマは微笑んだ。ウマ娘にとって走る事は何よりの幸福だ、だがその舞台で競いたい相手がいる事は更なる喜びを齎す。
「それに、アイネスも菊花賞に出てリベンジするって言ってくれてますし全力で迎え撃ちます!!」
「ダービーウマ娘同士の激突、フフッそれは楽しみね」
二人のダービーウマ娘、メジロライアンとアイネスフウジン、東京レース場を揺らす程のコールも含めて新聞でも大きく取り上げられている。それが再度激突すると思うと今から楽しみになって来てしまう。
「菊花賞には私も応援に行きましょう、貴方達の走りを見たくなりました」
「えっ本当ですか!?」
「ええ。今からならスケジュールの調整も可能、但し、見に行くのだから情けないレースは許しませんよ」
「勿論です!!」
嬉しそうに笑っているライアンに自分もつられてしまう。メジロ家としての自覚と責任、それらを併せ持ちながらも凛と構えるマックイーンに尊敬を向けて何処か憧れてさえいた孫が此処まで立派になって、真っ向からマックイーンと戦うとまで言っている。これもランページのお陰だろうか、改めて彼女をメジロ家に誘って良かったと思っていると、そう言えばと口にした。
「ランページは如何しました?」
「ああ、ランなら……」
「だぁぁ~……負けたぁ~……」
「だ、大丈夫ターボさん?」
ランページの姿はトレセン学園にあった、この日はカノープスの練習の日でもあったので其方を優先している。今日はライアンの日本ダービー祝勝会があるので其方には確りと出席するつもりだがギリギリまで練習に励むつもりでいる。
「なんでいきなり3000mを走ろうとしてんだお前」
「だってライアンは次、菊花賞なんでしょ!?ターボもその手伝いしたいから3000メートル走ったの、でもキッチィ……」
「最初っから最後まで全力で3000はなぁ……まあ一方で走り切ってるお前は流石だわパーマー」
「いやぁまあ、長距離は得意だからね」
今日はパーマーもライスと共にカノープスの練習に参加していた。パーマーはパーマーでまだG1に出走こそしていないが、重賞には積極的に参加して得意の大逃げで勝利を勝ち取ったり負けたりをしたりいる。現在6戦4勝2敗。
「でもライアン凄いよねダービーを取っちゃったんだから……アハハッアタシとは全然違うね」
困ったように笑いつつも自分を卑下する物言いをするパーマーの額を軽く小突く。
「あいたっ!?」
「お前はそういうネガティブがいけないんだよ。お婆様だって言ってただろ、お前はお前らしく走って良い、メジロなんて気にするなって」
「うんまあそうなんだけどさ……ほら、今回の事でメジロの時代って言われちゃってるからこっちにも注目が来ちゃって……アハハハッ」
自分のティアラ二冠に続いてクラシック二冠、この事もあってか今年はメジロの時代だと各報道機関は騒ぎまくっている。その煽りをパーマーとマックイーンも受けている、マックイーンは対して気にしていないのだがパーマーは結構そういうのを気にするタイプなので重圧と思ってしまっている。
「まあ、ティアラ二冠とクラシック二冠を取ったらそうなっちゃうよねぇ~お陰でカノープスへの入部希望者も鰻登りですわ~」
「ああやっぱりそうなんだ」
「私にも後輩が出来るのかな!?」
「かもな」
タンホイザは何気に先輩と呼ばれることに憧れを持っているらしく、出来れば後輩が入ってくれる事を願っていたりもする。
「よ~し復活!!ライス、もう一本お願い!!ターボもクラシックで戦えるように長距離走れるようになりたい!!」
「う、うんライスは大丈夫だよ」
「んじゃネイチャさんも付き合いますか~」
「あっ今度は私もやる~」
そう言ってターボ、ライス、ネイチャ、タンホイザの3000mレースが開始されるのであった。矢張りというべきか初っ端から全開で飛ばすターボにランとパーマーは苦笑いするのであった。
「いいなぁターボちゃん、アタシもあんな感じに元気いっぱいになれたらなぁ……」
「ああもう、お前は直ぐそうやって」
「いやさぁ……」
これは散々メジロ家のウマ娘としてどう思っているか、これからの予定は、自分達と戦うのか、と聞かれたのだろうなぁと察する。そう思うと悪い事をしたなと思う反面、本当にパーマーの悪い部分が出てしまっていると思う。
「お前は誰だ?」
「誰って……メジロパーマー」
「だろ。んじゃお前の家族の名前は?」
「メジロ、アタシだってメジロだし」
「そうメジロ―――俺だってお前の家族だ」
そう言いながらもパーマーを軽く抱き寄せた。最近お世話になっている姉のクリークにやって貰ったように軽く、優しく。そしてパーマーの目を真っ直ぐと見る。それにパーマーは驚いたがそのまま続ける。
「メジロへの期待は俺達を押し潰すものじゃない、力を与えてくれるのさ。俺達は一緒に走るんだ、俺もそうだ。ライアンやマックイーン、そしてお前と一緒にティアラ路線を走ってる」
「皆と一緒に……」
「そうだ、怖いと思うなら俺も一緒に走る。隣でも後ろでもいい、家族が一緒に居るって事を思うんだ。そうすれば力をくれる、それが家族ってもんだろ」
期待は自分に力を与えてくれる、そんな風に考えた事は無かった。自分には荷が重い、無理だと思うばかりでそんな風には思えなかった。いっその事、全てを投げ出して逃げ出せたらどんなに良いだろうと思った事さえもあったのに……。
「それに逃げて何が悪い、全部嫌だったら投げだしちまえ」
「えっ!?」
「俺だって一回全部を投げ出しちまってる、それなのに今こうしてる。メジロじゃなくてパーマーとして名を刻めばいい。ヘリオスと一緒に居る時のお前みたいにさ」
その言葉を聞いた時に感じた衝撃は、お婆様から激励の言葉を受けた時のような電流が身体を突き抜けた感覚だった。ヘリオスと共に居る様な自分、本当の自分らしく、何物にも縛れないような自由な自分……。
「ありがとうラン、なんていうかさ―――一気に視界がクリアになった気分。アタシらしく逃げる、変なの。レースだとそうやって来てたのにそうすればいいって思うとなんかあれだね、テンアゲって奴」
「そうか」
「うん―――アタシ、メジロ家のウマ娘として頑張るよ。でもパーマーとして走る、メジロ家のパーマーとして逃げまくる!!だって、それが一番自分らしいと思う!!」
「そりゃいいな。メジロ家の大逃げウマ娘としてお互いにやっていくか?」
「あっそれめっちゃいいかも!!」
パーマーは心の底から笑っていた。重圧を力に変える、だが其処から逃げてもいい、その重圧を力に変えて逃げる。何て欲張りなんだろうと自分でも思いながらもそうすると決めた。それが自分らしく走るという事なんだと思う。
「さてと……あっやべ、パーマーそろそろ行かねぇとライアンの祝勝パーティに間に合わなくねぇか?」
「あっホントだ!?しかも今回はランのメジロのウマ娘としての顔合わせもあるから遅れられないよ!?」
「そりゃ不味い……悪い南ちゃん後任せる!!」
「はい、お任せされました」
全体的にメジロが暴れ回るクラシックとシニアになるかも。