貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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597話

「なあ帰っちゃ……ダメなんだよなぁ……でも帰りてぇなぁ……」

「ある程度自重してくれてるようで俺は安心してる」

「いやでもするってぇの……はぁ、これからも続くと思うと鬱になるなぁ……そりゃシンザンパイセンもいまいちいい顔しねぇわけだよこん畜生」

 

じっくりとっくり休息を取らされたランページはトレーナーとして再び復帰した、新年になって新しくデビューするスズカ世代、俗にいう97世代の追い込みをしなければならないというのもあるのだが……今年になってクラシッククラスへとなったエアグルーヴのレースも確りとある。桜花賞のトライアル、即ち……

 

『さあ今年より名を改めましたレース、かの暴君メジロランページ、その功績を称えて満場一致で認められたこのレース!!チューリップ賞ランページ記念がまもなく始まろうとしています!!』

 

そう、今年よりチューリップ賞はチューリップ賞ランページ記念と改められることとなった。どこぞの弥生賞よりかはいいかなとは思っているが、それでも何というか色んな意味で帰りたくなってきた。

 

「私のティアラは此処から始まるんだ、絶対に勝つ……!!」

「勝ってあの人に続くんだ!!」

「よおしやるぞぉぉお!!!」

「「「二代目暴君は私だぁぁ!!!」」」

「もう勝手に名乗っていいからやめてくれ」

 

地下バ道から出て来てゲートへと向かっていくウマ娘たちは口々に自分に憧れている旨の発言をして士気を高めている。これがティアラ路線の大事な一戦というのは分かるのだが……名乗るのは好きにしてくれていいからマジでやめてくれと言わざるを得ない。

 

「いいのかい、名乗るのは」

「良いんじゃねぇの?俺だって自分から暴君を言い出したわけじゃねぇし……それに、当人が良ければそれでいいだろ、どうせ文句を言うのは外野だ、それに潰れるのも跳ね除けるのもてめぇ次第で分かりやすい」

 

G1焼きを頬張りながらもランページは冷静に、冷淡に思えるような言葉を吐き出した。彼女は話しやすくユーモアも通じる、だがそれ以上にレースという物に対しては何処か変わらぬスタンスを取り続ける。自分の勝ち負けですらそこまでの頓着はなく、その結果を受け止めるのみ。勝つのが好きな訳でもなく、負けるのが嫌いではない、レースが好きなだけ。

 

このレースで教え子であるエアグルーヴの勝ち負けにはトレーナーとしてある程度の思いはあるだろうが……個人的な物はないだろう、自分の名声が傷つくとかそういった事は全く気にしない。そういう意味合いでは……

 

「エアエア、お前いい太ももしてるな」

「何を言い出すんですか貴方!?何処のエロ親父ですか!!?」

「って上ちゃんが言ってました」

「うぉい俺が言った事にするなぁ!!?思った事もねぇからな!?」

「私の脚がどうでもいいと言うか!?ランページさんの元で鍛えたこの脚が!!!」

「ああもう面倒くせぇなおい!!!というか、それなら俺だって知ってるわメニュー組んだのは俺も一緒だ!!!」

「知っている、だからこそ知らんのかと言っておるのだ!!」

 

本当に厄介なウマ娘だ。

 

『さあ今、ビワハイジがゲートイン。チューリップ賞ランページ記念今―――スタートしました、ちょっと12番マヤカプチーノが遅れたがいいリカバリーを見せました。先行争いに行くのはアーヴァトレイダー、カネダシャープ、いや全体的に前へ前へと出ています!!14人立てのレースですがその半数を超える数のウマ娘が駆け抜けております!!』

 

「なんだこのレース……」

「何というか、見事に名前に踊らされてる感が凄いな」

 

思わず呆れたような声を上げるランページとこんな事があるのかと困惑する上水流、今回のレースを迎えるにあたって二人は出走ウマ娘について確りと調べて来たが……今回前に出ている中で本来の脚質で逃げは2人、他は差しやら先行の筈なのに逃げを打っている。それに引かれるように後続の走りも引っ張られている、無謀なハイペースに突入している。

 

「仮にも重賞、G3レースだぞ。それなのになんだこれ、ふざけてんの?どっちが言い出したなんてどうでもいい事だが……この程度でGOサイン、いけると判断したんなら……センスねぇよ」

 

その切っ掛けを作ってしまったのはランページだろう、レジェンドレースの走りが余りにも鮮烈過ぎて頭から離れない、あの走りをさせてみたいなんて幼稚な思いを形にしてしまったのだろう。だがその危険性を理解できないような重賞に挑んではいけない。

 

「エアエア―――全員、ブチ抜け」

 

 

 

 

先行の位置、の筈なのにいつの間にか差しの位置になっていたエアグルーヴは目の前のそれらが余りにも幼稚な走りだと思った。本来の走りならばいい勝負が出来ていた筈なのにそれを台無しにしてしまっている、もっと時間をかけてシニアクラスで挑戦、ならばきっと自分も警戒した筈だろうが……こう思うとつくづくマヤノトップガンの天才性には頭が下がる。そして観客席のランページのそれを感じ取った、ブチ抜けという指示を。

 

「やれやれ、貴方がそれを私に言うのか?」

 

分かる自分も随分と大概な気がする、これもフローラの走り方を参考にしているせいなのだろうか……そう思ったらなんか寒気がする。

 

「だがビワハイジ、お前は違うな」

 

あくまでポジショニングの関係で逃げウマ娘たちの背後辺りをキープし続けているビワハイジ、あれは例外だ。シンプルに上手い手だ、スリップストリームを最大限に生かして体力を保っている。トレーナーの指導方針もあるだろうがその場その場のアドリブを戦術に転化できる、相手にするには一番厄介なタイプだ。

 

「なら私は―――全力でお前たちを潰そう……!!」

 

刹那、追い込みのウマ娘たちが上がり始めようとする時に正面から異様なプレッシャーを感じ取った。そしてそのまま芝を大きく蹴って加速し始めるエアグルーヴ、一気に距離を詰めていくそれは思わずランページのそれを重ねてしまう人もいた。

 

『エ、エアグルーヴがもうスパート!!400を切った、ビワハイジが外を突いて先頭!!だが内からエアグルーヴだ!!エアグルーヴがやってくる!!エアグルーヴが内から、ビワハイジが外から伸びてくる!!残り200!!完全に二人の争いだ、此処でエアグルーヴが渾身の一伸び!!1バ身2バ身と差を広げていく!!チューリップ賞ランページ記念、初の勝者、暴君が率いるプレアデスの女帝エアグルーヴぅぅぅ!!!!トレーナーの名を冠するレースで勝利を掴んだエアグルーヴ!!この勢いで桜花賞へ、トリプルティアラへの旅路へと挑みます!!!』

 

「勝ちましたよランページさん」

「応見てたぞ、というかなんでお前俺のブチ抜けっての分かったの?」

「……何となく、ですかね」

「エアエア、フローラみたいにならないでね?なったら泣くよ俺」

「なりませんよ!?な、ならないよな上水流トレーナー!?」

「……12%ってところかな」

「それは何の数字だ!?どっちの意味でだ!?近づいているという意味でか!?」




なんであいつ、フローラの事書いたのに夢で魘されなきゃあかんの?もっと絡み書きなさいよ!!じゃないですよ……あとホントに足つぼ痛かったんだから!!ってすげぇ文句言われた。それには溜飲が下がった。
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