貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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558話

「やったな、やったなランページ!!」

 

達成された偉業は日本競馬界、いや世界的にも異例且つ大偉業。双子の競走馬の三冠達成、双子であるならば普通の競走馬となる事さえ難しく、勝利する事も苦難の道であるのにも拘らずランページの初年度産駒のアマテラスとツクヨミの姉弟は牝馬三冠とクラシック三冠を同時に達成してしまった。なんてとんでもない姉弟なんだ、姉の秋華賞、弟の菊花賞揃っての勝利にメジロはお祭り騒ぎ。

 

「全く双子のG1勝利だけでも凄い事なのに、三冠だぞ三冠!!しかもダブル!!」

 

これはまたランページの繁殖牝馬としての格がまた上がる事だろう、陣営内に居たランページへの不安視論者も一掃される事だろう。オグリの次は一体誰なのかで盛り上がること間違いなしだ。

 

「ヒウゥゥン」

 

置かれたTV、その先を見るランページ。そこにはツクヨミの上で勝利を噛み締めるかのような猛 裕加騎手の姿があり、ツクヨミも嬉しそうにウイニングランを行っている。ランページはそれを見届けると歩き始めてしまった。

 

「全く、本当に分かってるのかなぁ?ってこれを言う方が可笑しいんだけどな」

 

TVに映っている物を理解しているランページ、ツクヨミがレースを勝った事を確認してもう興味がうせてしまったのだろうか。いや耳と尻尾の動きからして喜んでいる。今日は人参を飼葉に混ぜてあげる事にしようかな。

 

 

 

『勝ったか……肩の荷が下りた気分だな』

 

娘に続いて息子も三冠を達成、自分の子供の事ながら凄い事なのは分かるがツクヨミが最後に気を抜いて4馬身差を2馬身差にした事が気になってしまった。あれで負けたら如何するつもりなのか……いや鞍上も大丈夫だと思っていたのだろうが、帰ってきたらその事については言ってやらんと……まあ嬉しい事に変わりはない。

 

『お母さん、如何した?』

『何でもないぞキャップ』

『そっか、それとお腹空いた』

『俺の馬房の奴喰っていいから』

『分かった』

 

嬉しそうにパドックと直結している馬房へとウキウキと歩き出す我が子、オグリらしさをよく継承している子だが、些か喰い過ぎな気もする……後で走らせるか。

 

 

 

 

来たるジャパンカップ。世間でもジャパンカップへの関心はクライマックスへとなり、熱狂が巻き起ころうとしている。ジャパンカップは唯のG1という括りで行われるG1ではないのだから当然と言えば当然だ。今年も海外から有力ウマ娘が多数出走を決めている中で日本からも強豪がそれらを迎え撃つ構えを取っている。

 

「メジロランページさん、プレアデスからマヤノトップガンさんが出走するそうですが勝てるとお思いですか!?」

「何、クラシッククラスは勝てないとか言っちゃうわけ?目の前のウマ娘は事もあろうかと中1週でジャパンカップに挑んだ上にワールドレコード出してる訳だけど?」

 

ランページへの取材も当然ある訳だが、それは日本へ来た海外ウマ娘のインタビューに対抗する為の物だと言える。ジャパンカップを勝ちに来た、無敗の三冠を破る為に来たやら、ジャパンカップの冠なんてついでに過ぎない、ワールドレコードに挑みに来たなどなど海外ウマ娘達は盛り上がるコメントを残してくれているのでコメントを取りに来たのだろうが……ランページはそんな事は如何でも良いと言わんばかりに言い放つ。

 

「俺にとってジャパンカップの勝利とか日本の栄光とかそんなんどうでもいいんだよ、面白いレースを見せてくれて、俺達のマヤにとっては思い出に残ってくれるレースになってくれればそれでいい。俺のワールドレコード?おう抜けるならどんどん抜いてくれ、過去の記録を今が塗り替えるなんて素晴らしい事じゃないか。進歩した証拠だ、前に進んだ証明だ」

 

事もあろうかジャパンカップを如何でも良いと言い放ち、自らの栄冠たるワールドレコードさえも更新してくれて構わないというのだから記者たちは言葉を失ってしまう。

 

「但しその為の努力をちゃんとして来たか、せずにその言葉を口にしてる訳じゃなかろうな?ワールドレコードの意味を分かった上で発言してだろうな、覚悟して挑めよ、テメェらが挑むは―――世界の頂なんだからよ」

 

そう言い放った時の姿は紛れもない覇者だった。王者だった、世界を征した暴君だった。彼女は決して軽視をしている訳ではない、それが良く分かる瞬間だった。

 

 

「……」

 

控室にいるマヤは胸にかけられた勲章を見ていた。一つは菊花賞の勲章、もう一つはホープフルステークスを制した勲章。どちらもグッバイヘイローが手掛けた勲章でマヤも気に入っているが、彼女にとって一番なのは矢張りこれだ、坂原トレーナーが作ってくれた少し不格好な勲章。マヤにとってはどんなG1を制して得た勲章よりもずっと価値がある物。

 

「……不思議、全然怖くもないし緊張もしてない。なんでだろ」

 

思わず、口からそんな言葉が転び出た。事実、マヤに緊張や恐怖はなく、力みすらしていなかった。極めてリラックスした自然体のままでいられる自分がいる事に驚きを隠せなかった。同じ控室にいる坂原がそれに応えた。

 

「それはきっと今日まで万全の事をやり切ったからだよ、全力でやるべきことに取り組んで全てを達成したからやり残した事があるかもしれないみたいな不安を全部振り払えてるんだよ」

「そっか、そうだよね。マヤいっぱい頑張ったもんね」

 

今日までのトレーニングの成果を出す日が来た、ライバルだと思ったあの二人と戦うべき時が来たんだ。ナリタブライアン、サクラローレル、この二人に戦いを挑む時が来た。自分の挑戦が無謀だの無茶だのと言われている事は分かっているが、如何でもよかった。本当に今日を迎えられて嬉しさを感じている。

 

「トレーナーちゃん、マヤ―――行ってくるね」

「行ってらっしゃいマヤ」

 

最後に軽い抱擁をする。全身を包む坂原の体温を名残惜しく思いながらも一切の躊躇なく離れる。地下バ道を超えて―――東京レース場へと姿を現す。

 

『4枠7番菊花賞ウマ娘マヤノトップガンの入場です!!菊花賞では見事な逃げでレコードを達成し、本日は海外の優駿達を押し退けて5番人気です!!変幻自在の走りは今日はどう出るのか、その走りはナリタブライアン、サクラローレルと言った相手に通ずるのか!?』

 

待ちに待った日がやってきた今日この日、楽しみであるにも拘らずマヤの様子は凪の海のよう。波一つ立たぬ程に静かで穏やかだった。その姿にトレーナー達は普段の姿とはまるで違う事、今日までのトレーニングの成果がバチバチに出ている事を察して喉を鳴らした。

 

『さあジャパンカップ、間もなく出走です。7ヵ国のウマ娘がこの府中へと集いました、それらを迎え撃つ我らが日本のウマ娘、三冠ウマ娘ナリタブライアンを筆頭に凱旋門2着のサクラローレル、ヒシアマゾン、ナイスネイチャ、タイキブリザード、マチカネタンホイザ、マヤノトップガン―――名だたるG1ウマ娘が揃いました。どんな展開になるのか、日本ウマ娘の海外での活躍に続けるか、さあ今っ各ウマ娘ゲートイン完了……スタートしましたっマ、マヤノトップガン素晴らしいスタートを切りました!!一人だけポンと飛び出したかのような先頭を走ります!!』

 

「なっ!?」「そっちなの!?」

「矢張りそう来ましたか……賭けには勝ちましたが、このスタートは―――」

「マヤ、お前の走りで俺の走りなんて塗り替えちまえ!!」

 

「マヤノトップガン、行っちゃうよぉぉ!!!」

 

『マヤノトップガン素晴らしいスタート、ソイルビットも好スタートでしたがマヤノトップガンがそれ以上の絶好のロケットスタートそしてこれは―――大逃げマヤノトップガン大逃げの体勢!!』

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