貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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59話

合宿中はホテルでお世話になる事になる、リギルも使う一流ホテルなだけあって設備も充実している。それでもランページは比較的に楽に過ごせていた、何故ならばメジロ家の邸宅はこれ以上だからである。実質的な実家よりも出先の高級ホテルの方が過ごしやすいという謎な状況になりながらも朝のバイキングを楽しんでいた。

 

「ったく南ちゃんってば鬼すぎるぜ……」

 

始まって数日だが、合宿の名に恥じない濃いメニューに思わず愚痴が零れてしまった。必要である事は分かっているが、流石にキツい……しかも南坂は自分の限界を見極めているからかオーバーワークにならないギリギリ外角一杯に剛速球をぶち込んでくるのである。ご丁寧な事にホテルのマッサージコースも予約されているからか、翌日には綺麗サッパリ疲労が回復しているのでまたトレーニング出来ますね♪という素敵なループが出来上がっているのである。

 

「イクノも似たようなメニューやってんだよなぁ……まあ俺より楽だけど」

 

同じクラシックを走っているイクノもコース自体は同じ、内容的にはイクノの方が幾分か濃度は薄いがそれでも一般的なウマ娘基準で見たら普通にスパルタトレーニングである。

 

「やぁっ此処良いかな?」

「何だ誰かと思ったら会長さんかい」

 

大盛りのプレートを持ってやってきたのはルドルフだった。先日からリギルも合宿に入っており、同じ環境で行う事になった。

 

「やれやれ、私はそこまで食べないんだが合宿中はこれが一番辛いかもしれないな」

「なんだよ少食なのか」

「ああ、だが合宿はこれ位食べないと持たないんだ。だから無理にでも詰め込んでいるんだ」

 

困った顔をしながらも食事を始めるルドルフ、史実でも食が細くて厩務員が苦労したという話を聞いた事があるが、如何やらウマ娘でもそれは同じらしい。ウマ娘基準で考えると普段の食事は少なめに当たるらしい。そんな食事を続けていると、唐突にルドルフが聞き辛そうな顔をしながら尋ねて来た。

 

「聞きたい事があるんだが……南坂トレーナーはスパルタトレーナーだったかな、私の記憶では無理なトレーニングはしないタイプの人だったと思うのだが……」

「ああ、安心してくれ。あれはオーバートレーニングじゃないから。ギリッギリの所を見極めてるから」

「あれで、か……」

 

ルドルフはタイヤを引っ張りながら海の中を歩いたり、深く乾いた砂浜でダッシュさせたりする光景を見ていたのでメニューを黒沼トレーナーのものと間違えているんじゃないのか?と思った程だった。

 

「辛くはないのか?」

「あれが辛くないとでも思ってんの、アンタもやるか」

「すまない」

 

辛いか辛くないで言えば辛いに決まっている。何せ太腿辺りまで海に入っているので動きづらい上にタイヤは常に波にさらわれる、しかも海は常に一定という訳ではないので時間が過ぎる程に波模様も変わっていく。サーファーが喜ぶ位の波が起きている時もあったので、非常にキツい。これを午前と午後に行っている。

 

「何ならリギルのトレーニングに混ざってみるか?カノープスと同じ合宿所なんだ、合同練習を持ち掛ければきっと認められると思うが」

「ご厚意には感謝するが遠慮させて貰う。これも惚れた弱みって奴だからな、折角考えて貰ったメニューをやり遂げなきゃ筋が通らねぇってもんだ」

 

そう言いながらも最後の一品を完食すると、そのまま食器を片付けていく。自分に別れを告げてそのまま退出していく彼女を見送りながらもサラダを口へと運ぶ。なんだかんだ言いつつも、ランページと南坂の相性は極めていい。寧ろトレーナーとウマ娘の関係としては理想的なまである。

 

担当するウマ娘の身体の事を理解した上でメニューを組む南坂(トレーナー)とそのメニューがどんな物だろうと信じて最後まで遂行するランページ(ウマ娘)、此処までの物を見るのは沖野とシービー以来かもしれない。

 

「……走ってみたくなってしまったな、彼女と本気で」

 

 

「という訳で頑張ってくださいね」

「……この荒波で?」

「はい♪」

「―――鬼ぃ!!!」

 

今日の海は荒れている、入るなと言われる程ではないがそれでも荒れている。それでも問答無用で入れという南坂に流石のランページも大声で鬼!!と叫ぶほどであった。

 

「見て分かる!?昨日よりも荒れてんだぞ!!」

「はい、でもこの位ならまだ許容範囲内ですので大丈夫です。あっ出来ませんか?」

「やってやろうじゃねえか南ちゃん野郎!!」

「はい頑張ってください、後今日は30分追加でお願いします」

「くそがぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

「お、おハナさんあれって……」

「……可笑しいわね、彼って黒沼みたいな感じじゃなかった筈だけど……」

 

荒れる海の中を往くランページを見たリギルの面々は思わず凍り付いた。大きな音を立てて砂浜に打ち付けられる波、その中に入ってタイヤを引きずりながら歩いている光景は正しくスパルタトレーニング。東条としてはあれって本当に南坂だよな、と疑問を思うレベル。

 

「……おハナさん」

「貴方にやらせるわけがないでしょフローラ、あれはランページの体格とパワーがあるからこそ出来る事なのよ」

 

負けじと自分もと言いだしそうなフローラを引き留める、負けてられないと言いたくなる気持ちは分かるのだが……流石に容認出来ないしフローラとの相性は悪いだろうし悪戯に身体を痛めつけるだけの物になってしまう。あれをやるのだってシンザン鉄で鍛えていたからこそだ。

 

「ムゥッ……だが南坂トレーナーが無意味にあんなトレーニングをするとは思えない……」

「目敏いじゃないか、あれは完全な信頼があればこそだよ」

 

リギルの中にはテストに合格してチーム入りしたビワハヤヒデもいた、そんな彼女としては南坂が考えも無しに取り入れるとは思えない。そしてその考えはルドルフによって肯定される。

 

「曰く、外角一杯ストレートでオーバーワークにならないようにしているらしいよ。加えて終わった後は温泉とマッサージで入念にケアをしているらしい」

「計算高い彼らしいと言えば彼らしいけど……これは、相当に厄介な事になるわね」

 

この合宿で恐らくカノープスはまた一段と大きくなるだろう、特にランページはより一層強くなるはずだ。そんな彼女が出走するローズステークス、ひいては秋華賞……これは無敗のトリプルティアラは彼女が取ってしまうのでは、そんな弱気な事をつい考えてしまう。

 

「カノープスに負けてはいられないわね、年間最多勝利チームとして迎え撃つわよ。今年の合宿も楽な物ではないわ、覚悟しておきなさい!!」

『はい!!』

 

自分を含めてチーム全体の引き締めを行いつつもトレーニングを開始する。リギルにはリギルの意地がある、負ける訳には行かない。

 

 

 

ゲホガッホ……1、1時間半歩き続けたぞ……」

「お疲れ様でした。それでは休憩の後は砂浜ダッシュタイヤ付きです」

「こうなったら自棄じゃぁ……」




昔、ドラベースという漫画で、3時間温泉で立ち泳ぎをするという描写があってね……終了直後にこんな感じのやりとりがあったんだよ。

誰が分かるんだよこんなピンポイントな所。
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