貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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586話

その情景はランページとしても懐かしさを覚える物だった。懐かしき数年前、クラシッククラスであった自分がトリプルティアラとなった勢いのままエリザベス女王杯からジャパンカップへの挑戦、調子に乗った暴君が遂に没落するとか色々言われたのも覚えている……その時のレースに極めてよく似ている。

 

「ジャパンカップの時みたいね」

「それどっちよ、ホーリックスさんの時?俺の時?」

「何方かといえば貴方よランちゃん」

 

スーちゃんにそういわれると矢張り自分の感覚は正しかったのだと思う一方である事を想う、こればっかりは元競走ウマ娘としては全員が抱くかもしれない物だ―――。

 

「愉快だねぇ……儘ならんな」

 

そんなものを越えた者を自分は既に確立させている筈なのについ考えてしまう、だが仮に自分があのまま現役を続行していたとしたらどうなっていただろうか……また世界を巡っていたのか、それとも国内戦線にて絶対的な暴君として君臨して壁となったか、それとも……踏み越えられて地位が失墜したか。

 

「何か考え込んでます?」

「いえ、ちょっと……我ながららしくもない上に下らない事を考えたと」

 

IFを考えた所で意味はない、あるとすればそれらを教訓や予防線に転用して活かす事のみ。兎も角今は今を楽しむ事としよう……あのジャパンカップの再現をしてくれるというのならば面白い事。

 

 

『先頭を駆け抜けるソウマフィオーレとイブビンティ!!師弟というだけあって走りが似通っているどころか瓜二つです!!あの伝説のジャパンカップの再現をしてやると言わんばかりの走りです!!三番手にアッシュセイバー、マガツレイブンという体勢、しかしこれは飛ばします飛ばします!!トワノプリマドンナ、やや離れた位置で様子を見つつも調節しているようにも見えます』

 

先頭二人が余りにもハイペース、それを捉える為に先行策を取っている二人だがハイペースすぎる故に先行策が通常の逃げレベルのペースになっているようにも見える。これは想像以上にスタミナを抉り取る消耗戦になる、先行策を取った三人は一番消耗する―――が

 

「かと言って此方が有利とも言えんな……これだけの差を埋める末脚……を持ちうるかが焦点だ」

 

ラスティことスティールヘイズが毒づいた。正直差し戦法の自分達が有利とも言い切れない、周囲も本当にこれでいいのかと焦りを感じていたりペースを上げるべきかと思案しているのが空気を伝わってくる。

 

「バカみてぇに飛ばしやがって……!!」

 

隣で走るヘッドブリンガーもその事に気づいている、完全にペースを握っているのはあの二人だ。意識的なのか無意識的なのかは分からないが……矢張り大逃げは此方に大きなプレッシャーをかけて来る。本来ならば垂れて来るであろう最終コーナー付近で一気に食らい付くのが定石なのだが……

 

「このレース、何処で仕掛けるかが鍵か……」

 

『先頭はソウマフィオーレいやイブビンティが先頭に変わって1バ身!!2番手にソウマフィオーレ、そこから5バ身程離れてマガツレイブン、アッシュセイバー、そこから1バ身でトワノプリマドンナがいます』

 

どんどんと加減なく飛ばし続けていくコンビ、しか持たれる雰囲気もないままに間もなく向こう正面、このまま逃げ切るつもりかと皆が思う中でレースは動き始める。

 

『おっとここでスティールヘイズが動き始めた!!スティールヘイズが上がっていく!!大逃げ二人を警戒して早めに動いたようにも見えます、明らかに二人は垂れることなく走り切ると思ったのでしょうか!?それに続いでヘッドブリンガーも上がっていく!!いや後方待機していたウマ娘達がゾクゾクと上がっていく!!これは中々に凄まじい光景です!!巨大な波となって駆け抜ける丘目掛けて大突進んんんん!!!』

 

「私に合わせて来るか」

 

いや、当然の事だろう。この中で3番目程度には名が売れているスティールヘイズ、そんな彼女が勝負を仕掛けた、ならば自分もというよりも見極めを完全に自分に押し付けて来ている。誤りを考慮しないのかとも思うが……自分の実力を高く評価してくれている、という事にしておくとしよう。その一方で妙に鋭く視線をくれるヘッドブリンガー。

 

「ザケんな俺と同じタイミングで出やがって……!!」

「おや、それはすまないな。だがこれが私のタイミングな物でね」

「戯言抜かすな!!!」

 

『ヘッドブリンガーが前に出始める、だがスティールヘイズも前へと伸びていく!!ブラックウィドウも良い走りだ、シャルワシェッツェも上がります!!ボーテアムール、アルマスリーリヤも此処で上がり始めて来る、これはレースが大きく揺れ動くぞ!!』

 

「悪いな、私を捕まえられる娘は一人しか知らない」

「っソガァッ……!!!」

 

一気に上がっていくスティールヘイズにムキになって上がっていくヘッドブリンガーだが、元々長距離を走っていた彼女にとってスタミナは十分すぎる程にある、故にヘッドブリンガーとの我慢比べながら負ける道理はない。そのまま戦友の背中が届く範囲にまで上り詰める。それに気づいたのかレイブンは少しだけ笑ってスキップでもするかのように軽やかに駆ける、それをみて笑う。

 

「見せてくれる、流石は戦友」

 

 

駆け抜け続けるソウマフィオーレ、隣には師たるイブビンティ。師と走れる事は史上の喜びに等しく此処まで楽しいレースは走った事が無い。本当に楽しくて楽しくてしょうがない一方でこの人に勝ちたいという強い思いが沸き上がって致し方ない……

 

「師匠!!!私なりの意地、張らせていただきますわ!!!」

「望む所ですわ、さあ行きますよぉ!!!」

 

『最終コーナーを先頭で―――こ、此処でイブビンティとソウマフィオーレが更に足を伸ばす!!?信じられませんまだ脚を残していたというのか!!?マガツレイブンとアッシュセイバーを振り切らんとするような猛烈なスパート!!そのまま最終直線に入る、マガツレイブン流石にもう苦しそうだ!!今、アッシュセイバーに抜かれ―――!!』

 

「まだ、負けたく、ないっ……!!!」

「聖槍、抜錨!!」

 

『いやマガツレイブンが此処で持ち直して加速する!!アッシュセイバー、内ラチギリギリの見事なコース取りで前に出る出る!!まだまだ負けていないぞ!!スティールヘイズが此処で猛烈なスパート!!一気にマガツレイブンを、抜いた!!イブビンティとソウマフィオーレに迫る!!ヘッドブリンガーも大外から強襲!!トワノプリマドンナを越えていく!!!』

 

「テメェら纏めて失せろぉ!!!」

 

『ブラックウィドウ、トワノプリマドンナが下がる、脚が伸びないか!!?後方からシャルワシェッツェ、ボーテアムール、アルマスリーリヤが来る!!さあ2400如何なる!!?先頭集団はまだそこにいるぞ!!マガツレイブン必死に食らい付いている!!あと2バ身、脚を伸ばせるか!?ヘッドブリンガー後1バ身!!!スティールヘイズ、スティールヘイズが完全に、完全にイブビンティとソウマフィオーレを捉えている!!さあ如何だどうなる!?100m、トップギアを越えてオーバーブーストが掛けられる!!どうなる如何なんだ、行けるか行ってしまうのか!!?イブビンティ、ソウマフィオーレ、スティールヘイズ、マガツレイブンっ―――!!!スティールヘイズ、スティールヘイズが抜け出した、マガツレイブンも必死に上がっているがそのまま、ゴールっ!!!スティールヘイズが差し切ったぁ!!!ロングスパートで大逃げウマ娘を見事に一刀両断!!!二着にイブビンティ、三着にソウマフィオーレ、4着にマガツレイブン!!5着はヘッドブリンガー!!素晴らしいレースでした!!そしてこの大逃げによる超ハイペースレースのタイムは……2分21秒!!?2:21:0!!!メジロランページが叩き出したワールドレコードに後一歩にまで大肉薄!!!途轍もないタイムです!!!』

 

「ハァハァハァッ……今度こそは、届いたか……」

 

滝のような汗が流れる、冬の寒風が身体を冷やさんとするが身体に籠った熱は全く冷えない。白熱しきったレース、疲れ切った身体にはもう一歩たりとも踏み出す力も残されていない。

 

「負けましたわ~……でも凄い清々しいです……ね師匠」

「全くですわ!!こんな走りが出来て私達感激ですわ~!!」

 

肝心の二人は自分よりもずっと元気で笑いそうになった、そんな奥に居た戦友は自分を見て笑いかけてくれた。隣で睨み付けて来るヘッドブリンガーを見ないようにするように……。

 

「戦友の笑顔がトロフィー、だな……」

 

第三回URAファイナルズ

中距離2400部門初代チャンピオン スティールヘイズ

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