余りも唐突過ぎる言葉にトレーナーが集まる職員室の時が凍り付いた。凍り付く事は別に珍しくないのだが今回ばかりは全く性質が異なるのだ。
「なあ上ちゃんちょっとお願い聞いてくれね?」
「お願い?俺でよければ聞くよ、何でも言ってくれ」
「んじゃ上ちゃん、俺と結婚しようか」
「―――えっ?」
余りにもいきなりすぎる求婚、言い換えればプロポーズ。普通ロマンチックな場所だったりムードでする筈のそれを職場の真っ只中、仕事中の中でそれをしたランページを全員が見つめていた。
「えっいや、ごめん今なんて……」
「上ちゃん結婚しようか、俺と」
「普通にもう一回言ったぁぁぁぁぁ!!!?」
「何もう一回?いやしんぼめ、結婚しようか」
「そうじゃない!!?」
肝心の上水流は顔を真っ赤にして狼狽えてしまっている、それも当然だろう。過去に告白された経験はあるらしいがこんなよく分からないされ方は経験ないだろう。
「いやいやいやランページ貴方いきなり何言ってるの!?結婚って言うのはお互いに好き合って幸せの絶頂って時にするものなのよ!?それを貴方何そんな軽く……!!?」
「あれま、おハナさんってば意外にロマンチストなのねぇ~……つっても俺のそれが許されるのかは別問題っしょ、俺は世界最速最強な暴君メジロランページだぜ?どっかでデートやら何やらしてたら色々騒がれて面倒な事になってメジロ家だけじゃなくてこのトレセン学園にも長期的に厄介事を抱え込ませることになるんだぜ?だったらさっさと結婚するのが一番じゃん」
東条の言葉は一般論としては正しい物、普通ならばそうするのが一番ベター。だがランページの場合は立場が許してくれる事は無いだろう。未来からのお告げではアラブ辺りの首長陛下の息子からも求婚されるらしいし、そんなバカでかい立場から求婚されるのは正直面倒なことこの上ない。
「というかお前上水流でいいのか!!?俺てっきり南坂とくっつくとばかり思ってたぞ!!?」
「同じくぅ!!」
沖野と佐々田の言葉にほぼ全員が頷いた。ランページと言えば南坂、この二人は切っても切れない強い絆で結ばれた二人、結婚するならば絶対にこの組み合わせだろうと思っていたのに……そんな視線を一斉に浴びる南坂だが、その答えは
「ランページさんですか、う~ん……」
「南ちゃんか……う~ん……」
「「結婚相手としては見れない……ああっやっぱり?」」
『やっぱり相性最高じゃねえか!!?』
ランページと全く言葉を口にした為に周囲から一斉にツッコミを受けた。が、南坂は能面のように表情を変えることなく言い返す。
「いえ、それはあくまで担当ウマ娘とトレーナーとしての関係やトレーナー同士としての相性であって男女としての相性は全く別の物です。正直な事を言いますと仕事で相手をするのはいいですけど私生活でお相手をするのは少々辛いです」
「同じく~南ちゃんってば先読みとか色々スゲェからこっちも合わせるの結構キチぃんだよ、それこそ現役時代とか出来た話だから、家庭でもそれを求められるとか勘弁だわ」
「同意見なようで嬉しいですよ」
「応、流石だよな俺達」
目を見てこれを言えているのだから本当に二人の間の信頼関係は不思議だ……かと言っても何故上水流なのかという疑問もある、それは上水流自身が一番聞きたい所だろう。
「じゃ、じゃあ貴方は
「既に熱烈な告白を貰っちまってるからな、最初から結構意識してたぜこれでも。そっから徐々に色々だな、家にまで来てくれた時辺りから少しずつ変わってたかねぇ」
ランページ的には彼の事は好いている、南坂以外ならば彼しかいないと断言できる程度には好いているし女として相手をする事も受けいれる事も出来るだろう。
「それに俺は告白の返事を正式にしようって思っただけだよ、初めて会った時の返事をな」
「は、初めてって―――」
『君の走りに惚れました!!お、俺の担当ウマ娘になってくれませんか!?』
「い、いやあれは―――!!!」
「今更逃げるなよ上ちゃん、好きだぜお前の事」
軽い水音が職員室に木霊した、突然且つ大体な行動に誰もが呆然とし女性トレーナーは顔を赤くし、男性陣は顎が外れそうになっていた。上水流とランページの距離がゼロとなっていた。
「―――っ……俺、なんかじゃ、君とは……」
「釣り合わない?世間のバカ共の好き勝手な感想だな、結婚ってのは共に生きていきたい者同士が一緒になる事だろ、それに俺はメジロ家を継ぐ立場じゃねえし好き勝手なランページさんよ」
「俺は、苦労するよ……」
「きっと俺の方が苦労させるぜ」
必死に、言葉を紡ぐ。上水流もランページの事は好いている、いやそれ以上の感情を抱いている。だが自分では絶対に幸せに出来ないと思って断ろうとしているのだろうが……ランページからすればそんな事では諦める理由にはなり得ない。
「喧嘩、するよ……?」
「喧嘩しない夫婦なんて居ねぇだろ、その後にもっと仲良しになればいいんだよ。雨降って地固まる、喧嘩する程仲が良いってな」
「それに、それに―――」
「何だい何だい、上ちゃんは俺が嫌いってか?」
「好きに決まってるじゃないか!!」
「ならいいじゃん、簡単な理由で良いんだよ家族になるなんてな―――俺の家族になってくれ」
上水流だけに見せる瞳の奥、何処か寂しさと切なさを孕んでいる。どうしようもなくその瞳をもうさせたくはなかった、もう彼女を一人にさせたくは無くなって……いつの間にか抱きしめていた。
「君を不安にさせない……そうしてみせるよ」
「嬉しい事、言ってくれるじゃないの……俺のファーストキス、大事にしてくれよな」
「―――」
「ど、どうしたのフローラ!!?」
「どうしたのって、何が?」
「な、何ってそれ!!」
「だから何って……あれ、何で私」
フローラは友人と共に居た、その友人に言われて気付いた。自分が涙を流している事に。その涙は止まる事もなく溢れだし続けた。滝のように流れだす涙にフローラは―――不思議と胸の中に生まれた悲しさと嬉しさを感じていた。
「どうしてなんだろうね……急に、悲しくて嬉しい事が起こったよ……なんでだろうね……アハハハッ……ハハハハハッ……!!」
辛さはない、ただ悲しいけれどそれ以上に嬉しさが胸を貫いているのだから……ああそうだ、自分にとって至上の喜びとは―――あの人の幸せなのだから。
「お幸せになってください、ランページさん……あれ、どうして……まあ、良いか……理由なんてないよね、幸せを願う気持ちに……」