貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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584話

「行ってこい、レイ。お前の価値を示してこい」

「うん、行ってきます」

 

駆け出していくウマ娘を見送る初老の男性、背筋は確りと伸びているのでその手に持ったステッキは歩行の補助などではなく完全なファッションの一つなのが伺える。確りとした足取りで歩いている、トレーナー席へとたどり着くと一人の女性が自分を見つけて声をかけて来た。

 

「お久しぶりです」

「東条か、活躍は聞いている」

「元気そうだな」

「ああ、お前もな」

 

声を掛けて来た東条ことおハナさんと黒沼、その表情は何処か嬉しそうでおハナさんに至っては明確に声が弾んでいた。その事に勉強のためにやってきたトレーナーなどは一体何事なのと困惑の色を示している。

 

「よおっやっぱ来たか」

「六平か、お前も相変わらずだな」

「けっお前のお嬢ちゃん、中々のもんじゃねえか」

「フェアリーゴッドファーザーにそういって貰えるとは恐縮だ」

「抜かせ」

 

そう言いつつも明らかに喜びを浮かべている六平に一同は益々あの人は一体誰なんだという色が強くなった時にランページがやってきた、流石に顔を出さないとまずいだろうと思ってやってきたトレーナー席が妙に騒がしい、なので近場にいた旦那を捕まえて事情を聴く事にした。

 

「上ちゃん何事?」

「ああ、いやあのトレーナーさんが来たらおハナさんと黒沼さんが声を掛けてさ、そしたら六平さんも加わって何事!?って感じ」

「ありゃ確か……」

 

その男性を見つつタブレットで出走表を呼び出し、そこから一人のウマ娘のトレーナー欄を確認する。そこには間違いなくその男性がいた。ウォルターという名が記されている。

 

「おや、何事かと思ったらウォルターさんじゃないですか」

「っ!!?」

「やっほ南ちゃん、あの人のこと知ってる?」

「知ってるも何も……と、そうでしたねランページさんや上水流さんが知らなくてもしょうがないでしょうね」

 

南坂の視線も何処か懐かしさを帯びているように見える、そんな視線を向けられるあの人は一体何者なのか……とランページは詳しく聞きたそうな身を向けるとちゃんとお話ししますよ、と苦笑気味に答えてくれた。

 

「あの方は嘗ては中央に所属していた方でその優れた手腕で数多のG1タイトルを獲得した名トレーナーなんです、おハナさんのお師匠様でもあるんです」

「おハナさんのお師匠!?マジですかそれ!?」

「だからおハナさん妙に嬉しそうなのか……」

「ええ、元々チームリギルの前身となっていたのもチーム・ハウンズでした」

 

今のリギルに近い管理主義で黒沼的なスパルタも行うチームで外からはトレーニングが過酷すぎると言われる事も多かったらしいが、チームメンバーからは感謝こそされど批判をされた事は一度はないと言われる程だった。

 

「そんな人が……でも俺達が知らないって可笑しくね?」

「一種のタブー化されてましたからね……担当していたウマ娘がレース中の事故で競争中止、それを切っ掛けに嫉妬していた一部の人間によってそれが誇張されて大炎上、あの方はその責任を取って、チームを当時弟子だったおハナさんに託してトレセンから去ってしまったんです」

「そんな事が……」

 

この事で一番荒れたのが弟子だったおハナさんだったらしく、これを切っ掛けにして当時はまだ初々しく可愛さもあったおハナは師のような冷たさを纏うようになったという……そして、直ぐにルドルフに三冠を取らせて実力と共に師の教えを証明したという。

 

「あんの時のおハナさんはホントに今ほど硬くなかったんだぜ?いやホントギャルゲーに出て来る包容力と厳しさ、優しさのあるお姉様的な感じだったんだ」

「一言多いんだよ沖ノッチテメェ」

 

そこへ補足をしてやろうと言わんばかりにやってきた沖野、当時を知る身としてタブー化の理由を語り始めた。炎上させた者は上手い事、おハナさんやチームを懐柔しようとしたのだが……それに激昂したのが当時のウマ娘と他ならぬおハナさんだったのだという。余りにキレて同僚を殴って数日謹慎までしたのだから。

 

「あのおハナさんが……し、信じられないですね」

「いやいやいやマジなんだって、なんだったらルドルフだってすげぇ剣幕でよ?」

「ああうん、それは分かったけどさ……沖ノッチ、後ろ後ろ」

「えっ後ろぉっ!!?」

「説明してくれてありがとう」

 

青筋が浮かべ、痙攣したかのように口角を浮かべている東条の鉄拳が沖野の鳩尾に炸裂。沖野はその場に蹲って呻き始めたが誰も助けなど差し伸べなかった。

 

「相変わらずだな沖野、その口の軽さと軽率さは直さんと痛い目に合うと言ったはずだが」

「こ、此処まで痛ぇ事になるとか想像だにしねぇよ……」

「いや普通にアンタの自業自得だよ沖ノッチ」

「僕もそう思います」

「俺も」

「み、味方が居ねぇ……」

 

いる訳ねぇだろ……と周囲のトレーナーの心が一つになった瞬間であった。そんな最中、咳払いと共に件のトレーナーはランページの前へと立った。

 

「チームプレアデス チームトレーナー、メジロランページ知己を得て光栄だ」

「此方こそ、偉大なトレーナーの先陣と相まみえる事が出来て光栄です」

「敬語はやめてくれ、俺は使われる程の立場の人間ではない。今日は義娘の走りを見に来た一人の義父でしかない、ウォルター……唯のウォルターだ」

「なら此方も唯のランページで結構だ、俺は唯レースが好きなウマ娘だ」

「……東条から聞いた通りだな、変わった奴だ」

 

少しだけ微笑んで自分の手を取ったウォルター、皴の多い手だが何処か温かみと不器用さが感じられる。この手だからこそウマ娘の信頼も厚かったのだろう、それと自分を変な奴扱いしたおハナさんにジト目を向ける。

 

「義娘っていうのはこのレイブンって子か」

「ああそうだ、俺が面倒を見ている」

「随分と圧倒的な強さで本選まで駆け上がったって聞いたわよ、貴方が教え込んだのかしら」

「そんな所だ、だが俺は基礎を教えただけで殆どはあいつの才能……いや努力の賜物だ」

 

才能という言葉を使いたがらない師、変わってない事に弟子は少しばかりの安堵を覚えた。

 

「今日、その結果を目の当たりにする事になる……」

 

その言葉はまるで本当の走りを見た事が無いと言っているような言い方だった、だがランページはこれがこの人の普段なのだと直ぐに理解する。さて、そんなウォルターの育てたウマ娘の走り―――それを見せて貰おう。相手には不十分しないだろう、ホーリックスが叩き出したワールドレコードで大逃げをしたイブビンティとその弟子のソウマフィオーレ、自分と競ったオルタナティブセブンの愛弟子までいる。

 

「行ってこい、レイ。お前の価値を示してこい」




トラセンド様よりトレーナーのウォルターを頂きました、有難う御座いました!!
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