「……ふぅっ……」
一息を吐きながらもマヤはウォームダウン、天皇賞春に向けてのトレーニングはかなりハード。と言ってもプレアデスの練習量は他のチームに比べて多めな上に緻密に計算がなされている、身体に疲れが残り過ぎないように配慮され、明日には全快して同じメニューがちゃんとこなせるように配慮もされている。ランページもこれをやって強くなったカノープス式スパルタワークである。
「タイムは順調に伸びてるし、スタミナも問題なし、無しなのになぁ~……」
マヤの悩みは順調にタイムも良い曲線を描いて上向いているというのにどうにもこの先勝てる気がしないのである。強くなっている自信はある、ブライアンにもローレルにも引けを取らないという自負はあるのだが……如何しても負けないという領域を逸脱しない。
「如何したのマヤノ~」
「あっテイオーちゃん!?」
「どうしましたのマヤノトップガンさん」
「あっマックちゃんも」
「何故かしら、その呼び方に眉間が凝るような痛みを訴えるのでしょうか……」
そんな休憩中の所に生徒会長として日々頑張っているテイオーと副会長であるマックイーンがやって来た。因みにイクノはカノープスの方に顔を出している。
「どうしたのマヤノ、元気ないじゃん」
「う~ん……実はね~」
素直にテイオーに悩みを打ち明けるマヤ、同室の誼且つ一緒にいろんな話で盛り上がり続けているからこその行動なのだが……テイオーの評価は皇帝を凌駕をした帝王という認識、親しみやすい見た目と性格とは裏腹にアメリカをも制した絶対的な実力を有した王者。それ故に前会長たるルドルフと同じように敬われているのだが、テイオーはルドルフが何故駄洒落などを言って親しまれたいと思っていたのかを理解するに至ったのである。
「成程~……天皇賞春ってなるとボクよりマックイーンの方が分かるよね?」
「ええ、解説もやりましたし」
「じゃあ教えて~!!如何してマヤ、こんなにも負けないって考えしか浮かばないんだろう」
「それはライバルに恵まれているからですわ、私としては羨ましい限りです」
「羨ま、しい?」
マヤ的にはマックイーンの言葉がいまいち納得出来ずに首を傾げてしまった。それを見てテイオーは可愛いなぁと思いながらマヤの頭を撫で、マックイーンはそれを見て本当の姉妹のようと微笑みながら答える。
「長距離レースというのはウマ娘のレースにおいてもかなり難易度の高い区分になります。長距離を走り切るスタミナとそれでも勝ち切るスピード、疲労やコースに負けないパワー、精神力などの物が求められるが故に敷居が高めです。私も現役の時は天皇賞春のトライアルレースで少数人数だった事もありましたわ。だからこそ貴方が多くのライバルがいる事が素直に羨ましいですわ、その中で切磋琢磨出来る事が」
純粋な羨望の眼差しにマヤは気付いた、負けないと思っているのはそれだけライバルたちも力を付けているであろうという事を、無意識的に確りと受け止めて慢心せずにいられた。素直に自分はまだまだ上を目指せると思っている、ブライアンやローレルはまだまだ強くなる……それに自分も、負けないように追い付き追い越さなければ……と自然に考えられていたのだ。
「そっか……マヤ分かっちゃった、マヤってば幸せ者なんだね♪」
「此処で会いましたのも何かの縁ですわね、少々お相手をして差し上げますわ」
「えっいいの!?」
「んじゃボクも走ろうかな~」
「テイオーちゃんも!?やった~二人と走れる~!!じゃあ二人ともマヤ先に行って準備してるから、遅れちゃだめだよ!!You copy!?」
そう言って笑いながらパタパタと駆け出して行くマヤを見送っているとその後ろからハーブシガーの煙の臭いがし始めたので振り返る、そこにはしのぎを削ったライバルであるランページがいる。
「よぉっハッピーかい?」
「まあまあかな~カイチョーって凄いなぁ~って思いながら会長やってるよ」
「そいつは結構、ンで如何よ坂原さんのマヤは」
「以前も思いましたが矢張り長距離向けですわね……と言っても中距離でも十分すぎる位の実力を発揮出来るとは思いますが」
「宝塚記念でも無双したお前が言うかよ」
こうして駄弁るのも久しぶりな気がする、なんというか数年で一気に自分達の関係も変わった気がしてならない……。
「なんというかランだけ大きく変わったよね」
「そうかい?俺はそこまで変わった気しないけど」
「トレーナーに電撃的になっておいてよく言いますわ」
「ハッハッハッ……まあ俺のやりたいようにやってるだけだからな」
「それ言われると何も言えなく出来るランって何なの」
「皇帝を超えた帝王を更なる上座から見下ろす暴君です」
「正しくですわね……折角ですからランページさんも走ります?」
「そっちはお前に任せる、走れなくはないけど流石に3200は無理だ」
2500が限界なので長距離レースはマックイーンあたりに任せておく。
「んじゃ着替えてこようかな、プレアデスの部室で着替えて良いよね?」
「その辺りは好きにしてくれて構わないぜ、うちのメンバーに良い見本を見せられるし断る理由がねぇよ」
「それでは参りましょうか、しかし……イクノさんがいらっしゃらないのが残念ですわ……イクノさんもいればさらに面白くなりますのに」
「あいつは俺以上に面白いからな。色んな意味で」