「っつぁ~……気分わりぃ」
「なんだなんだ如何した、偉大な暴君様にしては珍しい姿晒してんじゃねぇか」
「今からかってんなら本気で買って喧嘩に発展させたるぞ、今マジで気分悪いからな」
「なんだ如何した、二日酔いか?」
「かもしれねぇ……人生初だぜクソッたれが……」
あれから数日が経過しているが、ランページの体調は悪化のままよくならない。その状態でも仕事の質と速さを一切落とさない辺りは出来る女だと自称する辺り、本当に出来る女だという事を証明している。かと言っても現役中に一度も怪我も病気もしなかったランページとしては極めて珍しい姿という事は言うまでもない。
「そんなので春の天皇賞は大丈夫なの?」
「問題ねぇよおハナさん、唯走るのは勘弁ってだけだ。ブライアン達には悪いが、出すのは足じゃなくてく口だけにさせて貰うぜ」
「問題ないわよ、あの子には全盛期の貴方の走りを目指させてるわ」
「あ~あ、俺はもう全盛期じゃないのかなぁ……これでもワールドレコードクラスは出せる自信はあるんだぜぇ俺」
「いや、それも異常だからな?」
そんな事を言われながらもランページは仕事を進めていく、ネメシスのヘッドコーチにプレアデスのメイントレーナーともなると忙しいのだ。気分が悪い事は悪いが……まあ何とかするしかないだろう。しかしこの気分の悪さは何なんだ……。
「なぁランページ、一回主治医さんに診て貰うべきじゃないか?何事も身体が資本だし」
「そうだなぁ……これからエアエアのティアラ路線も本格化するんだし俺の身体も労わらないといざって時に動けないからなぁ……しゃぁねえか、今日の晩酌は中止だ」
「おい、まだ飲む気だったんかい」
「しょうがないだろ、夕食には一本のビールは欲しいんだから」
「まあ一本ならまだいいかしらね……だけどせめて飲むならノンアルにしなさい」
「う~っす……」
もう直ぐ皐月賞だというのに……まあ来年じゃなく良かったと思うべきか……来年からは遂にスズカ世代に入ってしまう。そうなると今年の比じゃないレベルで忙しい。今からそれを考えて自分の身体を使うペースを少しは調整するしかないか……。
「つってもおハナさんもおハナさんでもうちょっとペース落としてもいいと思うんだけどな俺としては。フローラがトレーナーになったからと言っても、元からリギルは大所帯なんだからよ」
「その辺りの心配は無用よ、マネジメントに自信がないならその時点でハウンズを引き継いだりはしないわよ」
「やれやれだぜ」
「ンで俺って病気だったりしないよね」
「なんでそうも軽いのかなぁ……」
上水流付き添いの元、仕事を終えてから主治医の元へとやってきたランページ。主治医としては身体の不調を感じたのでちゃんと来てくれた事に感謝しつつも直ぐに来なさいと思いつつも、ランページの身体を診察していくのだが……聴診器を当てた辺りから明らかに主治医の動きが可笑しくなった。慌ただしく看護婦さん達と共に動き始めており、何事かと思い始めて来た。
「急患でも来たんかね」
「あ~有り得るね、病院だからどんな事が起きても不思議ではないよね」
「失礼しますよ、ランページ大人しくしていますか?」
「あれお婆様?」
「私もいるわよ」
「あらまスーちゃんじゃない」
診察室の扉を開けて入って来たのは何度お婆様ことメジロアサマとスーちゃんことスピードシンボリだった。態々この二人を呼んだのかと思ったか、二人は二人で定期健診で、その結果を聞く為に待機していたのだが、丁度ランページが来ているという事なので顔を出しに来た模様。
「ランページ、身体に異変が?」
「いやね、この前スーちゃんとウーちゃんと酒盛りした時から妙に気分悪くてな。二日酔いが続いてるみたいなんすわ、ワクの俺が二日酔いとは情けねぇ」
「ああ例の3人で9本バーボン開けたという……流石にバーボンをそれだけ開けるのは私もバカだと思いますが」
「言うな~だって苦労話と海外話に花が咲いちゃってお酒が進んじゃってね~でもランちゃん、そんなに二日酔いが続いてるの?そんなに長い事続く二日酔いなんて酒豪列島でも行かない限り起きない筈だけど……」
「だからこそ、僕がこうして付き添いで連れて来たんです。チームの一人がティアラ路線の大切な時期ですし、そこでチームトレーナーに何かあったら大変ですからね」
「良い判断ね上水流さん、ランページあなたも体調管理は基本だというのに……」
「すいません反省してます。これからは日本酒一本でいきます」
「そうじゃない」
楽しげな談笑をしていると如何にも息を整えてきましたという主治医が漸く入って来た。そして、アサマとスーちゃんを見て咳ばらいをしつつも口を開く。
「慌ただしくして申し訳ありません。一先ずランページお嬢様の診察についてですが……処方薬で症状を軽くする事は可能ですし重い物でもありませんでした」
「あ~よかった~んじゃ明日から晩酌復活だな」
「少しは懲りろよ」
「何言ってんだ、楽しい時間は痛い目と隣り合わせだからこそ楽しいんだろ」
「ギャンブラーかよ」
「いいえ、お嬢様には暫く飲酒を控えて頂きます」
「え~」
ブ~垂れて抗議するような声を出すが主治医は断固として反対の立場を取り続けた。ハーブシガーでもお世話になっている手前、何も言えないなぁ……と分かったよ、とこれからはノンアルかぁ……と思っているとアサマが保護者としてどのような症状なのかと尋ねた。すると……
「それが……」
主治医は酷く言い難そうな顔をした。やっぱり二日酔いなのか、と思っていたのだが、主治医は意を決したような表情になりながらも姿勢を正しながら―――言った。
「17週目、といった所ですね……」
「「「えっ?」」」
「えっ二日酔いってそんな続くの?マジで酒豪列島行ってないよ?」
「まさか、その言い方は……」「もしかして……!!」「えっマジで!?」
何が何だか分かっていないランページを置いてきぼりにしつつも三人はその言葉が何を指しているのかを即座に察した。アサマは驚き、スーちゃんは歓喜し、上ちゃんは困惑を隠せていない。
「おい俺だけおいてくなよ、俺の事なのに俺が一番分かってねぇんですけど」
「……お嬢様、落ち着いて聞いてくださいよ」
「俺を動揺させたいならフローラか南ちゃん連れてこないと無理よ」
「……では、お嬢様」
「応」
「ご懐妊、おめでとうございます」
「応……えっなんて?」
流石のランページも何を言っているんだお前は、と言いたげな顔になってしまった。なので主治医ももう一度言い直す。
「妊娠17週目に入っております、しかも……恐らくですが……双子に御座います」
「うっそぉ!!?全然お腹目立ってないけど!!?」
「やったわねアーちゃん!!一気に二人よ!!」
「遂に、私も……」
周囲のテンションがブチ上っている中、ランページは未だに取り残されていた。いや理解はしようとしているのだが……自分の想定を超えて来たのでフリーズしている。
「……つまり、俺、お母さんになんの?」
「はい……恐らくですが、ランページお嬢様はライアンお嬢様と共に鍛え抜いた身体ですので他の方よりも腹筋が丈夫だった為に、分かりにくかったのだと……つまり、お嬢様の症状は悪阻……という事になります」
「……そんな状態でバーボンとかバカじゃん……」
お母さんになるという嬉しさよりも先に、なんでバーボンなんて飲んだんだよ……という思いが溢れて来るランページ、よしこれは生まれてきた子供に戒めとして語り継ごう。こんなバカな母にはなるなと言い聞かせよう。
「というか17週って……あっ、あの時か」
「……俺が仕事のミスして、後始末手伝って貰った後、慰めついでに一緒に晩酌した後の……あれ?」
「そう言えばあの時のデザート代わりに上ちゃん喰ったんだっけな」
「……うわぁ子供に話せねぇ……」
「安心しろ、俺の事は子供にも話すからお互い様だ」
「取り敢えずお嬢様、お説教は覚悟してください」
「あっやっぱり~?」
『まさか本気で気付いていなかったとは……私達の加護が効きすぎたか?』
『確かに安産多産の効果もあるけど……此処までとは思わなかったぞ子羊君』
『楽しみですね、未来が』
悪阻云々は私の母を参考にしました。
母もこの辺りで悪阻が来て、一番きつかったと言ってましたので……