貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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539話

ランページは基礎練の事をサウナと称した。我慢して我慢して、何時か解き放つ為の水風呂で最高の汗を流す為の物だと。入学、プレアデス加入から早2年、遂に自らのゲートが解き放たれる時が来たのだ。

 

「Wow……スズカ so fast……」

「そんなレベルじゃない、何あのスピードって……!?」

 

まるで自分の身体ではないかのようだった、これまで何度も走ってきた。それこそ数えるのもばからしくなるほどの数を走り続けてきた。だけどそれは自分の走りなどではなかった、意図的にダウングレードさせた走りであって本来の実力を発揮出来ないものだったのだと強く思い知らされる事となった。

 

「これは……これがサウナという言葉の意味か」

「素敵じゃない、あの顔」

 

実の所不安な事もあった、2年の間してこなかったが故に出来ないじゃないかという不安が。だが自転車と同じで出来ない訳がなかったのだ、自然と自分の身体はその走りをしていた。用意されたゲートの中で静かにそれを待ち、開け放たれると同時に自分は疾風になっていた。

 

「気持ちいい、最高っ―――凄い、楽しいっ……!!」

 

風と一つになっているかのような高揚感と陶酔感が身体中を駆け巡る、全身に漲る力、幾ら走り続けていても脚が垂れる気がしない、脚に疲れを全く感じない。これがあのサウナの意味だったんだと気づけたとき、スズカは心からの笑みを浮かべた。そしてコーナーへと差し掛かった時だ、そこへ丁度ランページが姿を見せたのだ。

 

「許可する、今まで我慢したんだ思いっきりやってみろ!!」

「はいっ!!!」

 

トップスピードを維持したままコーナーへと突っ込んでくスズカ、このままでは普通に考えれば曲がれない筈なのに―――スズカは曲がった。

 

「WOW!!スズカちゃんナイス~!!峠を走り込んだ甲斐があったわね!!」

「おいおいおい、狂ってるぞあのコーナリング……くっそぉ俺も走りてぇなぁ……!!」

 

トップスピードのまま走り込みながらもワザと蹄鉄をスピン一歩手前まで持って行ってその挙動を重心の移動で制御しつつ遠心力に逆らいすぎる事もなく前へと突き進みながらもコーナーを攻める、しかしまだまだそれが甘いのか少しだけ身体がふらついたがピッチで対応、要練習だなと思いながらも遂に出来たコーナリングに感動の雷に打たれたままコーナーを抜けていった。

 

「出来てる、あの峠の走りが出来てる!!」

 

 

「なんで判断基準が峠なのかねぇ……これも俺のせいって事になるのか」

 

コーナーを越えていったスズカを見送ったランページは溜息交じりに思案する。スズカの基礎練の成果は抜群、そしてずっと練習していたドリフト走法も完成が見え始めているのが分かる。今まで何故失敗していたか、それはコーナリングでのスピードの維持が如何しても出来なかったせいだと理解出来る。

 

「にしても想定以上に速くなってんなぁ~……基礎練ってばやっぱり偉大ね」

 

そう思いながらもエースの下へと合流しようとしたのだが、何故かルドルフやラモーヌにも囲まれることになった。マルゼンスキーはにこやかにこっちを見ている。

 

「ランページ、今のスズカの走りは一体、何だ?」

「何って言われてもスズカの走りとしか言いようがないっすよ、強いて言えば俺が封印したスズカ本来の走りです」

「本来、だと……つまり彼女は元々あんな走りをするだけのポテンシャルがあったと?」

「違うわね。貴方がそうするように仕向けた、違って?」

「流石ちゃん先輩、冴えてる~」

 

本来の走りというが今日まで丹念に基礎を磨き続けたからこその今があるのだから何とも言えない、だがこれでスズカには十二分な脚と足腰が備わった。これからは本格的に自分の愛弟子として様々な事を教えられるのだから嬉しいもんである。

 

「ランページさん見てくれてました?」

「見てました見てました」

「如何でした?」

 

此方へとやって来たスズカはウキウキうずうずし続けている、耳も小刻みに動いており尻尾も揺れている。誰が如何見ても褒められ待ちなのがよく分かる。吹き出しそうになるのを抑えながらも評価を出す。

 

「よく、我慢したな。正直此処まで素直に我慢し続けてくれるのは意外だったわ。峠に連れてった甲斐もあったってもんだ……どんな気分だ?」

「最高でした!!」

「ならばよし!!」

 

笑顔で答えて来るので本気で頭を撫でてやる、だがまだこの程度で最高だと言われては困るのだ。

 

「スズカ、ハッキリ言うがお前はにはまだ上がある。コーナーリングで僅かに失速したな?これからはそれらについても練習を解禁していく、そして本格的にお前に俺の走りを仕込んでいく。俺の技術をお前の物にしてみろ、どうせだ俺を越えてみろ。俺よりも速くなってみろ」

「なります。必ず」

「御綺麗な面で生意気な事言いやがって、まあその意気だ。今度は俺が隣で走ってやる、今の段階でどこまで俺に着いて来れるかを試してやる」

「はいっ抜きます」

「気が早いわ小娘」

 

そんなやり取りをしながらもターフの中へと入っていく二人を見送った一同に背後からスーちゃんが歩み寄って微笑んだ。

 

「良い顔してるわね~ランちゃん」

「お婆様、見ておられたのですか?」

「まあね~スズちゃんか、楽しそうに走るわね。ああいう子は伸びるわよ、笑顔を絶やさずに何処まで行けるのか楽しみね」

「全くです」

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