貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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572話

シンザン鉄の重々しい音が周囲に木霊する、息苦しそうな呼吸音が頭に響く。傾斜のあるコースを駆けあがる、目の前では自分よりもずっと厳しい条件である筈なのに軽快且つ力強く駆けあがっていくランページの姿がある。それに負けないように自分も力を込めて駆け上がる。

 

「と、到着ぅ……」

「よしっ坂路2本終了、一旦休憩」

「ンニャ~大変だよぉ~!!」

 

マスクを剥ぎ取りながらも思わず辛さを吐露してしまうマヤ、次の有記念勝利の為の秘策として行っている高負荷疑似高山トレーニングの洗礼を味わっているマヤ。シンザン鉄には早い段階で慣れそうだが問題はマスクによる酸素制限。ウマ娘は人間に比べても肺活量が大きく、その運動量は取り込まれる酸素によるものが大きい。

 

「効くだろ、俺も南ちゃんにこれやらされた時はきつかったぜ」

「本当に辛いよ~……でもこれ本当に強くなれるの?」

「実証例なら目の前にいるぞ、んじゃ俺は後坂路を4いや5本だな。マヤはちゃんと休んでろよ」

「ハ~イ……エッゴホン!?」

 

サラッと告げられる坂路の本数に呆然とする、何故ならばこの坂路トレーニングだって理事長の許可を取ってコースの一部の柵を撤去させて貰って疑似的に中山にしている。それを5本もやるの!?ブルボンが坂路の申し子と言われるがこれではどっちが申し子なのか分かったものではない。

 

「お疲れマヤ、ハイッニンジンジュース。林檎とかバナナもミックスしてるよ」

「わ~いマヤの大好きなブレンド~!!」

 

辛い鞭の後は美味しい飴、飴担当の坂原から美味しい飴を貰うマヤは坂路を駆けあがっていくランページを見つめる。ランページはランページ鉄な事に加えてマスクは水に濡れていて通気性は最悪、それなのに平然と坂路を駆けあがっていく。世界を制した独裁暴君たるメジロランページ……それがあの姿なのかと思う。

 

「これってそんなに効くのかな、ランページさんの事を疑ってる訳じゃないけど」

「呼吸筋が鍛えられて持久力は上がるね、本当の高山トレーニングは酸素濃度が違うから全く同じ効果は得られないけど目的はマスクを外した時により多くの酸素を得られるようにする事だよ」

「それは分からなくもないけど、今のところは実感ないなぁ」

「まだ初めて其処まで経ってないから無理もないさ」

 

そして鍛えるのも呼吸だから実感はし難いは致し方ない、だが目的は坂路に慣れる事とそれを登り切る為のパワーを付ける事にある。本当の高山トレーニングをするなら専用の機器やらを準備してやらせるだろう。

 

「山走らせるよりかはダイブ良心的だと思うけどねぇ俺ちゃんとしては」

「えっ本当だったらマヤ山走らされてたの……?」

「少なくとも俺は走らされた、毎日毎日登って下りてそれからトレーニングを」

「ヒェェェ……ってランページさん平然と話に入ってこないでよ!!?」

「何だツレねぇな、ウマ娘とトレーナーの禁断の愛の語り合いでもねぇんだから硬い事言うなよ」

「き、禁断の……!!」

 

何を想像したのか、マヤは顔を真っ赤にしながらもふらふらと坂原の胸板へと倒れ込んであぅぁぅとうわごとを言いながらダウンしてしまった。話に聞いていたがまさか此処までとは……

 

「苦労するね坂原さん」

「まあこういう所が可愛いんだけどね」

 

そんなマヤの頭を撫でつつも坂原は今度のレースについて尋ねる。

 

「勝てると思うかい?」

「多く見積もって、いや現実的に見て勝率は4割って所だな」

「4割か……」

「但しこれはブルボンが来る前の確率だ、あいつが参戦するとなると―――2割だ」

 

2割……一気に半分にまで落ち込んでしまうものなのかと。

 

「ブルボンの最大の長所は正確無比なラップタイムと兎に角坂路に強い事だ、あいつに揺さぶりは一切通じないから幻惑の理は無に等しい。大逃げによる圧も無意味、あいつ自体も逃げだしな」

「一切ブレずに一定のペースで走り続ける逃げ……それは厄介だ、追いかけるにしても大逃げで行くにしてもペースを崩せないとなると真っ向勝負しかない」

「だろ、俺にとってイクノが天敵なのと同じだよ」

 

故に作戦を考える身としても大変に尽きる、大逃げで振り切ろうとしても背後からのブルボンが気に掛かればアウト、鍵となるのは確りと自分と向き合って自分の走りが出来るか否かに掛かっている。マヤにそれが出来るか……。

 

「マヤは良くも悪くもムラがあるからね、そこが長所でもあるんだけどね」

「レース中にいいムラが出てくれたらそれだけ相手の狙いを外す事になるからな……しょうがない俺も色々考えるわ、ラッキーパンチを狙って出せるように。んじゃ俺は後2本走るから、それ終わったらマヤにも再開させるぞ」

「うん分かった、それでいいね、マヤ」

 

坂原の問いかけに茹で蛸になりつつもコクコクと頷くマヤ。相手がブライアンやローレルだけなら楽だった、だが相手にブルボンが混じるとなると本当に厄介な話になってくる。唯でさえネイチャはタンホイザの事でも大変なのに……

 

「大変なだけ面白さがある、マヤ、成りに行くかキラキラなウマ娘に」

「マ、マミャなりゅ~……」

「フフフッ全く可愛いんだから」

 

そんな思いが連なって時間は進んでいく、年末、12月24日のクリスマス。有記念当日。この日は何と雪がちらついている、ホワイトクリスマスの中での大一番にマヤは張り切っていた。

 

「トレーナーちゃん見ててね。マヤ、サンタさんになってトレーナーちゃんに勝利をプレゼントしちゃうから!!」

「ハハッそりゃ嬉しいな、それじゃあ勝ったら綺麗な夜景の見えるレストランでご馳走だね」

「わ~大人のデートみたい!!マヤ頑張る!!」

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