貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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531話

「やっほいダービートレーナー」

「貴方にそう言う事言われると嫌味に聞こえるのが不思議ね」

 

ダービーも終わって熱も収まりつつあるが、次々とG1が襲い来るのがトゥインクルシリーズ。と言ってもその波も一時的に落ち着き始める頃合ではあるのだが……

 

「ジェインの様子は如何すっか?」

「疲労が溜まってる事以外は問題はないわね、私もNHKからダービーは反対だったんだけどあの子がどうしてもって言うから致し方なくよ。貴方のお陰よあの子がダービーに出られたのは」

「俺は何もしてねぇで御座いますよ」

 

ランページがしたことはたいしてない、強いて言うなればメジロ家の療養所にいるスタッフを紹介してジェインの疲れが取れるような手伝いをしたに過ぎない。と言っても矢張り過密ローテは管理主義のリギルの性に合わないらしく今後はしない方向性で行く事をインタビューでも語っている。

 

「それでフジは?」

「元気そのものよ、ダービーウマ娘になってファンが一層増えたって所かしら」

「の割に顔厳しいっすよ」

「……あの子の進路よ、これ見てくれる?」

 

差し出されたタブレット、そこにあったのはフジのローテーションに関する二つのパターン。このまま三冠路線で駆け抜けてそのまま中距離戦線か、今回で見切りをつけてマイル短距離へと舵を切るか。こんなものを自分に見せていいのかとも思うがおハナさんがその辺りを考えていない訳もないかと吟味する。

 

「……素直な事を言えばフジってどっちかと言えば短距離マイル向けではあると思います。中距離適性はそっちに比べると低いし、今度は菊花賞ですからね。あいつにそれはキツいってのはあるし確かに悩み所ですね」

「貴方もそう思うかしら、このまま菊に進ませるべきではないと思うわ。あの子に3000は長すぎるのよ」

「つっても本人的には菊行く気満々ですよねぇ……難しいですね、下手に諦めさせるとモチベ崩れるし、かといって無理させて怪我させるのもなぁ……」

 

東条が素直に資料を見せたのはこういった面があるから。トレーナーは同僚とはいえ本質的には面倒を見ているウマ娘の相手を育てている敵なのだ。故にいい顔をしないしこういう時は此方の不利を押し付けて自分の利益を優先するトレーナーもいるのにランページはそれらを一切せずに親身になって話を聞いてくれるし真面目な意見をくれる。

 

「菊だけは走らせてその後にマイルに舵切る、とかがベターな所じゃないですかね。フジ自身だってダービーウマ娘になっておいて菊を無視とかそう言うのは嫌でしょ、まあ最悪そこから天秋に修正してクラシックで天秋制覇っていうのを狙うのも手ですけど……天秋は天秋でブライアンとか出すからきついですよね」

「きついわ、滅茶苦茶キツいわ」

 

フジには悪いとは思っているが、彼女がブライアンに勝てるとは欠片も思っていない。格が余りにも違い過ぎる。チームを率いる身としては贅沢な悩みだ。

 

「あら、貴方もいずれ背負う事になる悩みよ?何せ貴方なんて何人同時にデビューさせるつもりなのかしらね?」

「大丈夫ですよその分面白いレースを見せてくれれば」

「相変わらずねぇ……」

 

「おっ?何話してんだよお二人揃って」

 

そんなやり取りを続けているとそこへ沖野がやって来た。何をしているかと言われたら困るのだが……自分は兎も角それをおハナさんにいうのは如何かと思う。

 

「此処、リギル練習してんだからおハナさんいるのは当然じゃん」

「そう言うなよ。ンじゃランページは如何して此処にいるんだよ」

「元ネメシスメンバーの脚の具合を聞きに来たって感じ」

「ああ成程」

「それにしても、貴方随分ご機嫌ね」

「あっ分かるぅ?」

「うっぜぇ……殴っていい?」

「蹴っていいわよ」

「ちょったんまたんま!!?」

 

何故沖野が此処まで機嫌がいいのか、それは当然安田記念にてスピカのタイキブリザードが安田記念を征したからである。クラシッククラスで安田記念に勝利してG1ウマ娘の仲間入りを果たしたブリザードの活躍はタイキも大喜びだった。

 

「今年はスピカの勢いもいいねぇ……こっちとしては頭がいてぇ」

「フフンッて威張りたい所なんだけど、実際の所ちょっと安心してんだよな俺。テイオーやマックイーンがドリームトロフィーリーグに移籍してチーム内の雰囲気がちょっと乱れてるっていうか、切り替えが上手く行ってねぇじゃねえかなって思ってたんだけどローマンもブリザードも勝ってくれたから凄い嬉しいぜ」

「その気持ちは分かるわ。こっちもルドルフが引退しちゃったからリギルの空気が変わった感じするのよ、まあその分フローラやハヤヒデが頑張ってくれてるんだけど……」

「えっアイツ役に立ってるんですか?」

「立ってるわよ、グラスにハリセンで叩かれることが多いけど」

 

やっぱりそうなのか、と思う一方で沖野からは何処か怪訝そうな目で見られた。思わず身体を隠すように自らを抱いてしまった。

 

「やめろ俺がなんか変なことしたみてぇじゃねえか!?」

「だったら何だってんだよ、さっきからジロジロ見やがって」

「だってお前さん、なんか落ち着きねぇなって思ってさ。なんか心配事でもあんのか?」

 

本当に何でこの男のウマ娘を見る目は確かなのか……思わずため息交じりに答える。

 

「宝塚記念の日、エアエアのデビュー戦なんだよ。だからちょっとな」

「へぇ~お前さんにもそう言うのってあるんだな」

「アンタ、この子をなんだと思ってるのよ。トレーナーとしては当然の反応でしょう」

 

それぞれから意見が飛ぶが、ランページの不安は別な所にあった……南坂にも様々な連絡を取りライスの状態は最高峰だと聞いている。だから大丈夫だと自分を落ち着かせている……そう信じているのにどうしても不安を抱かずにはいられない。

 

第34回宝塚記念……ランページは初めて、三女神に対して祈りを捧げた。無事にレースが終わるようにと。

 

『子羊君、大丈夫さ。何だったら俺達がちゃんと見ててあげるからさ』

「(それはそれで不安なんだよなぁ……これ返事くれたのがターク様だったら信頼出来るのに……)」

『子羊くぅん流石に泣くよ?毎日君の夢に出ちゃうよ?』

「(安眠妨害ZOY)」

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