貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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60話

「ゲホガッハ……ゼェゼェゼェ……」

「大丈夫ですかランページさん」

「分かって聞いてんだろ南ちゃん……」

「余裕ありそうですね」

 

砂浜に打ち上げられたランページ、徐々に歩く時間が伸びてきている。そんなランページを見つめる南坂の発言に近くで走っていたリギルのメンバーは信じられないと言いたげな表情を作った。何故ならば、大波に呑まれて打ち上げられたランページに余裕があるというのだから。

 

「まだ30分残ってますので頑張ってくださいね」

「労いの言葉が一つもねぇぇぇ……南ちゃんの鬼ぃぃぃぃぃぃぃ……」

 

再びやって来た波にさらわれて海へと強制連行されていくランページ、遠ざかっていく言葉は次第に聞こえなくなっていく。そして数秒後には……

 

「無理ですかね」

「……やってやろうじゃねえか南ちゃんこの野郎!!」

「為せば成る為さねば成らぬ何事も、私の好きな言葉です」

「アンタはリピアーなのか第0号なのかどっちかにしやがれ!!ああやったるよやったりますよこんちくしょう!!!」

 

大きな水飛沫を上げながら立ち上がって再び歩き出すランページという姿があった。これはこれで信頼というべきなのだろうか……と疑問が浮かび上がったのだが、それを見て驚いていた東条が手を叩いた音で正気に戻ったのか自分達のトレーニングへと戻っていく。それを見届けた後に東条は南坂の下へと向かった。

 

「少しいいかしら……本当に貴方、無事是名バを目指してるカノープスの南坂?本当は全く別人が南坂の皮を被ってるとかじゃないわよね?」

「人を外星人のように言わないでください、私はカノープストレーナーの南坂ですよ」

「私の知ってる貴方は担当ウマ娘を今みたいに扱わなかったと思うんだけど……」

「当然ですよ、ランページさんだからやってるだけですから」

 

流石に彼女みたいな事をターボやネイチャたちにやっている訳ではない、色んな意味でタフなランページだからこそやっている事なのである。肉体的にも非常なタフだからこそこのメニューも取り入れている。そうでなければ―――その先のレースで勝つ事は出来ない。

 

「トリプルティアラを目指しているからってやり過ぎじゃないかしら?」

「違いますよ、これはその先を勝つ為の特訓です」

「その先って……」

「ジャパンカップを見据えたメニューです」

「―――正気?」

 

ジャパンカップ、それは秋に行われるG1レース。だが唯のG1レースではない、日本の国際招待競走である国際G1レース。G1レースなので当然最高峰のレースである事は間違いないが、ジャパンカップには海外からもウマ娘が挑戦にやって来る。其処で勝つ事は難しい、国内で強くとも通じない強さを持ったウマ娘はごまんといる。レースに挑むウマ娘は殆どがシニアクラス、クラシックで挑むウマ娘はそうは居ない。

 

「有記念なら分かるわ、だけどジャパンカップは違うわよ」

「百も承知していますよ、ですがランページさんがそのつもりなんですからトレーナーとしては応援する事しか出来ませんよ」

「……まだ時間はあるから有に変える事をお勧めするわ」

「聞いてくれればいいんですけどね」

 

困った顔をしながらも瞳は全く変わっていない、寧ろ彼女が望んでいる将来を見据えている。その為に今を動かしている。彼女が走る目的は報復、勝てば勝つ程に果たされていく。

 

「まあまずはトリプルティアラを取りますけどね」

「簡単に言うわね、フローラだってレベルアップしてるのよ。そう簡単には取らせないわよ」

「それは此方だって同じです」

 

それを聞き終えてリギルの下へと向かう東条だが、今の話を聞くと一際強い警戒心を抱かずにいられなくなってきた。ジャパンカップに向けてのトレーニングとは言うが、その過程で得られる力は当然秋華賞でも発揮されることになる。

 

「参ったわね……」

 

大逃げの事や幻惑逃げの事を考えるとランページに勝つ手段で最も確実なのは実力で勝つ事や戦術眼を鍛えて作戦を見抜く事位しかない。かと言って戦術眼は本人の素質に大きく依存する上に鍛えるにしても今からでは経験も足りずに付け焼き刃程度にしかならないし、故に実力で勝つしかない……それなのに

 

「あと15分ですよ~」

「わあってるっつの!!ってまた大波がぁぁぁぁ!!?」

 

この合宿でまた彼女の実力は向上するのだろう、非常に厄介だ。今、精神的に不安定になっているフローラがランページに勝てるのだろうか……勝たせるにしても荒療治が必要になるかもしれない。

 

「……しょうがないわね」

 

恐らくだが、フローラはこの提案を飲むだろう。飲むのであれば自分は尽力するだけだ。そう思って沖野に連絡を取る為にスマホを出しながらも皆の下へと向かうのであった。

 

 

「お、終わったぁぁぁ……」

「お疲れ様でした」

 

漸く時間になったので海から上がったランページに南坂の本当にそう思っているのか分からない言葉が飛んでくる。だが、この後休憩したら砂浜ダッシュの事を考えると溜息が出そうになる、というか出るのだが……それは別の意味での溜息だった。

 

「……なぁ南ちゃん、オグリさん大丈夫かな」

「今は療養に努めているそうです、きっと大丈夫ですよ」

 

宝塚記念の直後、オグリは骨膜炎を発症してしまい出る筈だった7月のレースの出走を取り消している。温泉療養施設で療養に入っているが……色々とお世話になったが故に不安と心配は募る。今年を最後にドリームトロフィーリーグに移籍する、がもしかしたらこのまま引退してしまうのでは……と心配の声もある。

 

「秋には復帰するという話もあります、恐らくですが天皇賞だと思います」

「天皇賞か……流石に俺は無理だな、秋華賞あるし」

「一緒に走りたいですか」

「まあ……尊敬する先輩だし……」

 

トレセン学園では一緒に食事を取ったり雑談したりと色々と過ごしてきたりもした、何よりデビュー戦には応援にも来てくれた。実力もそうだが様々な意味でタマやクリークと同じように心から尊敬している。

 

「だとすれば、狙い目はジャパンカップですかね。去年もオグリさんは出走していますし怪我が良くなっているとすれば間違いなく出て来ると思います」

「ジャパンカップか……スケ的には俺出られるの?」

「ええ、問題はありません。出たいですか?」

「モチ」

 

やっぱりそうですよね、と南坂は思った通りの返答をしてくれる彼女に笑った。

 

「ならばこの合宿を頑張りましょう、以前ジャパンカップの事を言ってましたからその想定でこのメニューも組んでます」

「マジかよ……南ちゃんは止めると思ってたぜ俺」

「無謀なら止めます」

 

なら今は無謀ではないのだろうか、と思っていると先読みしていたかのように勝算は十分にあると言われた。

 

「貴方ならば勝てます。問題と言えばエリザベス女王杯の後の時間だけですが……これでも顔は広い方ですので手を尽くして何とかしてみましょう」

「―――嬉しい事言ってくれるじゃないの。流石俺が惚れた南ちゃん、益々惚れちまうぜ」

「恐縮です。ですので合宿は辛いでしょうが頑張ってください」

「そう言われたら弱音を吐く訳にはいかないな、愚痴は言わせて貰うけど。あっついでに惚れ直したついでにキスでもしようか?」

「嬉しいですけど遠慮しておきましょう、そのキスは運を引き寄せる切り札に取っておいてください」

「ハハッそりゃいいや」

 

改めて、ランページは自分のトレーナーを彼にしてよかったと心から思うのであった。

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