貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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543話

「ったく、なんで俺が余計な苦労まで背負いこまなあかんのじゃい……っと」

 

シンザン鉄の間違った使用によって屈腱炎を発症してしまった地方ウマ娘、そのフォローとメジロ系列の病院への移送の手続きやらその元担当トレーナーへの裁判、したくもない記者会見などなどでランページは珍しく疲れていた。この数倍は働いていた筈だが如何にも精神的な疲労が段違いで辛い。

 

「ったく菊も近づいてるってのにふざけたことしてくれたぜ……」

 

ここ数日、ランページはプレアデスの練習を見る事が出来ずにいる。坂原と上水流に任せっぱなしの状況が続いている。それも致し方ないのだが、此方だってウマ娘の一生を背負っているというに何故同じように大切に出来ないのかが理解出来ない。

 

「ハァッ……」

 

思わずハーブシガーを銜えながらハンドルを切る、今日は今日で大切な日だというのにどうしてもイライラしてしまう……スーちゃんとウーちゃんには自分は悪くないと言われたがそれでも責任は感じない訳ではない。と言っても無知なコメンテーターのように全ての責任を自分が背負う事もないのも分かっている……それでもイライラせずにはいられないのだ。

 

「ふぅぅぅぅぅっ……やれやれ、儘ならないもんだぜな」

 

そんな言葉を吐き捨てながらもハーブシガーをしまいながらもインプを駐車場に駐車し歩き出していく。今日はエアエアの3戦目、本当に大切な時期なのに自分がこんな事になるとは……彼女には謝らないといけない。と思ってレース場に脚を踏み入れた時、まだ出走前だったことに思わず胸を撫で下ろした。

 

「いい顔してるな」

 

ゲートへと向かって行くエアグルーヴの表情は悪くない、寧ろ良い。自分が思っていた以上にレース前の練習でかなりいい状態にまで持って行くことに成功しているらしい。そう思っていると背後からあれ?という声が聞こえてきた。

 

「何だ来れたのか、難しいって言ってなかったっけ?」

「ムリクリ来たんだよ、ったくこれだったらトレーナー業務の方が幾らかマシだったよ」

「お疲れさん、ほれ珈琲でいいよな」

「サンキュ」

 

そこには上水流がいた、今日は彼一人でエアグルーヴと共に来ている。坂原はチームの方とマヤに集中しているので分担しているとの事。

 

「エアエアの状態は?」

「素直な事を言うと君がいない事で不安はあった、あの子なんて特に君の事を信奉してるじゃない。だからこっちの指示なんてと思ってた」

「思ってたって事は?」

「物凄い集中してたよ」

 

プレアデスの精神的な支柱且つ絶対的な存在であるランページの不在はチームへの悪影響が懸念されたが、それが起こる事はなかった。それらを引き締めたのはマヤとエアグルーヴだったというのだから驚きだった。

 

「あの二人がねぇ……」

「だから心配してたことは起きなかったな」

「そうか、そうか……」

 

その事を聞いて不思議とランページの心中は落ち着きを取り戻していた。先程までのストレスは消え去って唯々穏やかな気持ちになっている自分が居た。自分もトレーナーとして色々と適応し始めているのかなぁと思っていると出走した。

 

「エアエアは……先行の位置か、なんか妙にマークされてねぇか?」

「この段階でもうか……デビュー戦から一気にG3勝ったから警戒されてるって事かな」

「スタート直後からマークが4人か……さあどうするエアエアよ」

 

「(フンッ……随分と弱気な布陣だな、私も舐められたものだ)」

 

マークによるプレッシャーを掛けられるエアグルーヴ、だが彼女は極めて冷静そのもので一切ペースを乱さずに走り続けている。圧こそ掛けられているがその程度がお粗末で相手の心まで見える。怯えている、自分の走りを警戒しておっかなびっくりプレッシャーを掛けてきている。

 

―――これで如何、思う通りに走れないよね……?

 

―――好きにやらせない……。

 

警戒こそされているが明らかに低レベル、腰が引けているプレッシャーなどで自分を抑えつけようなんて片腹痛い。というかシンプルにバカにさせている気がして気分が悪い。

 

『さあ間もなくコーナーへと差し掛かるが先頭はカガジネイル、そしてエアグルーヴ、だがエアグルーヴは周囲をガッチリと固められております。ハートストーン、テンペストナイト、プレミアムトークがマークを掛けてプレッシャーを掛けている。これはエアグルーヴもやり難いでしょう』

 

まあやり難い、と言えばやり難いが……素直な事を言えば煩わしい奴らがいる程度だ。だが好い加減に邪魔だ、どいて貰おう。

 

「―――本当のプレッシャーとはこうやるんだ覚えておけ!!」

 

「ヒッ!!?」

「ヒェッ……!?」

「ッ―――?」

 

『お、おっとこれは!?エアグルーヴをマークしていたウマ娘達が突然失速!!走りが大幅に乱れて居ります!!何が起きたのでしょうか問題発生か!!?そこをエアグルーヴは一気に突っ切っていく!!カガジネイルを一瞬で抜いて今先頭に立ちました!!エアグルーヴ先頭、更に足を伸ばして行くぞエアグルーヴ!!!これは凄い脚だ!!今エアグルーヴが最終コーナーを曲がって今直線に入った!!だが後続との差は5バ身はついていますでしょうか!?ここで更に突き放していく!!強い強いぞエアグルーヴ!!これが独裁暴君の下で力を付けたウマ娘の力か!!エアグルーヴ、二着以下に大差をつけて今圧勝!!!』

 

「エゲツねぇなおい……」

 

思わずそう言ってしまう程にエアグルーヴのプレッシャーはやばい。フローラとサンデー仕込みのそれらが威力を発揮したらそりゃ総崩れになったとしても可笑しくはない。呼吸の乱れは走りの中では致命的な物になる。呼吸が乱れれば精神も乱れ、そこから身体も乱れていく。重苦しい重圧で相手を文字通り押し潰すプレッシャーだ。

 

「彼女怒らせたくないなぁ……」

「同感、まあうんトレーナーとして迎えに行こうぜ」

「うい~っす」

 

「エアエアお疲れさん」

「ランページさん!?いつお戻りに、もしかして見ていてくれたんですか!!?」

「当たり前だ、可愛いお前さんのレースを見ないとかあり得ねぇよ。しっかしお前、スゲェの身に着けたな……サンデーとフローラの併せ技とか」

「いえ、私が体感した物に比べたらまだまだです。もっと磨きを掛けなければ」

「どんだけでやべぇんだよサンデーさんとフローラのプレッシャー」

「生命の危機を感じる程度には」




RPG7様よりアグネスフローラの絵を頂きました。ご興味ある方はどうぞ


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