貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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61話

合宿も順調に行われ続けて気付けば8月へと突入。イクノのフェニックス賞がこの時期だったなぁと思いだしながらも今日も今日とてランページは海でタイヤを引っ張っていた。今日の海はある程度波もあるのだが……流石に合宿に入ってから毎日引っ張っていた影響か、流石に慣れて来たのか余り苦しさを感じなくなってきた。まあそのお陰で午前と午後だけだったのが、早朝の分も追加されて一日3回やる事になった上に一回の時間も長くなってしまった訳だが……

 

「慣れていくのね、自分でも分かるわ」

 

そんな事を言いながらもタイヤを引っ張っているランページ、そんな事やっていると何やら砂浜の方へとと迫ってくる賑やかな声が聞こえて来た。

 

「ラン何やってるの!?」

「特訓、なんですのそれ!?」

「何だ誰かと思ったらお前らかよ」

 

誰かと思って其方に顔を向けてみれば、そこにはスピカの面々が居た。特に顔見知りなテイオーとマックイーンは今やっている事に驚いているのか大きな声を上げてしまっている。

 

「おや、スピカの皆さんも此方にですか?」

「なんかよく分からないけど、なんか合宿場所変えんぞ~ってトレーナーが急に言い出して来たんだ~」

「ほうほう、それはそれは……」

「よっ南ちゃん」

 

テイオーから話を聞いてるとそこへ後ろにタイシンやシービーを引き連れている沖野がやって来た。沖野が南ちゃんと呼ぶと当人は少しだけ渋い顔を作った。

 

「その呼び名はやめてください、それはランページさんの専売特許ですよ」

「何だよ堅い事言うなよ、呼び名位良いだろ?」

「だったらこっちも変態沖野さんとお呼びしますよ」

「おまっ!?」

「アハハッ言われちゃったね」

「まっ実際変態なのは事実だし」

「同意~」

「全くですわ」

 

南坂の呼び方に反論が出る所か事実だし否定のしようがないと全く擁護してくれないメンバーに沖野は思わずガックリと項垂れるのであった。嫌なら普段の行いを改めればいいのに……。

 

「にしても、お前ランページになんつうメニューやらせてんだそれ。黒沼辺りがやらせる奴じゃねえかこれ」

「実際監修はお願いしましたよ、と言っても修正されたのは2割程度で殆どは私のメニューです」

「マジかよ……」

 

あの優男を形にしたような南坂がこんなメニューを組んだ事に素直に驚きを露わにする沖野。まあそんな事は如何でも良いと言わんばかりに肝心のランページが質問を飛ばす。

 

「んでスピカは何で此処に来たんだよ、此処に3チームが結集した形になってんじゃねえか」

「おハナさんに頼まれたんだよ、こっちとしても環境を変えるのは悪くないと思ってたしな」

「成程……」

 

それを聞いて南坂は何か考え込む仕草をした。そんな時、タイシンを発見したのかチケットが此方へと走って来た。

 

「あっタイシ~ン!!如何して此処に居るの!?」

「相変わらずうるっさいなぁ……知らないよトレーナーに言って」

「それじゃあ後でハヤヒデの所行かない!?ハヤヒデも此処で合宿してて頑張ってるんだよ!!」

「……まあ顔出すぐらいなら」

「そうだな、おハナさんに挨拶もしないといけないし取り敢えず俺達ホテルに行くわ。んじゃ後でな」

 

スピカを引き連れていく沖野、チケットは後でね~!!と手を振ってからターボ達の元へと戻っていく、それを見つつも先程から考えこんでいる南坂へと視線をやるランページ。リギルの東条トレーナーが呼んだというのも気になる、何か作戦でもあるのだろうか。

 

「んで南ちゃん、リギルの狙いでも分かったん?」

「ええ、確証はありませんが恐らく間違いはないと思うものが」

「ふ~ん……んでその狙いって?」

「恐らくですが、フローラさんの為ですね」

 

フローラの為?と言われてもピンとこない。ライバルチームとも言えるスピカを態々呼んだのがフローラ一人の為……という訳ではなく、リギル全体としても利益があると考えても思い当たらない。実戦形式の練習でもするつもりだろうか。そんな担当に南坂は問題を出した。

 

「フローラさんの路線は何でしょうか?」

「ティアラだろ、俺と同じ」

「正解です。そしてティアラ路線で彼女は勝てているでしょうか?」

「NOだな。俺が勝ってるし」

「はい、分かりやすく言えば彼女は伸び悩んでいるのでしょう」

 

個人的にもフローラは最大の相手だと想定して調べたりはしている、クラシックに入るまでに彼女は負け知らずだった。リギルに入るに相応しい実力の持ち主なのは間違いない、だがクラシックに入って彼女はランページという最大のライバルによって勝利への道を阻まれている状況が続いている。そのライバルの前にもイクノもいて勝利を手に出来ない。

 

「負け続けていると良くも悪くも精神に影響が出てきます、それは練習効率にも響いて来ます。ですがそれは一朝一夕では脱せない、荒療治でもしない限りは」

「荒療治って……それでスピカを呼んだって事か」

「ええ、恐らくですが―――おハナさんはルドルフさんとシービーさんをぶつけるつもりですね」

 

それを聞いてランページは驚いた。自分だって格上のオグリやタマ、そしてクリークなどにレースの相手をして貰った事はある。格上とのレースというのはそれだけ得られるものが多い……が、フローラがやろうとすることは余りにも格上が過ぎる。

 

「おいおいおいマジかよ、相手は三冠ウマ娘だぞ。普通のシニア級とは格が違う」

「ええ、ですのでこれは一種の賭けになるでしょうね……」

 

強い相手にぶつかり、敗北を重ねて伸び悩んでいる彼女に対してより強く格が高い相手をぶつける。上手く行けば文字通りにフローラは強くなる、だが失敗する可能性も同時に高いので賭けと表現をした。

 

「おハナさんとてフローラさんが勝つなんて甘い事は考えていない筈です、だから三冠ウマ娘に喰らい付く事が出来ればランページさんにも負けない走りを身に付けられる……という感じに諭すと思います」

「んで実際成功した場合、どの位強くなんの?」

「さあ……それこそ予測が付きませんね。何せ劇薬染みた方法ですから」

 

より強き者に打ちのめされるのか、それともその強さを自分の物にするのか、それにその力を自分の物にしたとしても走りに合わない事だってある。何せ相手はドリームトロフィーで走る日本でも屈指の実力者、積み重ねられた経験と技術だからこそ出来る力を発揮出来るのかと言われた微妙な所でもある。

 

「……まあだとしても俺は走るだけだけどな」

「そうですね―――それでは今日から新しいメニューを取り入れます」

「ゲッ……」

 

ニコニコしている南坂の表情が妙に圧を帯びている気がする。今度は何だ、タイヤを引っ張ったまま泳ぐのだろうか、それとも山道という坂路を走れ問いうのだろうか。どんなスパルタ特訓が待っているのかと思っていたら……後ろから肩を叩かれた。振り向くと……

 

「フフッお元気そうですね」

「あっラモーヌちゃん先輩じゃん」

 

そこに居たのは白いワンピースと大きな帽子を被っているラモーヌの姿だった、なんというか格好のせいで益々人妻に見えるのだが……。

 

「っつうか何で此処に?」

「実は南坂さんに御呼ばれしたんです」

「南ちゃんに?」

「確かに私がお呼びしましたよ―――ランページさんの特訓相手としてね」

「……え"っ」

 

声が濁る。そんな自分にラモーヌは笑いながらもワンピースに手を掛けると、一気に脱いだ。その下はジャージだった、つまり……そういう事なのだろう。

 

「今日からはラモーヌさんとマッチレースを組み込みます、当然カノープスの皆さんも参加する形式の物も行いますよ」

「マジかよ……つうかちゃん先輩だってドリームトロフィーリーグで走ったばっかなんじゃ……」

「大丈夫ですよ、メジロ家の療養所で確り休んでから来てますから♪」

「(あっこれ絶対走らされる奴だ)」

 

年に二回行われるドリームトロフィーリーグ、その内の夏部門であるサマードリームトロフィーでラモーヌはルドルフとシービーと熾烈な争いを繰り広げていた。結果として、彼女は3着でシービーが2着、1着は我らが皇帝のルドルフだった。以前の模擬レースの仕返しと言わんばかりにルドルフが勝利した模様。

 

「もう一人呼ぼうと思ったんだけど予定が付かなかったの。だから私だけで我慢してね」

「いやいやいや……ちゃん先輩だけでもとんでもねぇ贅沢なもんだから……」

「フフフッ冗談よ、それじゃあトリプルティアラを取る為の特訓開始と行きましょうか」

「言っておきますが今日までのトレーニングはラモーヌさんと走る為の条件でもありました、一定水準まで行けなかったらラモーヌさんはお呼びしないつもりでした」

「それって……」

「此処からがキツいので頑張ってください♪」

「……やっぱ南ちゃんって鬼だわ」

 

これまでのあのトレーニングよりもつらいって一体どんな事をさせられるのだろうか……色んな意味で考えたくはないが、ラモーヌと走れる事はいい経験になるのは間違いない筈だ……其れはそれとして辛い。

 

「なので鬼は鬼らしく務めてみました」

「冗談冗談南ちゃんは天使だよ慈悲の塊だよ」

「はい、ではこれをトリプルティアラとジャパンカップに向けての慈悲だと受け取ってくださいね。それではラモーヌさんお願いします」

「任せてね♪」

「やっぱ鬼だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

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