「あ~あついに来たよ来たね来ちゃったよこのレースがさ、改めてなんなんこの面子」
極めて今更過ぎる発言であるが、改めてメンバーを箇条書きにすると元中央トレセン生徒会長、メディア露出で騒がれた一般ウマ娘、アイルランドからの留学生、重賞勝ち経験ウマ娘、アメリカのトリプルティアラでG1 9勝ウマ娘、運命に噛みついたウマ娘、セクレタリアトの再来と言われたウマ娘、スーパーアイドルホース、永世三強の一角、オグリの地方時代のライバル、独裁暴君、その暴君のライバル二人、南部杯覇者、大井の守護者、ドリームトロフィーリーグトップランカー、元ドイツ軍人現ウマ娘トレーナー。箇条書きにするとこのレースの顔直具合がよく分かる事だろう。
「つうかよ、日本とアメリカとアイルランドの対抗戦みてぇな状況だな……」
「応、アメリカ勢が増えた原因見てぇなもんだろテメェ」
「自覚はしているが反省も後悔、そして自責の念も欠片もないっいでででででででっっ!!?」
「ちったぁ反省しろバカ」
ウザいどや顔をするサンデーサイレンスの頬を引っ張る、スタッフは止めるべきかと悩んでいるとサンデーサイレンスが頬を抑えながらもランページへとダル絡みをする。
「ランページそんな事して俺のモチベ下がったら如何してくれるんだよぉ?」
「この程度で下がったらテメェがそこまでの事だ、さっさとアメリカに消えろ」
「言ってくれるねぇ……―――なぁっ?」
刹那、周囲の空気が真空になったかのような息苦しさを覚える。それはレースを戦場と捉え、その脚で相手の夢や希望を文字通り踏み捻って来たからこそ出せる殺気。戦場で命をやり取りしなければ絶対に出せぬそれを出している、ライガーテイルは軍属経験があったかと真面目に思考を巡らせている。
「下らねぇ事で一々んなもんだしてんじゃねぇよ、今度の新型GTRの試乗会キャンセルするぞ」
「あってめっそりゃ卑怯だろうが!!?」
「俺ちゃんってば暴君ですので~」
「だぁぁぁぁそれだけはやめろ楽しみにしてんだ!!わぁったよちゃんとするから勘弁しろ!!」
「ならばよし」
あの殺気の中で平然としているランページに周囲はざわついていた。あのサンデーサイレンスの殺気は本職軍人ですら汗を流すと言われているのに……そんな中、ライガーテイルが歩み出た。
「貴様がメジロランページか……話は聞いている。昨年は挨拶ができなくて悪かったな。私はライガーテイル。G5……以前のレースに出ていたヘッドブリンガーの担当をしている身だ」
「ああ、あの威勢のいいあいつか」
「貴様のファイナルズに出走してからはある程度だが真面目に訓練を行うようになった、その事について感謝を述べておく」
ファイナルズに出た事がいい方向に向いたという事だろうとランページは捉えているが、ライガーテイルからすればもっといい事だった。だがそれを敢えて口にするほど野暮ではない。
「その礼だ、レッドガンの流儀で貴様のレースに応えよう」
「俺は独裁者で暴君らしくてな、軍人の流儀に沿えるは分からんが……受けてたとう、G1 ライガーテイル、遺言状は
「生憎私にそれは必要ない、転んで死んだ、その一言だけで十分だ」
そう言って自分のゲートへと向かっていくライガーテイル、ハナとは別の方向性で厳しくはあるが包容力のような物もある。不思議な魅力のある人物だ。
「ランページ、紹介する。フジマサマーチだ、私の友達でライバルだ」
「お、おいオグリ……勘弁してくれ」
「お噂は矛矛聞いてます。オグリさんにとって初めて且つ一番一緒に走りたかったライバルだと」
「何を言ったんだ……!?」
「何をと言われても……全部?」
今度やって来たのはオグリ、そしてそんな彼女に引っ張られるようにやって来たフジマサマーチ。カサマツトレセン所属の一ウマ娘としては中央どころか世界を駆け抜けたランページとは格が違い過ぎると緊張してしまっている。
「今回はレジェンドレースに参画して頂いて有難う御座います、ですがここに立った以上レジェンドだの格がどうこうというのは忘れましょう。一人のウマ娘として貴方に勝負を挑む、それが私の心構えです」
「……格が違うな、オグリと同じ。分かった、折角だ勝利をもぎ取ってカサマツトレセンを世界一のトレセンにするのも悪くないな」
「それは良いな、私もそれを目指すか」
「ンで、あそこですげぇ応援してるのは先輩たちのお知り合いっすか?」
ランページが指さす先には大漁旗にも見えるほどに鮮やかな旗を振るっている男性とその周囲で大声を張り上げているウマ娘たちがいる。それを見てオグリは笑顔を作るがマーチは頭を抱えた。
「ああ、私の友達だ」
「だからと言ってあんなに目立つようなことを……」
「まあいいじゃないっすか、こんな場面でも大声張り上げて応援してくれるのは素晴らしい」
「オグリィィィッ頑張れぇぇぇぇ!!!」
それはそうだが……ひときわ巨大な大声を張り上げているウマ娘はノルンエース。両隣にはルディレモーノ、ミニーザレディが確りいてノルンエースの大声に若干引いている。友人としては嬉しく思うし自分の応援もしてくれているのは良いんだが……あれは目立ち過ぎだ……これは世界に中継や配信もされる、あの姿が激写される……いやもう考えないでおこう。
「ちょっとうらやましいですよ、ああいうの」
「いや、そちらを応援している人は大勢いるだろう」
敢てそれには答えずに肩を竦めて返事をして去る。来ている事は来ているかもしれないが、あんな事は絶対にしないだろうな……そもそもあれらは友人ではない、唯の同級生なのだから。
「相変わらず凄い舞台ですねレジェンドレース」
「ホントホント、主催者が可笑しいとレースも可笑しくなるんですね」
「応喧嘩なら買うぞコノヤロー」
今度話を振って来たのはレディセイバーとアメイジングダイナ。自分のダートでのライバル格達だ。そんなライバルたちは何処か憂いを帯びた顔をしているのでランページは何を言いに来たのかを察した。
「蹄鉄を壁に掛けるか」
「っ……よく分かりましたね」
「ホント、何でです?」
「何度お前らと走ってると思ってんだ?分かるさ」
そう、このレースを最後にレディとダイナは現役を引退して後進の育成に尽力するという。全国を巡りつつ自分の走りを日本という国全体に還元してダートの更なる地位向上を目指すという壮大な計画を練っているという。
「お前らなら引退するなら海外からも引く手数多なんじゃねぇの、主にアメリカで」
「うん、実はイージーゴアさんからもそういうお話は貰ってはいるんですけど……」
「URAファイナルズとレジェンドレースの設立の手伝いを、って言われはしましたが断りました。それはアメリカのウマ娘の手だけで成し遂げられるべきだと思いますので」
それについては自分も思う。どこぞのウマ娘だって全国を巡るのを一人でやったのだ、偉大な先達に協力を仰げるイージーゴアならば必ず出来る筈だ。
「ンで全国のウマ娘の向上を目的にってか」
「と言ってもダート中心にならざるを得ないけど、芝は元々盛んだからいいかなぁって」
「まあそっちはな、パーマーにライスにハヤヒデっつう例もあるし」
「主にメルボルンが被害に合ってるよね」
「だな」
そんな話をしている際にレディが視線であるウマ娘を指した。ブルボンに似ており、勝負服も赤と黒の外骨格のようで益々サイボーグのように見える。だが纏う雰囲気は全く違う……その上から羽織る赤い外套の背中には❾という特徴的な模様が刻まれている。日本のドリームトロフィーリーグのトップランカー、ナインボール。お婆様とスーちゃんからも気をつけろと言われているウマ娘。
「ナインボール……ダートも行けたのですね」
「な、なんなんでしょうねあの視線の冷たさとか」
「さあな、どこぞのお嬢様もあんな感じだったらしいし一定以上の確率で上流階級には生まれんのかね」
イージーゴアの事を引き合いに出すランページにゴアがんっ?と首を伸ばしてくる、以前と比べると本当に人間味が増したなぁっと思う。そんな事を話していると件のナインボールが近づいてきた、レディは堂々とするがダイナはランページの背後に隠れる。
「独裁暴君メジロランページ」
「これはこれはトップランカー様、何か用かな?」
「誰であろうと、私を越える事は不可能だ」
事実上の宣戦布告、トップランカーの言葉をランページは……鼻で笑って見せた。
「アンタの都合なんざぁ知らねぇな、俺は俺のやりてぇようにやるだけだ」
「力を持ち過ぎるものは全てを壊す……お前もその一人だ、イレギュラー」
「嬉しいねイレギュラー認定とぁ……だったら止めて見ろよ、この俺を、世界を変える変革者を、テメェの言うイレギュラーを、排除して見せろ」
真っ向からの言葉にナインボールは何も応えずに自らのゲートの前へと移動していく。ブルボンもサイボーグと言われるが、あれは全く別の無機質さだ。あれには負けたくない。
「あっちも凄いですね……ワールドレコードホルダーの世界最速最強に」
「私たちは眼中になしですが、いいでしょう、力を見せて上げます」
様々な思いが交錯する中で、遂にゲートが―――開かれようとしている。
次回、出走!!