貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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621話

「オラオラオラ、テメェら腑抜けた走りしてるなら全員プレアデス脱退させるんぞ~少しはステゴを見習って俺を抜く気概を見せてみろ!!」

「いやそもそも走らないでくださいよ貴方は!!?」

「若造どもか、人をもう年寄り扱いか?だったら、全力でブチ抜いてやるからステゴ、抜けるもんなら抜いてみろ!!」

「いいじゃん、抜いてやんよ」

 

プレアデスのメンバー相手に平然と走っているランページ、本当に妊娠しているんだよな……!?と思わせるような往年の走りを見せつけて来る彼女にメンバーは愕然としながらも必死についていく。妊娠しているというから走り難さがあったのだが……そのバイタリティに低下の様子は全くと言っていい程に見えない。

 

「よ~し休憩」

「結局抜けなかったなぁ……良い所まで行ったと思ったんだが」

「その走りさえできれば海外でも勝てるぞ」

「マジか」

「マジで」

 

水分補給をしながらもステゴと暢気に会話をするランページに周囲は戦々恐々としていた。話を聞いてから試しにお腹に耳を当てさせてもらったが、確かにランページの鼓動に加わって二つの小さな鼓動が聞こえて来ていたが……だから妊娠は間違いないはず、なのだが……。

 

「マヤ、お前さん天皇賞春が近いんだぞ?なのにその走りは何ね」

「い、いやそれはそのぉ……」

「そんな事してるなら俺ライスの応援しちゃうぞ」

「それは嫌ぁ~!!」

 

と言ってもライスもライスで今季での引退、ドリームトロフィーリーグへの移籍を正式に決めている。本格的にカノープスの第一期黄金期は終わりを告げる、そんなカノープスは最後の力を出そうと本気になって勝ちを狙ってくる。それなのにそんな走りでは確実に負ける。

 

「俺の事は気にしなくていいの、お前はお前さんの事を心配しとけ。自分の事も満足に出来ない奴がボランティアなんてしなくていいんだよ、他人の世話をしたところで自分の状況に結びつく事なんて事はない」

「ムゥ~……行ってる事は正しいのに何か今のランページさんにだけは言われたくない感じがする~」

 

それは一同も思った事だった。なんというか説得力という物に欠ける……。

 

「やれやれ……よっこらっと……」

 

腰を落ち着けながらものんびりと水分補給を開始するランページ、そんな姿を見ながらもメンバーは改めて気合を入れ直して走りに入る、なんだかんだでランページの妊娠というショックはそこまでの物ではなかった。これまでの無茶苦茶が功を奏したというべきか、そこまで驚かれる事も、尾を引くようなショックも内容で一安心である。

 

「あの……ランページさん」

「ああ分かってる分かってる、一応これでも対策はしてるから大丈夫だよ。ちゃんと五体満足の双子ちゃんを産むつもりだから」

「だとしても……もう少し大人しくしてください」

「ハッハッハッハッ俺にそれは無理難題」

 

その中で唯一と言ってもいい程に此方に心配を傾けて来るのはアヤベさん、まあそれは当然だろう。彼女は双子として生まれて来る筈だった妹を失っている、蟠りこそは解けており、その妹は現在姉の守護霊的な立ち位置にすっぽりと収まって、時折自分のお腹に目を向けて、自分達も母のお腹にいた時はこんな感じだったのかなぁ~と興味津々と言いたげな表情を向けてきている。

 

「普通は安静が必要なんです、あの走りを見て色んな意味で問題ないというのは理解しましたが、だからと言って安静にしなくていいという免罪符にはなりません」

「……分かってるよ、お前さんだって分かってんだろ?こいつらは俺の命に懸けて五体満足でこの世に生まれさせるつもりだ、俺自身だってお前のダービーウマ娘になる瞬間まで死ぬ気はねぇよ」

「だからそういう事を言わないでって……ああもういいわ、だったら貴方が大人しくしていられるように走るだけだわ」

「応そうしろそうしろ」

 

そんなやり取りをしていると肩に上着が掛けられた、上水流が掛けて来たものだった。

 

「少しは皆の心配を汲んであげたらどうだよ、皆君の事が大好きだからこその反応なんだぞ」

「大好きねぇ……だとしたら少しは自分の事を大切にしてほしいもんだ、俺なんかよりもよほど未来があるあいつらは自分の事を真っ先に気にするべきだ」

「その未来に君がいて欲しいんだよ」

「……なんで死別するみたいな空気になってんの?」

 

良くも悪くも出産は命懸けというからだろうか……まあ心配されて悪い気はしないのだが……。

 

「まあ兎も角だ、君はもう少し周りの心配を理解して上げるべきだ」

「理解ねぇ……絶対王者は孤独なもんでね、他者からの理解って奴には鈍感なんだよ」

「減らず口を……」

「塞いでみるかい?」

「アイアンクローで塞いだろか?」

「そこは唇って所だろ、分かってねぇな」

 

本当に南坂はこんな暴れウマ娘を制御する事が出来たな……と心の底から疑問と尊敬が生まれる。そんなカノープスともガチで矛を交えている自分達……更にリギルやスピカという超強豪もいる訳で……本当にとんでもないチームのサブトレーナーに収まったものだと我ながら思う。

 

「天皇賞春、勝てると思う?」

「やれるだけやれる事をやるだけの事よ、勝つか負けるかはそれに付随するおまけみたいなもんよ。気楽に、だけど全力でやりゃいいだけ」

「ホントこの暴君様は……分かりましたよ暴君閣下、何処までもお供しますよ」

「墓の中まで頼むわ」

「ホントそういう事を軽々と……」

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