「ハァハァハァッ……くっ……まだ、だぁっ……!!」
「無理すんなブライアン、だけどお前よくもまああんだけ喰らい付けたもんだな……感心したわ」
「いやぁ私も途中から冗談抜きのガチになってたよ、そのごめんね?」
ケロッとしている二人とは対照的にブライアンの疲弊の仕方は異常の一言だった。大粒の汗が滝のように皮膚から滴り落ち続け、呼吸もまともに整える事が難しく、脚に至っては言う事を聞かぬのか小鹿のように震えていた。リギルの面々ですら合宿でも見たことがないようなブライアンの疲弊具合に絶句していた。それをやったのがランページではなく実質フローラ一つなのだから尚更。
「(油断もしていなかった、覚悟もしていた筈だ、なのになんだあの息苦しさは……!?)」
ブライアンは決してフローラを侮っていなかった、寧ろ真っ向から全力で向かっていった。超ハイペースによる消耗、異常なプレッシャーが合わさっていた。それでいてランページと戦う為の体力やらは確りと確保して最後は凄まじい切れ味の末脚で迫って最終的にクビ差まで追い込んでいた。
「ブライアンちゃん分かる、海外だとこういう戦術は平気で使われるの。日本で走ってたウマ娘が海外で躓く原因がこれ、私はそれを年単位で体験して身に着けた。それでランページさんを追いかける事をブレンドしてるの」
「これは、効くな……!!」
「つってもお前、多少加減してたろ?」
「しましたよそりゃ、いきなりこんなのぶち込んだらブライアンちゃんが参っちゃいますもん」
おい冗談がキツいぞくそったれ……と思わず思ってしまった。まだ先があると言うのだから。プレアデスでの合宿ではサンデーとシンザンが居たのでガチだったし、あれはああしないと意味がなかった。だが今回はブライアンのみに集中しかねないのでレベルを落としていた。
「ブライアン、海外を目指すつもりならこいつと走りまくれ。こいつの戦術に耐えきれたらお前は確実に海外G1で走れる」
「そうか、良い目標が出来た……フローラ先輩もう一本っ―――」
「おっと」
立ち上がろうとして倒れそうになったのを受け止める、既に限界が近い。僅か一本で此処まで削るのだから改めてフローラの恐ろしさが分かる、同時にランページの異常性も浮き彫りになる。
「今は休んどけ、やるなら明日辺りにしとく事だな。休むのも仕事だしお前にはジャパンカップもあるんだ」
「だからこそ必要なんだ……海外から日本に来る奴らを迎え撃つために……!!」
実際ブライアンは今年の日本総大将とも言われている。ドイツ、フランス、アメリカ、ブラジル、オーストラリア、イギリス、ニュージーランドと7ヵ国のウマ娘が出走登録を行っている。これだけ関心を集める日本のウマ娘界、それらを跳ね退けるためにもブライアンは戦えるだけの力を望んでいる。
「私が、海外に打って出る為にも勝たなければ意味がない……!!」
「その為にも休め」
「私もこれ以上は走らないからねブライアンちゃん」
「むぅっ……ぬぅぅぅぅっ……」
先輩二人に言われてブライアンも苦虫を噛み潰しながらも頷いて休む構えを見せた。
「フ、フローラさん……」
「あっグラスちゃん、あ、あれどうしたの?な、なんか震えてない?」
「えっ何お前またなんか引かれるような事やったの」
「いややってないと思いますけど!?最近は結構真面目にやってますよ!?」
グラスは3人分のドリンクを持って此方へと駆け寄ってきたのだが、そこで脚を止めた。震えている彼女に何があったのかと思ったのだが、直後にグラスは顔を上げて明るく輝くような笑みを浮かべていた。
「やっぱりフローラさんは凄い人でした!!今までの態度をお許しください、貴方は尊敬するに相応しい人だったんです!!」
「い、いやぁ照れるなぁ……」
此処まで素直に褒められた事なんて何時ぶりだろうか、と真剣に思いながらもフローラはそれを受け取る一方でランページは微妙な表情をしていたが、表には出さないように努力していた。幾ら何でも此処で露骨な事をして空気を乱すような事はしない。
「じゃあブライアン、一先ずはちゃんと休んどけよ。それとこれ見て復習しとけ」
「分かってる……って何だこれは……っさっきのレースの映像!?いつの間に……!?」
「お前は気付いてなかったみたいだけどドローン飛ばして映像は撮っておいたんだよ、上手く使えよ。と言っても流石にドローンに勘付いてなかったのはお前だけ―――」
「そんなの飛ばしてたんですか!?私ランページさんしか見てなかったから全然でした!?」
「……訂正、こいつもだった」
「フローラさん……お願いですから私が憧れたままでいてくださいよぉ……」
そこは気付いてなかったとしても気づいた風を装えよ……とフローラに思わざるを得なかった。まあこういう所が彼女らしいと言えばらしいのだけど……。
「兎に角だ、ジャパンカップは並のG1じゃないんだから確りやれよ。フローラだってJC2勝ウマ娘だから上手く導いてやれ」
「その辺りはそのつもりですよ、私だってやる時はやりますから!!それと普段からやれるようにも努力します」
「そうしてやれ、グラスの為にも」
自分は好い加減にプレアデスに戻るとしよう……と帰路に就こうとするのだが、その前に一言言っておくことがあった、と振り返る。
「ブライアン。ジャパンカップにはマヤも出走する」
「何っ?」
「えっランページさんあれマジだったんですか!?」
「プレアデスが本気で仕上げるマヤに負けたくなかったら―――フローラに勝ってみろ、その位の気位でいないと足元掬われるぞ」
さあこれでもう逃げ道は無くなったぞマヤ。敵は最強ブライアン、舞台は海外ウマ娘も入り乱れ、国内猛者共が集う東京府中のジャパンカップ。どのような結果になるか、楽しみになってしょうがなし。
「マヤ、ジャパンカップまであと少しだ。気合入れていくぞ!!」
「うん!!花火の中に突っ込むつもりでいくよ!!」