「……」
ターフを観察するランページ、自分達が走る舞台であるターフは常に整備されている。と言ってもレースの激しさなどによって良バ場に整えられてもそれを維持することが出来ずに土埃が上がるという事も珍しくはない。こういう事をしている本人、ランページだって自らの身体の頑強さとパワーに物を言わせて、芝を貫いて下の地面を捉えて走る事だってある。
「あいつ、だんだん俺に似てきてるな。喜んでいいのやら……」
日々成長を続けているプレアデスの面々、世間では秋のG1戦線の波が強くなる一方だが自分としてはチームの皆の成長の方が嬉しく感じるのだからすっかりウマ娘からトレーナーへと変わっているなと実感せずにはいられないのだから不思議な感覚がする。
「ランページ、此処にいたのか」
「上ちゃん」
「大丈夫かい、なんか疲れてるけど」
上水流がやって来た、色々と対応している為か何処か疲れたような顔をしている自分を労うように自分に上着を着せてきた。
「すっかり秋だね、寒くなってきたんだからちゃんと上は着といた方が良いぞ」
「何だい随分と紳士じゃないか」
「俺は何時だって紳士だよ、似非だけどね」
「似非かよ」
「似非でも誰かに紳士的に対応出来る事は変わりないし、懇切丁寧は基本だろ?」
「ハハッそりゃそうだな、そういえばこの前の秋華賞見た?」
「見た見た」
思わず笑いが込み上げてきてしまった秋華賞、内容としては中々の物だったのだが解説として呼ばれていたのがオークスに引き続いてターボだったのだが、もう一人の解説として何とラモーヌが来たのである。
『……つまらないわね、あそこで仕掛けないのね』
『そうだね~あそここそ抜きに行くタイミングだったのに、いやでもその代わりにコース取りは良くなったね』
『そうではあるけど、その分後ろとの差がかなり狭まってるわ。攻めずに勝てる程G1は甘くない、貴方もそれは分かっているわよね?』
『ターボは常に攻めの走りだからね』
『そうね』
そんなやり取りがレース中ずっと行われていたのだ。図らずも超上位からの視線でレースを見るラモーヌとそれらよりも下だがレースを走っているウマ娘の意図を読み取るターボの体勢が出来上がっていたのである。
「ターボに解説者としての才覚があるなんて、昔の俺に言ったら絶対に信じられねぇだろうな」
「良くも悪くも幼い印象が強いからね。そこからのドッカンターボのギャップが面白いけど」
「確かにな」
「何か、不安?」
そんな話を唐突に壊すように問いかけられてランページは口を紡いだ。それを誤魔化すように自然とハーブシガーを銜えてしまった。最近吸う量が増えてきて主治医から自分のメンテナンスも忘れないようにと釘を刺されてしまっている。
「明日はいよいよ菊花賞、マヤにとって一生の一度の舞台が終わる……不思議なもんだよな、俺は自分が走ってる時は何ともなかったんだぜ?だけどあいつらの事だって思うと不思議と感じられる……暴君の牙も丸くなっちまったかねぇ……」
「丸くなったんじゃないよ、使い方が変わっただけさ」
上水流はランページの肩に手を置きながら続ける。
「君は現役時代には基本的に自分の為に走ったんだろう、それは尽きぬ事無く己の為に。それが誰かの為に走るようになって誰かを思うようになった。自分だけに迷惑が掛かるならいいけど他人の人生を背負う事を強く認識するようになったんだよ」
「そうか、あいつらの人生、か……」
シンザン鉄の誤用によって人生が大きく変わってしまったウマ娘がいた、彼女とも面談を済ませてきた。彼女は自分の事を責める事なんてなかった、寧ろ自分の使い方が悪かったのだと頭を下げられてしまった。自分がシンザン鉄さえ使わなければ君はそうならなかった、そうは思わないのかと尋ねた。
『思わないって言ったらウソになりますけど、私は貴方の走りに夢を貰ったんです。夢って不思議ですよね、夢を見てる時はもう無敵!!って感じでした、だから今も私は無敵です。ちょっとミスってコースから落ちちゃっただけです、またコースには上がりますし上がれます』
自分が思っている以上に彼女は強かった。だから自分は彼女をメジロ系列の最新治療が受けられる病院への転院手続きもした。自分なりの償い……いや唯の自己満足だ。今回の一件で改めて他人の人生を背負っている事が自覚出来た。
「上ちゃんは怖くねぇのか?」
「勿論怖いさ、自分の脚が逝くのだって怖いのに誰かの人生がなんて考えたらもう怖く怖くて……でもさ、だからこそ夢って凄いって思わない?俺がトレーナーを目指したのはG1を取ったウマ娘のレースを見て、その後にトレーナーと抱き合ってる姿を見たからなんだよな」
空を見上げた、夕暮れから夜になりつつあるので星も出始めている。
「ホント嬉しそうでさ、キラキラ輝いてて……誰かと一緒に夢を叶えるって本当に凄いんだろうなぁって思って俺もそんな風になりたいって思ってんだよ。言うなれば俺の夢だって自己満足の果ての物だから何も言えないけどさ……」
「んじゃそれが上ちゃんの夢か?」
「実際トレーナーになって変わった。リアルになって夢が変わるなんてよくある事じゃん?」
確かに良くある話だな、それじゃあ一体どんな夢が今の夢なのかと尋ねてみると上水流は本当にいい顔で言ってのける。
「君と最高のチームを作り上げる、とか如何よ?」
「……なんだそれ、口説いてんのかい?お前なんて南ちゃんに比べたらまだまだだぜ」
「あの人と比べられると辛いんだけどなぁ……やっぱり君の中だと一番いい男は南坂さんか」
「んっ~仕事でのパートナーだとこれ以上ない男だったからな、上ちゃんもそれを目指してみな」
「ハードルたっけぇなぁ……」
クスクスと笑いながらもなんだかんだ言いながらも自分は上水流の事はいい男だとは思っている。何せ自分に本気で告白して担当トレーナー娘に頼むほどなのだから、そんなトレーナーが随分と男らしくなったものだ……。
「さて、それじゃあ明日に備えるとしようかな?」
「エスコートしましょうかお嬢様?」
「やめてくんね、上ちゃんにお嬢様呼びとか鳥肌止まらねぇわ」
「怒っていいよねこれ」
「マヤ。俺から言う事なんざ一つもねぇんだが敢えて言おう―――勝って来い!!最高の舞台で思いっきり笑ってきな!!マヤノトップガン、発進を許可する!!」
「うん、行ってくる!!マヤノトップガン行きます!!」