「ぎょ、仰天!!?結婚とな!!?」
「うっす。トレセン学園って職場結婚とかに制限ってありましたっけ?」
「あ、ありませんけど……待ってください少し落ち着く為の時間をください!!」
職員室でのプロポーズ後、ランページは上水流を伴って理事長室へと乗り込んだ。そこで上水流との結婚する旨を報告したのだが、当然理事長とたづなはこの報告に大慌て、どうしていきなりそんな事になったのか、職員室でプロポーズでもしたのかと言われつつも経緯を説明すると驚きながらも二人は落ち着きを取り戻し始めていった。
「な、納得。確かに君の影響力を鑑みれば各界の重鎮がどうしても取り込もうとするのは必須、ならばその前に結婚を……だが幾ら何でも即断即決過ぎないか?」
「即決即納即刻即急即座即時即答、それが人生という時間を有意義過ごす為の物理的有効手段であり今俺の未来に降りかかるであろう問題を現段階で解決する策なのです」
「……いや、言葉でも世界最速にならなくても……」
「真面目な話をすれば俺がメジロ家を継ぐとかあり得んし俺みてぇなのがそう言うのに入るっていうのは色々と問題があるしかと言って俺の人生は俺の路で俺の選択でしかあり得ない訳だから」
「ングッ!?」
ランページは強引に上水流の唇を奪って見せる、それに理事長は声を上げ、たづなは顔を赤くしながら頬に手を当てた。
「俺は俺が一緒になりたい人と一緒になる、それだけの事です」
「……あの、こういうのって男がするもんじゃないかな……?」
「ハッハッハッ知らないのか上ちゃん、英国だと愛に本気を出すらしいぞ」
「ここ、日本なんですけど」
「うん知ってる時ぶっちゃけ英国の文化とか知らん」
「じゃあなんで俺今キスされた!?」
「したかったから」
「あっはい、そうですか……」
離れながらも口元を抑える上水流、サラッとあの一瞬で舌をねじ込まれて触れ合ってしまった。正しく電撃が走る感触だった……これは絶対に忘れらないだろうなぁ……と思いつつも名残惜しそうに口元から手を放す。
「と、兎も角り、理解は出来た……うむ、そう言う事ならば我々は祝福するだけである!!」
「そうですね、驚きましたけどおめでたい事には変わりませんからね。おめでとう御座います」
「それで式などは如何するつもりなのだ?」
「あ~それについてはお婆様とかに相談して秘密裏に挙げておこうと思います、世間的にもトレセン的にも」
それを聞いて二人は真面目な顔になり、上水流も理解を示した。ランページは良くも悪くも世界的に有名になり過ぎている、その行動全てが目を引くと言っても過言ではない。そんな自分が大々的に結婚します、相手は同僚ですなんて言ったら大騒ぎになるし批判やら面倒な事も大量にある。
「何処とは言いませんが絶対にマスゴミ共は上ちゃんの家族やら友人、実家の周辺住民の方々に無差別に取材やらをするでしょう。ンな事して迷惑をかける訳に行かないしそれだったら最低でもサッサと籍を入れちまったほうが楽ですし、チームの皆の事もある」
「あ~……プレアデスは皆君に憧れてるからなぁ……それが結婚ってなったら色々と問題があるな……精神的な揺らぎが確実に起きる」
「そっ、言うにしてもこの時期に言う事じゃねぇよ。言うなら夏か冬の二択だな」
トレーナーはそれこそウマ娘に寄り添う存在だ、家族から離れている彼女らにとってトレーナーという存在は世間的に思われている以上に重い。言うなればもう一人の家族だ、そんな家族が結婚という話を聞けば確実に不安定化する。
「フム、ではどうするのだ?」
「まあ取り合えずはお婆様に俺の方から報告しつつ策を練りますよ。いざとならば俺の全力で敵を潰せばいいだけの事だ」
「全く敵に回すと恐ろしい人だよ君は」
「そんな俺は嫌いかい?」
「舐めるな大好きだよ」
そんな言い合いをしている場面を見ると秋川とたづなは南坂とのコンビが一番だと思っていたが、この二人の組み合わせも相当に良いのではなかろうという結論に落ち着いたのであった。
「んじゃこの辺りで……」
「おっと上水流トレーナーは残ってくれたまえ、恐らく君はこれから大変になる恐れがあるだろう。故に此方でサポートの態勢について話しておこう」
「そうしてくれると助かります……あのそれと理事長、テーブルマナーとかって分かります……?」
「うむ任せておくといい!!」
「お相手がメジロ家ですもんねぇ……」
一先ず先に理事長室に出てハーブシガーでも吸おうかなと外をぶらついていると三女神像の前で項垂れているウマ娘を発見した。その顔色は土気色で相当にやばそうな雰囲気を感じたので声を掛ける事にした。
「よっどうしたいこんな所で、神様にお願いごとかい?」
「……ぁっランページ、トレーナー……」
「すっげぇ不健康そうな面してるぞお前さん、飯食ってるのか?」
「……」
顔を伏せて、自分の視線から逃れようとする彼女。既視感がある、と言ったら差異がある。自分が自殺を図った時、似たような顔色をしていたのを朧気に覚えている。
「私、勝ててないんです……メイクデビューから負け続けて未勝利戦も勝てない……このまま、ずるずると負け続けて、此処を離れないといけないんじゃないかって……」
不意にした言葉に納得する。煌びやかなトゥインクルシリーズだが、その実は強者が輝く弱肉強食の実力社会だ。負ければ、そのまま終わるのがこの世界だ。
「それで三女神さまに勝てますようにって御祈りか」
「……貴方には分かりませんよ、勝ち続けた貴方には」
「応分からねぇよ」
嫌味のつもりで言った言葉をランページは否定する事もなく真正面から受け止めた上で逆に握り込んだ、そのウマ娘はランページの顔を見た。
「俺は俺の事しか知らねぇよ、それが人間、ウマ娘って生き物だ。他人同士は分かり合えるなんて軽々しく言ってる奴の方が俺は信じらねぇな、分かり合えていたとすれば世界はもっと歌のように優しく、美しく出来てる筈だからな」
「……私は、芝で走りたい、でもその才能がないって言われた、でももう私には道がない……もう足掻くしかないんですよ、もう救いなんてないけど走るしかないんですよ!!でも、走るのが怖いんですよ!!!もう、負けるのが怖い……!」
絶対勝者として君臨したランページ、彼女には自分の気持ちなど分からぬ。そう彼女は叫んだ、自分の歩んだ苦難の路の辛さなど。
「救いか、お前にとっての救いは勝つ事か。それとも私がこんな風に辛いのは可笑しい、だからそれを変えろと望み、叶った時か」
「っ……!!」
妬みの視線が向けられる、自分の何が分かると言いたげなそれにランページは煙を吐いた。分かりたくもない、其方だって此方の思いを分かろうとしないのだから。
「救われたいと望むなら、変えたいと思うなら何時までもこんな所でウダウダしてんじゃねえよ。お前と同じように苦しんでる奴らもいる、お前だけが辛い訳じゃねぇんだよ。例え
「背負う物……?」
「そうだ、お前さお父さんお母さんはいるか?」
「えっ?あっはい、新潟でお米を作ってます……」
「おおっそりゃ凄いな、だったら一回顔を見せに行ってきな。そして―――そこで笑顔を作って来な、思い出をもう一度作って背負え。そうしてまた走れ、どんな思いで走っていたかを思い出せ」
「……分かり、ました……色々、いっちゃってすいませんでした」
気にするなと彼女を送り出した。彼女はこの後、一度新潟の実家に帰ったという、そして帰ってきた時にはいい笑顔をしていた。
「背負う物、か……俺には背負える物なんてなかった、だからこれから背負う。もう一度、背負いたい……家族……思った以上に、飢えてるな、俺」
そんな言葉を零した時、自分を見つめる視線に気づいた、そこに居たのは……フローラだった。
「よおっ変態、何の用だ?」
「変態じゃありません、変態だとしても変態という名の淑女です」
「……はっ」
「鼻で笑われた!?……ゴホン、お話があります」
「一対一?」
「はい」
「……」
「凄い嫌そうな顔しないでくださいよ!?何もしませんから!!……多分ああっ絶対にしませんから無言で立ち去らないでぇぇっ!!?」