「フフッいい走りだね、それじゃあこっから追い込み開始!!」
「負けるもんかぁ!!」
ターフを駆けるウマ娘、大地の上を弾むかのように軽やかな足取りで力強く走る姿には相変わらず見惚れてしまう。愛バのミスターシービーの走りには毎度ながら舌を巻く凄まじさがある。そんな彼女と共に走っているのは最近スピカへと入ったナリタタイシン。同じ追い込みの脚質を持つ彼女はシービーにお願いしてよく併走を願っており、シービーもそれを快く引き受けている。
「タイシン、もっと腕を意識して振ってみろ!!腕の振りが甘いぞ!!」
「分かってるっつの!!」
「ホラホラ置いてくよ~」
口こそ悪いが、此方の指示には確りと従ってくれるので沖野としては扱い難さを感じた事はない。寧ろ扱い易さこそあると感じていたので、他のトレーナーからのタイシンの評価を聞いて首を傾げてしまった。これも基本的に自由奔放を地で行くシービーに長年付き合ってきたからこその賜物だろうか、だとしたらあんまり嬉しさを覚えない。
「テイオーも確り走れ!!後ろから来てるぞ~!!」
「わ、分かってるよぉ!!」
「そんな事言ってる間にホラホラもうこんな所まで」
「ピェ!?あんなに後ろにいたのにもうこんな所にいるの!?ワケワカンナイヨー!!」
「おっ先~!!」
そう言いながらも一瞬で先行していたテイオーを抜いていくシービー。流石にデビューを控えたジュニアクラスのウマ娘とドリームトロフィーで活躍するウマ娘では力の差があり過ぎるか、とも思うが、その一方でタイシンがテイオーに肉薄している事に気付いた。
「タイシンが来てるぞテイオー!!気ぃ抜いてるとごぼう抜きだぞ!!」
「うわぁっホントだ!?やぁぁぁぁぁ!!!」
「逃がすかぁぁぁぁ!!!」
熾烈な接戦を繰り広げるテイオーとタイシン、負けず嫌いな気質もあるからか二人の競り合いはかなり激しい、徐々にテイオーが距離を離して行くがそれでもタイシンは必死に食らいついている。そんな様子を見てドリンクを飲んでクールダウンをしているマックイーンは新人の実力に舌を巻く。
「驚きましたわ、テイオーにあそこまで……」
「ああ、まだ中等部の2年なのに大したもんだ」
結果から言えば1着はシービー、2着はテイオー、3着はタイシン。最終的にはテイオーとタイシンの差は6バ身差程、流石にムキになり過ぎたせいでスタミナを使い切ってしまったのが原因だろうが……それでもこれから成長していく事を考えるとタイシンの末脚の切れ味は加速度的に増して行く事だろう。
「くそぉ捉えきれなかったぁ……!!」
「こ、怖かったぁ……シービーとよく走ってるけど、全然迫力が違うんだもん……」
シービーとタイシンの走りの違いはやっぱりそれぞれの性格の違い、シービーは自由を体現するようなスタイルでありながらも自己完結している。一方タイシンは相手に対して強烈な闘争心を燃やしつつも鬼気迫る迫力が敵意と共に放たれるタイプなので相手はその煽りを受ける。それ故にテイオーは怖いと感じたのだろう。
「いやでもタイシン、いいタイムだったぞ。最高タイムの更新してるしこの調子ならデビューする時には確実にG1を狙えるぞ」
「……その位なるのは当たり前だし」
「ハハッそうだな」
褒められ慣れていないかのようにそっぽを向きながらも褒められる事は嬉しいのか尻尾は揺れ動いている。
「テイオー、レースだと他の奴にそういう作戦を取るウマ娘も結構多い。だからタイシンのそれに慣れておくのは良い事なんだ」
「理屈は分かるけど……ホント鬼気迫る感じで怖いんだよ?それに慣れろって割かし酷な指示なんだけどなぁ……」
「じゃあ無敗の三冠諦めるか?」
「ヤダ!!」
「んじゃ頑張ろうな」
「むぅ~……分かったよぉ」
此方は此方で扱い易い。何だかんだで指示の重要性や意味合いを確りと理解している、後は此方が方向性を修正してちゃんと励むように誘導すればどんどん力に変えていく。
「んじゃ二人とも次はマックイーンと走ってくれ。タイシン、今度はクラシッククラスが入るが行けるよな?」
「誰に言ってるの変質トレーナー、行けるに決まってる」
「その意気だ、スタンバイ頼むぞマックイーン」
「言われずとも既に出来てますわ」
ターフへと入って走る体勢を作るとそれに続くようにテイオーとタイシンも準備を行っていく。それを見ながらも沖野の隣にシービーが立つと同時にスタートが切られる。
「お前から見てタイシンは如何だ?」
「いい子だと思うよ、脚質もアタシと同じだから可愛がり甲斐があるよ。まあテイオーがないって訳じゃないけどさ、やっぱり得意分野だから遣り甲斐が違うっていうの?」
「言わんとしてることは分かる」
現在シービーはタイシンだけではなくテイオーの指導も行っている、無敗の三冠ウマ娘を目指しているというのもあるがシービーとしてはルドルフに憧れている彼女を自分が育てて三冠にするのも面白いかな、という理由で指導を引き受けているがシービーの脚質は追い込み。先行が基本のテイオーの指導には限界がある、がタイシンの場合はスタイルが同じなので指導できる部分がかなり多いのでシービーとしてもモチベーションはかなり高い。
「んで実際問題、テイオーは行けると思うか?」
「さあ」
「さあってお前……」
指導している側がそれでいいのか、と呆れるがシービーから出てきたのは自由な彼女としてはシビアなコメントだった。
「真面目な話をしちゃうとさ、三冠を目指すのって一緒に走る同期にも大きく左右されちゃうから幾ら自分の能力を高めても結局対戦相手の事もあるから何とも言えなくなっちゃうんだよね。アタシの場合はモンスニーっていうライバルがいたからそれに負けないように頑張ってたし」
「……だよな」
ウマ娘の世界に限らないが、大記録を達成する身としてはそれと戦う相手の力量なども重要になって来る。強いライバルがいれば必然的に負ける可能性も高くなって三冠を取れる可能性はどんどん低くなる。言い方が悪くなるが三冠を取るには運の要素が大きく絡む、詰まる所相手が弱い事も重要なのである。
「だけどテイオーの同期には結構強い子が出て来るんだよね。カノープスのナイスネイチャとツインターボ、軽く見たけどどんどん強くなってるよ」
「やっぱそこかぁ……」
リギルからも当然のことなら有力な相手は出て来るが、それ以上に警戒すべき相手となって来ているのはカノープス。ランページが起爆剤となっているのか、急速に強くなっている。
「ターボちゃんは2000mなら全力で駆け抜けられるようになってる、ネイチャちゃんだってロングスパートを掛けてからの末脚が凄い。全体的にスタミナが伸びてる感じかな、それでトレーナーさんがそこを上手く戦略に組み込んでる印象」
「南坂の奴そういうの得意だからなぁ……無事是名バ掲げるだけあって基礎体力は確りつけるしそれを活用する方法も心得てる。マジで厄介だ……」
「シンプルに実力で捻じ伏せるのが正攻法かなぁ~アタシだったらそうする」
「それで通じるお前だったらな」
今更ながらおハナさんがカノープスの事をマークしていたのが身に染みて来た。チームごとの傾向で言えばリギルが管理主義による戦略とバランス、スピカが自由主義によるそれぞれの個性による特化型。しかしカノープスは基礎体力で勝負を掛ける。根っこの部分を鍛える事で戦略も個性も十二分に活きるようにメニューを組む。言うなればオールマイティ、今まではそれ故に突出した所がなく中堅どころだったのに此処に来て本気を出してきた感じになってきている。
「やれやれ、マックイーンの菊花賞も近いのに……」
「そんな事言ってたらライアンがいるから余計に大変だよ」
「わぁってるよ。だから色々考えてるんだよ」
これでもトレーナーだ、担当達の全力を引き出せるように努力している。せめて彼女らが悔いを残さないように導くのが自分の役目だ。
「はぁっ~満腹満腹♪ターボ幸せ~♪」
「いやぁ実に美味しかったね、やっぱり当たりですわ」
「実に美味でしたね、半熟な卵が堪りませんでした」
「ホントだよね、あそこまでトロトロオムライスなんて初めて……」
「ご馳走様でした!!本当に美味しかったぁ!!!」
「んっライス口元にケチャップついてるぞ、ほれ拭いてやるから」
「ふぁっ……有難うお姉様……えへへ」
「何だかんだで満喫しちゃいましたね」
そんな風に警戒されているチームは楽しい夕食を満喫していたのであった。