貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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57話

「あと5分、よかった間に合って……」

 

日曜日、カノープスに入ってから初めての休日を過ごすことになったライスシャワーは大好きなお姉様ことランページと一緒に出掛ける事になったので駅前で集合することになっていた。途中で連続して信号が赤になって引っ掛かったりして間に合わないのでは……という不安に駆られたりもしていたが、そんな心配もする必要もなかったのか何とか約束の時間前に到着することができた。

 

「お姉様いるかな……?」

 

一先ず電話をかけて到着したことを知らせようと思って携帯を取り出そうとしたのだが、前に一人の女性が現れた。少々ゆったり目のロングスカートの白と黒のワンピースを着こなしながらも帽子とサングラスを掛けていた。一瞬身構えてしまうのだが、聞こえてきた声に思わず驚いてしまった。

 

「よっライス」

「えっ……ええっ!?お、お姉様なの!?」

「応よ。ライスのお姉様こと、ターフの独裁者……メジロランページ様よ」

 

サングラスを外すとそこにはまるで悪戯が成功したかのような笑みを作っているランページの姿がそこにあった。勝負服から私服まで基本的に男物で統一しているといってもいいほどにスカートやらを全く履かないが故にライスも驚きを隠す事ができなかった。取り敢えず二人は適当なカフェへと入って喉を潤す事にした。

 

「んっ~やっぱりコスタリカコーヒーはいい……紅茶も良いが俺はコーヒーも好きなんでな」

「それでお姉様えっと……」

「ああ、この格好の事だな」

 

適当に入ったカフェのコーヒーの味の良さに嬉しさを感じているとライスから聞き辛そうに尋ねられた。勿論内容はこの格好の事である、基本的に男装と言っていいほどに男物ばかり身に纏うランページとしてはロングスカートのものとはいえ、女物を纏うのは珍しい。一応女物はライアンとアイネスの着せ替え人形にされている関係で持ってこそいるが自主的には絶対に着ない。だからこそ今着ている。

 

「単純な話だよライス、俺は良くも悪くも目立っちまってる……ほれ」

 

指で軽くカフェの中にある大きなテレビを指さすとそこにはニュースがやっており、メジロ家特集と称して今年のクラシックを盛り上げるメジロのウマ娘の走る姿を流していた。そしてちょうどオークスでの自分のレースが流されていた。

 

「あんな風に知られてるからな、こういう風な恰好をすりゃ分からないって寸法だ」

「なるほど……でもその格好も素敵だよ?」

「サンキュライス。つっても実の所落ち着かねぇけどな、これも普段が男っぽいツケって奴か、まあどうでもいいけどな」

 

この程度でマスコミを振り切れるのならば幾らでもやってやろうとは思っている、実際問題として最近ではトレセンの周辺でマスコミが張っている事が多い。今日もそうだったのだが、前を通り過ぎても何も言われなかった。どれだけ自分が世間的に男っぽいと思われているかを改めて認識出来た良い機会であった。

 

「今頃まだかなまだかなってしてる頃だろうな、ザマァミサれってんだ」

「お姉様って……嫌いなの記者さん達」

「好きではねえな」

 

ハッキリ言えば大っ嫌いに近い。記者というのは真実よりも面白さによる利益を優先する者ばかりだ。史実のライスをヒールに仕立て上げたのもマスコミだ、個人的な話をすれば、ヒト時代にライスの事をヒールとは思った事はない、寧ろ鞍上の的場騎手がヒットマンと呼ばれていた事も含めてカッコいいという印象しか抱かなかった。

 

「まあそんな事は如何でも良いんだ、さあ本題に行くとしようかライス」

「うんっお姉様」

 

今日出掛けたのはライスが好きな絵本、幸せの青い薔薇の舞台を見にいく為。カノープスに誘ってくれたお礼という事でペアチケットをくれたので一緒に見に行く事になったのである。途中で黒猫にチケットを取られそうになったり、行こうとする道が工事で塞がっていたりとハプニングも多かったが、何とか公演時間には間に合って舞台を見る事は出来た。

 

「いやぁ何だかんだで面白かったな、絵本の舞台っていうから子供向けなのかな、と思ったけど十分面白かったわ」

「うん。舞台と絵本だと全然違うけど凄い面白かったね」

 

ライス曰く、オリジナルの絵本とは違う部分もあったりもしたがそれでも上手くアレンジが加えられていて寧ろいいアレンジだと言い切れる程らしい。互いに感想を述べつつも二人は回転寿司で食事を取っていた。

 

「で、でもいいのお姉様、ライス一杯食べちゃって……?」

「気にするな、これでも無敗の二冠だ。これまでの貯蓄がある」

 

トゥインクルシリーズでのレース賞金は流石に全額全てが走ったウマ娘に入るという訳ではない、それでもランページに入ってくる額は一般家庭ではお目に掛かれない金額となる。そりゃ叔父夫婦も目当てにする気持ちが分かる、因みにオークスの1着の賞金は1億4000万である。オークスだけではなく、これまでに走った分の貯金があるのでそういう面では全く問題はない。

 

「なんつうか……金銭感覚バグりそう……」

「ふぇ?」

「ああ気にすんな、ほれっ注文の軍艦7点盛り来たぞ」

 

ライスが注文したものを取ってあげる、ライスはそれを見て喜びながらも笑顔のまま寿司を頬張る。そんな姿に癒されつつも茶を啜る。そして自分も適当な寿司を取っていく。

 

「ライスはトゥインクルシリーズはどんな風に走りたい?」

「ライスのトゥインクルシリーズ?」

 

唐突にそんな言葉を投げ掛けられて耳を回しながらも首を傾げる。本当にいきなりな質問だったので驚いたのだろう、だがライスは少しだけ考えるが直ぐにこう返した。

 

「ライスは見てくれる人が幸せになって貰えるように走りたい」

「幸せの青い薔薇みたいに?」

「うん。ライスのレースを見て、元気になったり幸せを届けられたらいいなぁ……」

 

そんな言葉を聞いて思わず苦笑した。全くなんて可愛らしい理由だろう、なんて健気なのだろう。報復目的で走っている自分とはまるで正反対だ。

 

「きっとライスなら出来るさ。なんせ俺の妹だからね」

「えへへっうんライス頑張るね」

「んじゃその為に沢山食べちまおう」

「うん!!」

 

結果として、回転寿司の一角には皿の山が積み上げられる事となったのであった。

 

「さてと―――明日から頑張りますかぁ~……ライスは幸せを運ぶために、俺はそうだな……ライスが自慢出来るお姉様になる為に」

「ライスはお姉様の事自慢出来るよ?」

「もっとって事だよ、可愛い奴め~」

「きゃっお姉様抱きしめられたら恥ずかしいよ~……」

「―――うちの妹、マジやばい……可愛すぎ……」




こんな日常回もあってもいいかなぁって……
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