貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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560話

「よっラン、会いに来たぞ」

 

元気そうな愛馬に声を掛ける、それに耳を大きく立てながらも反応して此方へと小走りで来る姿に同行していたスタッフはおおっ……という声を漏らしていた。柵から顔を覗かせて自分を見つめる姿に何の変化もない、相変わらず元気で安心する事はない。相棒が元気がない事は有りえない。

 

「アマテラス凄い子だったよ。本当に君を思い出す脚を持っててさ、猛さんもベタ褒めだったぞ。乗りたかったなって言ってる位には」

「ブフゥウンッ」

 

当たり前だろ私とライアンの子だぞ?と言いたげな鼻息にはいはいと適当に返す。そんな母を追いかけてきたのは仔馬がやってきた、この子が聞いていたアイドルホース同士の子供という事で話題にもなっていたオグリキャップとの間に出来た子か。

 

「今はテイオーとだっけ?現役時代に比べたら楽なもんか」

「ヒゥゥウン……」

「ピフゥゥン」

「ヒィィウウン」

 

そんな問いへの言葉は我が子への反応でよく分った、レースとの時とは色々と違うので苦労しているらしいがそれでも精一杯に愛情を注いでいるのが良く分かる。彼女の出自を考えれば本当に育児に努力しているのが良く分かる。

 

「ごめんちょっと遅れちゃった」

「ああっ猛さん、ちょうどオグリとの子もいますよ」

「良かった会ってみたかったんだよね、そうかこの子が……」

 

オグリキャップのラストランの鞍上を務めた彼としてはオグリとの間に生まれたその子は気になって当然だろう。が同時にランページにも目が行っている事に気づいた。

 

「……乗っちゃだめかな?」

「いや流石にダメなんじゃないですかね……お腹にテイオーとの子いますし、それにランの鞍上は俺ですよ」

「だよね。ホント君が羨ましいよ」

「こればっかりは誰も譲りませんし譲れませんよ」

 

 

相棒が会いに来てくれた事は嬉しいが、まさかあの猛 裕加まで来るとは……キャップだけじゃなくて自分も見ているが自分に乗ってみたいという事だろうか?悪いが自分の背中は相棒の指定席だから遠慮してくれ、その代わり子供達には乗っても良い。

 

「本当にいい毛並だなぁ……現役時代と全く変わらないんじゃないかな?」

「寧ろよくなってる気がするんですよね、本当にこいつは一体どうなってるんでしょうね。一部でUMAとか言われるのも良く分かりますよ」

 

なんだか馬鹿にされた気もする……。

 

『あれ猛さんじゃん?今日レースの予定とかあったっけ?』

『あっ上さんもいる、騎乗してくれるの~?』

 

そんな事を思っていると一緒にいるツクヨミとアマテラスも寄ってきた。図らずにも親子三冠、鞍上も揃った事にTVスタッフは嬉々としてカメラを回すのであった。但しキャップはマイペースに草を食んでいた。

 

 

 

『マヤノトップガン、メジロランページに続く快挙』

『クラシッククラスでのジャパンカップ制覇、タイムはワールドレコードに迫った』

『マヤノトップガン、その名が如く日本のトップガンへ』

 

メディアは挙ってマヤの勝利を祝福していた。当然と言えば当然だろう、ジャパンカップの勝利はそれ程までに嬉しい事なのだ。これまで海外勢によって蹂躙されていたレースが遂に安定して日本が勝てるようになっている、しかも勝利を収めているウマ娘の凄さと言ったら……特に今回の勝利はクラシッククラスでの勝利となっているので騒ぎも大きい。

 

「素直に仕掛け所を見失っていた、だがこの結果は私にとっては屈辱ではない。新しいライバルの出現、喜ばしい事じゃないか、そうでなければレースは面白くない。マヤノ、有

記念では勝たせて貰うぞ」

「いやアタイは別に何の後悔もないよ、全力を出し切ってあれだった訳だしアタイのそれが負けただけの話だろ?だったらまた鍛えてで直せばいいだけの事さ、今度のタイマンは勝たせて貰うよ」

 

2着のブライアンと3着のアマゾンへと記者たちはコメントを求めたが、それは敗北に悔しさを滲ませるものなどではなく寧ろ強い相手が出て来た事への喜びと再起への楽しみを溢れさせていた物だった。4着となっていたローレルも同様で休養明けはアマゾン、ネイチャ、タンホイザと共に特訓をする事を早くも決めていたとの事。

 

今回のジャパンカップで最も順位が高かったのは8着のファーマメント。掲示板入りすら出来ていない状態に各国は危機感を募らせている、ウマ娘レースにおいて後進国と揶揄されていた日本だがそれは既に過去の話でしかない。メジロランページをターニングポイントに日本は一気に駆け上がり世界の中心と言っても差し支えない程の物へと成長しているのである。まだまだ発展が止まる気配がない隆盛の日本ウマ娘界、次はどんな活躍が出るのかが楽しみで致し方ない。

 

 

「俺の弟子、ねぇ……」

 

プレアデスの部室で新聞を広げているランページ、その姿は別に珍しい事ではない。ランページは株価などを見る関係でよく新聞を広げているが珍しくその表情には不満げな物が浮き彫りになっている。その様子に上水流と坂原は声を掛ける。

 

「如何したんだよ、ジャパンカップ制覇したのに」

「そうだよ、マヤが勝てたのは明らかに君の尽力のお陰じゃないか。海外からの協力だって君の力が無ければ無理だったんだから」

「だからってマヤが俺の弟子ってのは無いだろ、実質的にマヤを育ててるのは坂原さんじゃん」

 

そう言われて納得したように上水流は頷き、坂原は何とも言えない顔をする。

 

「俺はあくまで坂原さんの入院期間中に代役したに過ぎないし、プレアデスに入ってるっつっても事実上マヤは坂原さんの専属みたいなもん、エアエアとドーベルはカノープスからの引継ぎみたいなもんだし俺の弟子とは違う」

「つまり本当の意味での弟子はスズカって事になるのかな」

「だと思うぜ、俺が自分でスカウトして俺の走りを叩き込んでる訳だ。というかマヤの場合は勝手に俺の全身走法を盗んだ訳だから別に相伝でも直伝もねぇよ、それが分かってから教えた訳だし」

 

意外にそういうところ気にするんだなぁっと坂原が思う中でまあ君ならそう思うだろうな、と上水流は茶を啜るのであった。

 

「チャンピオンカップの事もあるしまだまだ賑やか騒ぎは収まりそうにないね」

「こっちも、あるからな」

 

ととある新聞の見出しを机に広げる、それを上水流と坂原も覗き込んだ。

 

『坂路の申し子、ミホノブルボン。海外G1 3勝目に狙うのは香港ヴァース!!』

『アメリカ、ドイツ、三か国目制覇なるか!!?』

 

「……確かフローラさんみたいに海外を巡ってるんだっけ?」

「そっあいつのスケジュールを基にしてG3G2って段々に挙げて行ってる、んで今年からG1に挑戦して走りやすいアメリカドイツを制覇して香港ヴァースに挑むんだと」

 

同じく海外遠征を行っているブルボン、此方は各国を巡りながらの武者修行のそれに近く、かなりのハイペースでレースを行っているが故障もしないどころかケロッとしているので日本が生み出したガチのサイボーグなのでは……という疑いをもたれているとか居ないとか。

 

「香港ってなるとホントに直ぐだね、朝日杯辺りと同じ週だっけ?」

「だな、クールダウンする暇がねぇな」

「こっちはこっちでジュペナイルもあるもんね」

 

そう、チャンピオンズカップの事も気になるがランページにとってはエアグルーヴの初G1挑戦となる阪神ジュペナイルフィリーズを控えている。そしてその後には有

記念と本格的にトレーナーとして忙しくなってくる。

 

「今年はURAファイナルズとレジェンドレースは如何するんだい?」

「流石に出ねぇよ、俺なんかの事よりチームの方を優先するに決まってんでしょうよ」

「なら、僕と上水流君で分担して君はレースに備えるって言うても取れるんじゃないかな?」

 

それを聞いて坂原が提案を行う、プレアデスはサブトレーナー二人を備えるチーム。それなら自分達がメインの代行を行えばランページはトレーニングに専念出来るのでは、がそれは否定される。上水流によって。

 

「無駄ですよ坂原さん、この人がそれを認める訳がない。自分は既に現役じゃない、ロートルよりも今一生に一度の現役に向けての大切な時期を無駄には出来ないとか言って断るだけですよ」

「よく分かってんじゃん、俺は既に十二分に楽しませて貰ったからな。これからそれを還元する側に回るのが未来のための投資って奴だよ」

「……ごめん、野暮な事言ったね」

「うんにゃ言ってこそ伝わる事もあるからな、上ちゃんは坂原さんより付き合いなげぇから分かるのよ。貴方にもそのうち分るよ」

「そうなる事を願うよ、それじゃあ先に行ってるね」

 

部室から出ていく坂原を見送った後にランページは上水流に笑いながら言う。

 

「クククッよく分かってんねぇ上ちゃん、俺への理解度が深まってきたじゃない」

「そりゃ深まるさ、深めようと必死なだけだけどね」

「無理に深めようとしなくても良いぜ―――その内ベッドの上で嫌って程教えてやるんだからよ」

「―――お願いだからやめてそう言う事言うの……」

「からかいがいのある旦那様で奥様は嬉しいぞ」

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