貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

542 / 636
542話

「だぁかぁらぁバカかテメェは!!俺は配信でもインタビューでも確りと言ってたよなぁ!?今ネットで検索してみろ、俺の名前でシンザン鉄に関する記事なんざ幾らでも出てくんだぞボケ!!」

 

職員室で怒声が響くのは別段特別珍しい訳ではない、トレーナーは指導者であると同時にウマ娘達を守る壁としても動かなければならない。此方の都合を考えない取材陣や迷惑なファンに対して感情が高ぶって大声を出すなんてよくある事だ。なのだが……今回の声は特に響いていた。その声の主はメジロランページだった。

 

「デモも抗議もパレードもねぇんだよ!!こっちは十二分に情報を公開してんだよ、それなのにガン無視して俺が使ってたからそれで強くなれますぅなんてバカ丸出しで怪我させてんのはテメェの方だっつってんだダラズ!!!」

 

「今日のは随分と荒れてんなぁ……チェックはまだお願い出来そうにねぇな」

 

周囲の新人が怯えている中で唯一平気そうな顔をしているテイエムオペラオーの担当の和多トレーナー。ランページとは先輩後輩ではなく同僚として接している数少ない人物、そんな彼から見ても此処まで荒ぶるのは珍しく思えた。書類のチェックをお願いしたかったがしょうがないので坂原にお願いする事にした。

 

「今回随分と荒れてますね、何かあったんですか」

「君も聞いといた方が良いかもね、シンザン鉄についてどう思ってる?」

「シンザン鉄ですか、いやまあトレーナーの教本とかでも見ましたけど……素直に言えば使わせるべきものではないですよね。使うにしても十分な注意と使い方をちゃんと練習した上で使う物、言ってみれば車みたいなもんですよね」

「僕もそう思うよ」

「だけどそう思わないバカがいるんだよなぁ……」

「おおっ上ちゃん先輩」

「何その桃ちゃん先輩みたいな」

 

一先ずランページが荒れているのはそのシンザン鉄が関わっている。ランページが現役時代の強さを確固たる物にした要因の一つとしてシンザン鉄が上げられる、これは当人が認めている上に配信でもそれらについて言及した事もあるが同時にシンザン鉄に対するリスクにも警告を発している。

 

「シンザン鉄はそれこそ正しく使えば怪我のしない走り方が身に染みて行くから結果的に身体は強くなる、だけどその為には最低限の強さが求められてくる。カノープスとかだとかなり段階分して取り入れてたって話だし、本来のシンザン鉄よりも軽い物しか使えない子も多いんだってさ」

「確か元々のシンザン鉄を使えるのってイクノちゃんにライスちゃん位じゃなかったっけ?それ以外の子は軽量タイプだった筈」

「それでも普通の蹄鉄の数倍重いけどねぇ」

「らしいですね、でそのシンザン鉄が何か?」

「それを真似て重量トレーニングを課したトレーナーが居て、担当が屈腱炎になったんだってさ。その文句を言ってきたんだ」

「―――はっ?」

 

そんな声が出てしまうのも当然だ。余りにも愚かすぎて頭痛が起きる程だ。

 

「……そのトレーナー、バカなんですか?」

「バカだよ、しかもなんかランの奴を訴えるとか抜かしてる」

「いや勝てる訳ないじゃないですか」

「だから脅しと見てるけど、彼女にそんな事を言った時点でアウトだよ。多分今も録音してるだろうし……」

 

自分を真似て人生を壊すウマ娘がいてはいけないとランページは積極的にシンザン鉄、及びランページ鉄に関しての情報を発信し続けている。そもそもがそれ自体がトレーニングとして良い影響を与える以上に悪い影響と怪我のリスクからそれを選択するトレーナーはほぼいない。それなのにそれを鵜呑みにして担当に課した愚か者がいたのだ。

 

「そのウマ娘、大丈夫なんですかね……?」

「さあ、詳細は分からないけど人生設計が大幅に狂っただろうね」

「ったくふざけたボケが!!」

 

勢いよく受話器を叩きつけて切ったランページ。此処までキレるのはフローラ以外だとむしろ珍しい。逆に言えばフローラが怒らせ過ぎだと言える。

 

「大丈夫かランページ」

「ああ、和多ちゃんか……悪いデケェ声出して余りにもバカだったもんでよ」

「軽くだけど話は聞いたよ。シンザン鉄を真似たんだって?」

「バカみてぇな精神論信奉者だ、黒沼のオジキとは大違いだ」

 

厳しい練習を超えれば精神が鍛えられる、更なる厳しさで上を目指す、やる気と心持次第で超えられると主張する愚か者だった。しかも自分は何かを隠しているとまで勝手な言いがかりまでつけられてしまった。

 

「屈腱炎になったウマ娘は引退するらしい、前向きな事に友達を応援する為にサポートの勉強をするんだとさ」

「強い子だな……だからこそ精神論で強くしようとしたのか?」

「如何だかな……だけど今回の一件、俺は絶対に許さねぇ……俺だけなくてシンザンパイセンやシンザン鉄を使ってる奴ら全員を侮辱しやがった……」

 

ランページの瞳は深く暗い色をしていた。そしてそのまま内線を取った、その先は理事長。

 

「理事長ですか、すいませんお願いがあります。はい、はい、そうです記者会見を開いてほしいんです。俺は同時並行でお婆様とスーちゃん、ウーちゃんに声を掛けますので、ハイすいませんお願いします。悪いな和多ちゃん、俺ちょっと出て来るからチェックとかは坂原さんとか上ちゃんを頼ってくれ。二人とも悪いけど俺出て来るから後の事頼むわ、何だったらフローラに応援頼んでくれ、俺が頼りにしてるって言っていいから」

「任せてよ」

「出来ればしない方で頑張るよ」

「悪い」

 

何時になくシリアスな顔のまま職員室を出ていくランページ。自分の正直且つ自由奔放で気儘な性格、型に嵌らず己を貫くランページとしては珍しい姿に皆の注目を集めていた中で六平がつぶやいた事が職員室に響いた。

 

「遂に現れちまったか……暴君の尾っぽを踏みつけちまうバカ野郎が……」

 

その後、URAとトレセン学園、メジロ家及びシンボリ家の合同記者会見が行われ、そこでランページが今回シンザン鉄の使用による怪我人が出た事について言及した。しかし此処の場でランページは謝罪の言葉を述べるのではなく、シンザン鉄への注意と正しい理解を求め続けた。一部ではその態度が可笑しいのでは、という的外れな事を言うコメンテーターもいたが大多数は常に発信し続けたランページを肯定する意見ばかりだったという。

 

「ハァッ……疲れるな、大人って」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。