遂に達成したクラシックG1制覇、一生に一度しか出走が出来ない舞台を制する事を夢に見るウマ娘とトレーナーは数多い。マヤも同じだ、漸くこの舞台に立つ事が出来た、それが堪らなく嬉しくてしょうがない。
「トレーナーちゃぁん!!マヤ、マヤやったよ~!!」
「ああ、ああ見てたよ、見てたよマヤ……本当に凄かったよ!!」
何時もは冷静な坂原も今日ばかりは涙をその目に溜めながらも嬉しさに悶えるように言葉に詰まってしまっていた。だが菊花賞を制覇したともなればこの喜びも当然だ、最も強いウマ娘がなれるという菊花賞ウマ娘。速さでもなければ運でもない、純粋な強さが物を言うとすら言われるこのレースを制したマヤは強さの称号を手に入れたと言っていい。そんなマヤだがインタビューでとある記者団を見つけるニコニコ笑顔でそちらへと向かって行った。彼らは期待に胸を躍らせるのだが―――
「どう?これでランページさんがトレーナーに相応しくない訳がないよね」
記者団が凍り付いた。その記者団は雑誌でメジロランページトレーナー不向き説やら矢張りいきなりチームトレーナーになるべきではなかった、現役を続行するべきだったなどなどの記事を書き続けていた。ランページ的には内容を見ればそこまで酷くはない上に調べる事はちゃんと調べているし、典型的な題名で釣って内容で納得させる物だったので気にも留めていなかった。
だがしかし、マヤからすればそれでも気に入らなかったことは確かだったのか態々目の前にまで来てそういったのだろう。それを見てランページはあ~あ、上水流はあっちゃぁ……、坂原はあらら、と言いたげな顔を作っている。そして凍り付いてる記者にカメラが向けられそうになったのだがそれをしようとする記者団にマヤが視線を向けた。
「貴方達にこの人たちを貶める資格はないよ。マヤ知ってるよ、この人たちの記事と違って何も調べずにランページさんに上ちゃん、トレーナーちゃんの事を貶めてるもんね、訴えたら勝てるって言われる位には書いてるもんね♪」
「あっマヤ、この前俺の専属弁護士が休みにお前にあったって言ってたけどその時なんか相談してたのかよ」
「うんしたよ♪だってマヤだってランページさん達に守られるだけじゃないんだもん♪」
「頼もしくなったねマヤ」
「あれはふてぶてしくなったって言うんじゃないかな……?」
以前の合宿でタマにランページに守って貰うだけではなく自分で守れるようになれと言われたから実践しましたと言わんばかりの事を連発するマヤ、いつの間にか強かになっている教え子にトレーナー陣はコメントに困ってしまう。
「え~っと……あ、あのマヤノトップガンさん勝ったご感想は……?」
「とっっっっても嬉しいよ!!やっと此処に立てたんだもん!!この後のウイニングライブも楽しみにしててね♪マヤがセンターで最高のライブをするから♪」
先程の姿から一転して無邪気な幼い少女という様相へと変貌する、凄みが引っ込んで可憐さと愛らしさを全力で前に押し出した動きと仕草、声と表情に誰もが心を掴まれる。
「成程、これが変幻自在か。タイプ一致で色んな人に刺さるってか」
「残念ながら変幻自在は下降修正されました」
「ボクのゲッコウガどう活かそうかなぁ……」
「此処で話す話題じゃねえよ」
「「君が始めた話題だろ」」
「ナイフで手刺すぞ、どえらい声出しながら」
そんなこんなでマヤの菊花賞は大々的に報道された。何せ唯の勝利ではない、大逃げで3000を走り切ってので勝ち切りは第20回を制したハククラマ以来の快挙、加えてのレコード勝ちなのだからこの大騒ぎも当然と言えば当然なのだ。独裁暴君たるメジロランページと同じ大逃げでこの勝ち方、大逃げは既に一か八かのギャンブル戦法という認識を変えつつある。
「いやそこはそのままでいいだろ」
「君の戦術だろ?」
「普通にあればギャンブルだろ、最初から最後まで全開で走るなんて普通に考えれば無理な話なんだからな」
場所は変わりランページの家、そこにはプレアデスのメンバーが集まってパーティの準備が進められていた。マヤの菊花賞勝利を祝したパーティを大々的にやろうと思ったのだが、マヤは自分の家でやって欲しいと言ったのでホームパーティをする事になり、ランページはキッチンで腕を振るっている。上水流もその手伝いをしている。
「大逃げは言い方を変えればド派手な消耗戦なんだぜ?最初に思いっきり逃げれば当然相手は焦って競ろうとするか仕掛け所に悩んで仕掛けに失敗する、それかスタミナを使い果たしてバテバテ。それで勝つのが大逃げ、俺みたいに最後まで行ける方が可笑しい。じゃなきゃ心身ともに使い果たしちまう」
「まあ、そうか……君を見て俺もなんか勘違いしてたか」
「要するに疲れる前に逃げ切れなきゃ後は運頼みって訳だ」
大逃げの再評価などと世間は賑わっているランページ的には大逃げはしない方が良いとさえ思っている。出来るのならばすればいい訳ではない、大逃げはそれこそ適正がなければしてはいけない走り方だとすら思っている。
「というかさっさと手ぇ動かそうぜ、ウマ娘が何人いると思ってんだよ」
「あ~そうだった……現実逃避もいい加減にしねぇと……」
「なまら美味しい~!!」
「ちょっとスぺちゃんそのコロッケ私のデース!!?ああ~っ待ってスぺちゃんそれ私特製ソースを馴染ませて―――」
「かっらああああああああああ!!!???」
「凄いスぺちゃんの火炎放射~!!」
「言ってる場合じゃないわよウララさん!?お、お水よお水!!」
「エルコンドルパサー、お前一体何を掛けて食べてんだ!?」
「ハリッサデース!!!これデース!!」
「What!!?ヘルカラー!!?」
「うわぁっ見てるだけで口の中が……あむっ――――からぁああああああああ!!!???」
「ドーベル!?どうしてお刺身を食べて火を噴くの!!?」
「ギャハハハハハッ!!!俺がドーベルのマグロにハリッサを掛けたからに決まってんじゃねえか!!」
「ちょっとステゴアンタ何やって―――ああああああっ私のステーキ巻くためのサニーレタスにもハリッサがぁぁあ!!?」
「大惨事過ぎるわ……マヤさんのお祝なのに」
「ううん賑やかで楽しいよ!!」
「そうだねマヤ」
「あんな風に騒いでる訳だし」
「何あれ、地獄か何か?」
最早とんでもない事になっているランページ宅。だがそれでもランページは笑顔のままだった、そんな彼女の笑顔を独り占めするのも悪くないなと思っている上水流。
「さてと、俺特製ハンバーグの上がりぃ!!」
「こっちも出来たぞ、菊花賞勝利記念マヤ専用F14型ケーキ!!」
まだまだプレアデスの騒ぎは収まりそうにない。