現役を引退してしまうと如何しても身体が鈍った気がしてならない。子供を孕んだり産んだりしているから当然と言えば当然だろうが、テイオーとの子供も産んでからも軽くなった……流石に動かんと身体に悪いだろうな。
『少し大人しく出来る?』
『うん?出来るよ~』
まだまだ自分にべったりで甘えん坊盛りだが自分の言葉を聞いて笑って頷いてくれる。そんな姿に安心しつつも走りだす、徐々にスピードを上げて現役時代の70程度にまで速度を上げると自分の中に熱が生まれて来る。矢張り自分は走るのが好きなんだな~と思っていると途中からタイミングを合わせて自分の横について走り出した。
『へへんボクも同じ位速い……うわ~んママ置いて行かないで~!!!』
『何やってんだよ……』
まあ逆走して来られるよりにもずっといいが、それでも自分のペースで走れる訳がないだろうに……泣き出してしまっているので、良い所だが走るのを中断して我が子の傍に行くと泣きながら迫ってきた。
『うわ~んママ~!!』
『やれやれ……同じスピードで走れる訳ないでしょうに……』
『でもボクママと一緒に走りたいよ~!!』
『分かった分かった……全く、もうちょっとしてからのつもりだったけどしょうがないか、教えてやるよ走り方』
『やった~!!』
単純というかなんというか……兎も角、ランページはテイオーとの間に生まれた子供、ロードに走りを教える事になったのであった。そしてこれは後年、ロードの基礎となって大きな力となったのであった。
「信じられない!!日本から来た暴君の息子が、三冠を達成ぃぃぃ!!!暴君の息子は侯爵の名に相応しい力を持っているぅぅ!!!」
後にイギリスクラシック三冠を達成する事になったロード。そんなロードの元にはイギリスの女王も訪れて大変な事になるのだが、それはまた別の話。
『それでねそれでね、そのお婆ちゃん乗るの上手かったんだよ!!』
『へ~よかったな』
尚、そのお婆ちゃんがエリザベス女王だという事はランページは知らず、暫くしてから知った時は絶句した。
『レディセイバー、アメイジングダイナ先頭、いやゴーストシガーが来る!!ウチからゴーストシガー!!BCクラシックの借りを返すと言わんばかりの猛追ぃぃぃ!!!最終直線でゴーストシガーが怒涛の大逆襲!!!』
チャンピオンズカップ、ダートのジャパンカップでも激闘は繰り広げられていた。日本における砂の総大将たるアメイジングダイナと剣王妃レディセイバーへのリベンジとアメリカからやってきたゴーストシガー、自分たちの国の威信を踏み躙ってくれた二人への意趣返しだと言わんばかりに日本へと乗り込んでいた。
『フォーオブカウンターも迫ってくる!!BCでのリベンジがこのチャンピオンカップで果たされてしまうのか!?レディセイバー、アメイジングダイナ粘る!!ゴーストシガーフォーオブカウンターが迫る、い、いや大外大外からナリタイーグル!!ナリタイーグルが一気に駆け上がってくる!!』
「何時までも何時までも、勝ち続けられると、思うなぁぁぁぁ!!!勝ちたいのは、私の方が上だぁぁぁ!!!」
『ナリタイーグル!!ナリタイーグルがゴーストシガー、フォーオブカウンターを一気に躱して並ばない並ばないそのまま先頭を取ったぁ!!!ナリタイーグル1バ身リード!!レディセイバー、アメイジングダイナも必死に足を伸ばすがナリタイーグル、砂の鷲が今っ大翼を広げて世界へと飛び立つぅ!!ナリタイーグル一着!!二着にアメイジングダイナ、三着にレディセイバー!!砂の鷲が悲願のG1制覇ぁぁぁぁ!!世界のアメイジングダイナとレディセイバー、海外ウマ娘を一閃!!チャンピオンカップの覇者に輝いたぁぁぁ!!!』
「うああああああああああっ!!!!」
誰もが勝つと思っていた世界の舞台で活躍するダイナとレディの勝利、それを覆したのは彼女らと戦い続けてきたウマ娘の大逆襲だった。ランページが現役の時代からずっと勝ちたいと願ってきた走者の思いが遂に結実した瞬間、努力が実となった。
「天狗になってたかもね……」
「これは、一度本気で鍛え直さないとダメね……東京大賞典まで時間がない、本気でやり直すか」
「合宿でもする?」
「しましょう」
「あ~飲みに行きてぇ~……」
「昼間っから何言ってるのよ」
そんなダートのライバル達の切磋琢磨なんて知るかと言わんばかりぶ我が道を駆け抜けると言わんばかりの表情をしているランページ。実際既に引退しているので現役を続けている二人に関わる事はレアケース。
「最近取材申し込みがバカみたいに多くて忙しいんだよ、俺は取材応じる所は決めてるっつってのにしつこいんだよ。これ訴えたら勝てるんじゃね?」
「いや無理だろ、いや君の場合は配信の暴力があるから何とも言えないか……」
「ああそうか配信で言えばいいのか、サンキュー上ちゃん良い解決策見つかったぜ」
「やばい禁断の知恵の実を与えてしまった蛇ってこういう気分だったのか」
戦友二人に意識を向けたいという気持ち自体はあるしブルボンの方も気になるのだが其方ばかりに目をやる事も難しい。何せ阪神ジュペナイルフィリーズが迫っている、本当に年末の忙しさというのは厄介だなぁと思いながらも彼女の走りを見る。
「仕上がりは悪くないな、末脚のキレも良い。これなら万全の状態で臨めそうだな」
「相手の情報、いるかい?」
「今更見た所で変えようがねぇよ、ただ走らせるだけさ」
それにすでに頭に入っている。一番警戒すべきは矢張りビワハイジだろうか、名牝と名高い牝馬でG16勝のブエナビスタ、ディープインパクトを後一歩の所まで追い込んだアドマイヤジャパンの母として有名だった。
「何、エアエアだって負けはしないさ」
「信じてるね」
「トレーナーが信じねぇで誰が一番の味方になってやるんだよ」
「全くだね」
話している所にやってくる坂原、マヤを自分以上に信じているトレーナーの存在によって信憑性は益々補強される事になる。
「マヤの様子は?」
「療養所でのんびりしてるよ、でもプロのマッサージよりボクのマッサージの方が気持ちよかったって言うのは勘弁してほしかったかな。お陰で凄い微笑ましい顔されたよ」
「マヤちんの坂原さんLOVEは今に始まった事でもねぇからな」
「惚れられてますなぁ?」
「勘弁してよ、この前マヤのお父さんからこれからも娘を宜しくお願いしますなんて言われて本気で困ってるんだからさ」
ジャパンカップのインタビューでマヤは坂原に抱き着きながら自分が勝てたのは坂原が朝早くの朝練から夜遅くの自主練まで全てに付き合ってくれたお陰だと答えている。勿論ランページや上水流の事を忘れている訳ではない、マヤとしては矢張り坂原の尽力が大きかったという思いが強いのだろう。
「聞きましたよ、マヤと一緒にランニングまでしたんですって?しかも声掛けしながら」
「よくそんな事出来ますね」
「アハハハッ……まあ最初の30分の身体を温める目的の時だけだよ」
それでも十分すぎるような気がする……そこまでやらなくても……とも思うが入院の影響で本来自分がするべきだったそれの補填の為だったらしい。それでも凄すぎるが。
「それで声掛けの時はなんか歌ったりしたの?」
「したよ、我らのボス大暴君とか」
「何処の軍曹ですか貴方」
「あれに比べたら相当にソフトだけどな、いやマジで」
そんな事もあったためにマヤはジャパンカップに勝つ事が出来た、何も自分が追い込み策だと思わせる為の工作だけではなかった。そしてインタビューではマヤの坂原LOVE具合が遺憾なく発揮され、マヤのお父さんからは色んな意味で託されてしまったらしく困っている。
「なんつうかマヤのお父さんも気が早いな……」
「まあマヤちゃんはそっちの心配しなくても良い気がするよね、凄いうぶだし」
「あの、なんかフォローとか……ある訳ないよね。職員室でプロポーズした側とされた側だし」
「俺被害者みたいなもんですけど」
「諦めろ上ちゃん、ファーストコンタクトで俺で脳を焼かれた報いだ」