600話
月日は巡り、年月は新しい暦を迎える、新しい年度が始まる。桜が舞い出会いの季節となった4月のトレセン学園、今年も今年で夢を追い求め、大地を駆けるウマ娘が入学してくる。ランページにとっては4年目となるトレーナー生活、と言っても特段変わった事をするわけでもなく仕事をてきぱきとし続ける。4年目ともなると後輩トレーナーの手本や規律を見せつける立場にもなってくる訳なので確りとしてくる頃合い―――
「おいランページ、お前仕事早く終わらせ過ぎじゃねぇか?」
「アンタが遅いだけだろ、見てみろ上ちゃんと坂原さんだってもう終わりかけてんぞ」
「訂正する、お前ら全員早すぎるんじゃぁ!!!」
沖野がそう叫ぶ、今日は入学式なのでトレーナー陣にはそこまでの仕事はない。今年の新任トレーナーが挨拶をしたりサブに就くのかの決定か、これからについての話し合いやチームについて、授業への参加などを決める程度で普段に比べたら仕事量は半分以下なのでランページはパパっと終わらせてしまったのだが……どうやら周囲は全く終わっていないらしい。
「だってよ、折角和多ちゃんみたいな新人が来るんだろ?有能アピールして頼るべき先輩か否かをハッキリさせておくのは重要じゃね?相手もだれに頼るべきか分かるじゃん」
「こいつ……まだ全然終わってない俺への嫌味かのやろう」
「嫌味つうか煽り」
「なお悪いわ!!」
仕事に向き直る沖野をけらけらと笑い飛ばしながら珈琲を啜る。その一方で近くのフローラへと目を向ける事にした、何せ今年は彼女の妹たちが入って来る年なのだからうざい程にハイテンションになっている―――
「……」
「何あれ、悪霊?」
机に突っ伏してずぅぅぅんと暗いオーラが全開になっていた。何がどうしてああなったんだと問い質したくなる程度には酷い有様だ、まあ予想出来なくは無いのだが……おハナさんに一応聞いてみる。
「一応聞きますけどおハナさん、あのバカは妹から何か言われたんすか?」
「ええ、あの子の妹のアグネスフライトが私に挨拶をしに来たんだけどね……そこでウチのバカで恥知らずで日本の恥部を預かって下さり有難う御座います、今年からは私も見張りの為にリギルに入団したいと思いますので徹底的にお願い致しますって言いに来たのよ。まあそれはいいのよ、試験を受けるはあったみたいだしだけどね……」
『学園内ではそちらから話しかけないでください、私から話しかける以外では近寄らないでください。破ったら絶縁です』
「って私の前で言ったのよ、しかも笑顔で」
「うわぁ……フライトの奴どんだけキレてんだよ……」
ランページもフライトは顔見知りだが、フローラの奇行に最もキレていると言っても過言ではない。日本の歴史上、二人目の凱旋門を制したウマ娘という輝かしい実績があってもフローラのそれは打ち消せるようなものではない。これまでの事で色んな意味で限界にきているのか……それでもリギルに入ると言う辺り、まだ温情がある気がしてならない。
「フライトってどんな子か、分かるかしら?」
「プランニングが上手い奴で、アドリブが得意って感じっすかねぇ……まあフローラに比べたらなんともいい子なもんですよ」
「そりゃあれと比べたら誰でもいい子よ、貴方だっていい子よ」
「あら酷い事言うわねおハナさん」
「この位は良いでしょ別に」
そんな事をごちゃごちゃ言っていると自分の元に一人のトレーナーがやってきて書類を渡してきた、この二人の間の話に割って入るのは嫌だけどで行ってしまえ感が存分に出ている顔だった。その後ろにもいて其方はやや控えめに出している。
「あ~、え~っと……必要書類の記入終わったんですけど……」
「ああ悪い悪い、え~っと……応問題なしだ、改めて中央トレセンにようこそ健ちゃん」
「ちゃんって……これも新人いびりって奴かなぁ」
「人聞きの悪い事を平然と言わんと貰える?仇名が嫌なら普通に呼ぶわ、安心しろってそこの変態マッサージ師みたいな呼び名はせんから」
「えっ沖野さんってそんな風に呼ばれるようなことしたんですか!!?」
「おいランページ新人に変な事吹き込むなよ!?」
「吹き込んでねぇよ事実を教えてるだけだ」
今回トレセン学園に入って来た新人の内、二人が挨拶に来てくれた。一人は池沿 健一、同時に金色の暴君に蹴られる映像が脳内をフラッシュバックしたが気のせいだろう。そしてもう一人は桐生院 葵、トレーナー界隈では名門と名高い桐生院家の一人娘、父も母も一流のトレーナーとして名を馳せている為に、彼女はトレーナー界のサラブレッドともいえる存在だ。これはまたトレーナーとしても厄介なのが入って来たなぁと心の中で思うランページであった。
「お前らも担当取る時が来たら気をつけろよ。沖ノッチは隙あらばウマ娘の足を触ってレビューすっからな、まあそのレビューは極めて正確で筋肉の状態の把握とかに関しては超一流って事だ」
「じゃあ運動後とかのそれとか沖野さんに聞けばいい参考になるって事じゃ……」
「確かに……ウマ娘の足を触って確認するのは割とメジャーですもんね」
「問題なのは―――相手の同意を取らずにやる事だ」
「「変態じゃん!!?」」
「ちげぇわボケ共!!?」
「ボケはテメェだろ」
今ので割と二人が常識的な事が分かって心底ホッとした。
「まあ二人はこれからトレーナーとして色々頑張っていくんだから先輩とか気にせずに頼ってくれ、なんだったら飲み屋のツケも許容してやらぁ」
「えっマジ?」
「1ヶ月5万まで許容してやろう」
「いやそもそもお店に行くならお金の確認は当たり前なんじゃ……」
「言われてっぞ沖ノッチ」
「うるせぇ!!誰が金欠だ!!」
「フ、フラちゃん……私は、私は……そんなに私の事、嫌いだったなんて……」
「あれだけの痴態やってそれは今更すぎないかしら……?」