貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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562話

「にしても……ランページは何処まで行く気なんですかね、このまま繁殖牝馬としても暴君に君臨する気なんですか」

「んな事俺も言われてもなぁ……あいつに言えよ、丁度そこにいるんだからさ」

 

これまで生んだ子供は6頭、現役に出ていない2頭を省いても全てが重賞勝利を獲得している。まだ取れていない子達も近い内に取ってくれるだろうと思わせてくれる走りをしてくれている。これが本当に凄いのはあくまで本人だけで子供が凄くなる訳がないと言われてきた競走馬なのだろうか、所謂血統派の意見は分からなくもないがそんなことを言ったらランページなんて血統派が絶対に買わないような血統をしているのだから今更だ。

 

「それにしても……なんというか国内血統の拠り所みたいになってきましたねラン」

「言わんとしてる事は分かる……だけど今度はノーザンテーストって話があるぞ?」

「遂にですか!?」

「ああ、引退するって話もあるらしいしな」

 

大種牡馬ノーザンテーストとランページの子供、一体どんな子供になってくれるのか……まあ自分達としては勝つ事も大事だが矢張り元気に生まれて来てくれることが一番になっている、初年が双子だったが故に毎年それを思うようになっている。

 

「何というか楽しみだよな毎年毎年」

「全くっす」

 

 

『母さん、ただいま』

『応、お帰り』

 

普段通りにのんびりしていると我が子であるツクヨミが帰ってきた。その表情は何処かすっきりとしつつも寂しさを孕んでいた。

 

『ご苦労さん、よく頑張ったな』

『結局、最後は姉貴になんとか勝ったよ、やっと勝てたよ』

『強かったぞ、流石俺の子だよ』

 

ツクヨミは引退した。生涯成績24戦16勝、この勝ち鞍には姉であるアマテラスとの激突も何度もあったが結局ラストランとなった有馬記念では姉を差し切って勝利した。アマテラスに勝ったのはラストランが最初で最後になった、鞍上の猛は

 

「漸く勝つ事が出来ました、念願でした」

 

とコメントしてツクヨミと共に姉に勝った事を喜んだ。一方のアマテラスは現役を続行、春の天皇賞を引退レースにするという話を聞いている。

 

『お前はこれから種牡馬か、頑張れよそっちはそっちで大変だってライアンから聞いた事あるぞ』

『う、う~ん……なんかしっくりこないぜ俺、走る事が仕事だったのにさ……』

『それを引退したのはお前さんだ、なら受け止めろ。俺だって子供産んでるだからな』

『そう言えば弟、妹?』

『妹だ、ほれっこっち来い』

 

首で示すとオドオドしつつも興味がある様な動きで迫ってくる子馬、ブルボンとの間に出来た子供で大人しいが色んな事に興味を示す好奇心旺盛な子。

 

『ほらっお前の兄さんだ』

『お兄ちゃん……?でも、ロード兄さんとは違う……?』

『あれと一緒にされるのも複雑だな……まあ家族なんだ仲良くしような』

『うん』

 

仲良く出来そうでほっとした。因みにツクヨミは種付けが上手くなく、時間が掛ると厩務員が言っていたが、的中率は80%を超えていると聞いた。

 

 

「―――よし、これで準備は完了だ」

 

勝負服を纏い終えたエアグルーヴは鏡に映る自分を見つめながらも息を吐く。鏡の中にいる自分は凛々しく自分がなりたいと望んでいた姿がそこにある、母のように強くありたい、そう望んで母のそれに似せた勝負服をオーダーした。

 

「おっ準備は万端何時でオーライ、てか?」

「ランページさん」

 

其処には自分のトレーナーであるランページが居た、スーツ姿ではあるがそれは現役時代に着ていた勝負服だ。ランページがそれを着ている事は珍しくない、何せほぼスーツだから普段着として使っても可笑しくはない、のだがレース場にトレーナーとして来るのに着て来るのは珍しい。

 

「やっぱりスーツよりこっちのほうが落ち着くわ、G1だし俺も気合入れねぇとな」

「私の背中にその姿のランページさんがいる、そう思うとこの上なく心強いです」

「走り的にはお前の前だけどな」

 

ケラケラと笑うランページにはまるで緊張感という物が存在していなかった。此処に来るまで他のウマ娘はガチガチに緊張したり、不安げな顔でトレーナーに助けを求めたりしている有様だったのに矢張りこの人は格が違う……と思っていると自分の肩に手が置かれる。

 

「リラックス、出来てるな?」

「はい。自分でもびっくりしているんですが、凄い落ち着けています」

「そりゃそうだろ、何せサンデーにシンザンパイセンにフローラっつうビックリ三点盛りの合宿を潜り抜けたんだからな、あれの殺意やら敵意のそれに比べたら気楽なもんだろ」

 

全力で首を縦に振る。一度酷い物を経験してしまうと如何足掻いてもそれと比較して今は相当に楽だという思考が働いてしまうのかエアグルーヴは驚くほどにストレスなどに強くなった。

 

「今日、お前の資質が試される。近年評価が上がってるティアラ路線、それを狙うウマ娘達の登竜門とも言われるようになったこの阪神ジュベナイルフィリーズ、その結果がティアラに直結すると言っても良い―――だが敢えて言おう、楽しんで来い、初めてのG1の空気を、レースを全てな」

「はいっ!!」

 

そんな風に頼もしい答えを返してくれるエアグルーヴの頬にキスを落とす、するとエアグルーヴも同じようにキスをしてくれた。あの時と同じだな、と思わず笑うと額を預け合いながら互いの目を見る。

 

「さあ行ってこい、好きなように走って来い!!」

「はいっ楽しんできます!!」

 

そう言いながらエアグルーヴは胸を張って堂々とした姿で歩いて行った。他のウマ娘達は余りにも堂々として凛としたエアグルーヴの姿に見惚れている。彼女も初めての筈だ、この舞台を、G1という大舞台で不安に思っていない筈はない。だが彼女はそんな様子を感じられない。

 

『此処で1番人気の登場です!!7枠9番エアグルーヴ!!チームプレアデス、あのメジロランページの教え子で次代の女帝とまで言われているウマ娘が堂々たる姿でやってきました!!此処までの戦績は4戦4勝、重賞3連勝中のウマ娘がその勢いのまま暴君の後に続けるか!!?』

 

熱狂している空気とは対照的に、肺に吸い込む世界は鋭く張り詰めながらも冷たい。熱狂すればするほどにそれは酷くなっていくようにも感じられる、不思議なギャップだが……これがG1の舞台なのだと思い知る。

 

『さあ続々とゲートイン、さあ阪神ジュベナイルフィリーズ、ティアラ路線の登竜門。かの暴君が走った舞台、道を次に駆けるのは誰なのか今っ―――スタートしました!!ビワハイジが良いスタート、すぐ後ろにエアグルーヴが続きます!!』

 

さあ、私のレースを始めよう!!

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