貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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624話

遂にこの日が来たと深く息をする、何度体験しても緊張はなくなる事はない、だけど緊張は敵などではない……敵ではなく友人として出迎えて温かく受け入れてみると驚く程に身体と心にフィットするのだ。

 

「調子はいいみたいだな」

「うん、とってもいいよ」

 

控室で準備をしていたマヤの様子を見に来たランページだが、思っている以上に元気そうな姿を見せているマヤに心配を捨て去る。そんなマヤとは対照的に少しだけ緊張した面持ちを作っているのが坂原トレーナーである。

 

「僕は何度やっても慣れないなぁ……G1だし、今回はメンバーがメンバーだからなぁ……」

 

坂原のいう事も分からなくはない。ローレルにブライアン、タンホイザにネイチャにライス、それにハヤヒデだって出走する天皇賞春、G1レースという格に相応しいとんでもない面子が集結している。実際出走回避を表明するウマ娘も存在しており、ただでさえ少人数になり易い長距離レースではあるが……流石にG1なので人数は十分ではあるが……トレーナーとしては回避したくなる気持ちは分からなくもない。

 

「本当にこのレースはタフな物になると思うよ、マヤ大丈夫かい?」

「うん大丈夫!!マックイーンちゃんとテイオーちゃんに一緒に走って貰ったから!!」

「あの二人と走るかぁ……普通ならなんか胃が痛くなりそうな組み合わせだな」

「そうか?ちゃん様とかルドルフとか相手にするより遥かにマシじゃね?」

「いやそれは比較対象が可笑しいだけ、あの二人もとんでもないから」

 

ランページなどは同期と後輩なので特に何も思ったりはしていないが……一介のトレーナーからすれば二人もとんでもないレジェンドであることに間違いはないのだ。

 

「まあ兎も角よ、マヤ楽しんで来い。可能であれば俺だって出たいレベルには面子が揃ってやがる……今年の秋天に出るか?」

「いや、君もう引退してるから……」

「撤回するってのは?」

「出来てたまるかぁ!!?」

「ギャグよ~ギャグだってば~」

 

そんなくだらない話でマヤの気持ちを解しておきながらもマヤの控室から出て、今度はタンホイザやライスの元へと向かっていく。今でこそ敵ではあるが、元カノープスとしてはちゃんと激励をしなくてはならない。

 

「にゃんぱす~調子、ドゥッ?」

「あっお姉様ッ♪」

 

自分の姿と声を聴いて耳と尻尾を跳ね上げさせるライス、うんワザとらしくやってみた甲斐があったというモノ。今日も我が妹は可愛い、後でアイスを奢ってやろう、80万円の奴を。

 

「お久しぶりですランページさん、マヤさんの方に行っていると思いましたが」

「もうそっちは行って来たよ、元カノープスとしてはこっちの応援もせにゃあかんと思ったから来たんだニャ~」

「相変わらず適当というか気楽だよねぇ~ランは」

「アタシャ昔からこういうウマ娘だよ」

 

そんな風にケラケラと笑い飛ばしていると全く緊張もしていないタンホイザの姿が目に入る。オーラも体調もよさそうだ、これは中々に苦戦しそうだな。タンホイザはライスと同じぐらいに長距離には強い、総合力ではかなり上に入るのだが総合力の高さ故に突き抜けた強さを中々持てずにいたがジャパンカップを経てそれも解消されて、ハヤヒデ並みのステイヤーになっているとランページは思っている。

 

「ンでタンホイザ、お前さんの調子は?」

「うんとってもいいよ!!凄い人参貰ったし!!」

「あ~……なんかタンホイザ宛に人参が100キロきたんだっけ」

 

少し前にカノープスの前にトラックと共にやって来たのは熱心なタンホイザ推しの女性ファン。その女性は100キロの人参とそのほか様々な貢物と共にタンホイザの引退レースへの激励をしに来たらしく、カノープス全員でそのご厚意に甘えさせてもらい、サインや写真撮影などで感謝を伝えたのであった。ランもちょうどその場に出くわして黄金期で写真が取れてよかった……とその女性はガチ泣きしていた。

 

尚、リアルのマチカネタンホイザも引退後ではあるが、100キロの人参を女性ファンから送られている。

 

「いやぁあれには俺も羨ましかったなぁ」

「ランはランで凄いファンいるじゃん」

「いや、ああいう感じで素直な推し活を家族全員でやってるのが凄いいいなぁって思った。フローラもせめてああいう感じでやってくれたら俺だって嫌悪感出さないんだけどさ……」

 

ランページもランページで無敗の暴君として大人気ではあるが、その加熱っぷりは未だに衰えぬ事がなくトレーナーとして来ているのにサインを求められたりする事も多い。と言っても何方かと言ったら民度は良い方ではある、だからこそ余計にフローラのあれに辟易としている。

 

「ネイチャもライスも今年で引退すんだろ?カノープスも寂しくなるなぁ」

「まあね~……と言っても流石に潮時だと思うんだよね、というかアタシの場合流石に長く出過ぎてるかなぁ感が持ってたんだよね。有記念を考えてるよ」

「ライスも、かな……ライスはドリームトロフィーリーグに行きたいなぁって思ってるけど」

「んじゃネイチャはそのまま引退か?」

「だね。いい加減実家も気になって来たし、それにダービーウマ娘がいると分かったら店も繁盛するっしょ?」

「既にあの店は繁盛してんだろ、二号店でも開くのか?」

「あ~それもありだね、アタシが女店主やるってのも悪くないかも」

「んじゃ開いたらチームで集まろうぜ、つうかターボの奴は何処行ったんだよ」

「ターボさんはターボさんで起業する方向性でいますからねぇ……」

「その設立に当たって俺とスーちゃん使う辺りマジで強かだなって思ったわ」

 

一応今はまだトレセン学園にこそいるが、起業する方向性で動いているターボ。秘書としてイクノも付き合うらしく、現在は色々と忙しくしている。企業名はダブルジェットらしい、テイオーから間違われた際の一つだが、ターボらしく世界に羽ばたくという思いを込めてみたとの事。

 

「このまま大きくなったら笑うよな」

「ホントそれねwwwwでもターボの会社だからね、中小だけど評判良い感じで行くんじゃない?」

「その位がターボっぽいよね~」

「ライスもそう思う、かな」

「やっほ~い間に合った~!!」

「おっ噂をすれば何とやらだ」

「我々の話だったのですか?」

 

しかしこの時、カノープスは思わなかった。後に、ターボが代表を務めるダブルジェットは起業から右肩上がりで業績を伸ばしていき、トレセン学園の卒業生が進路として真っ先に考える事になるような大企業になるとは、誰も思わなかったのである。

 

「いやぁまさか、ターボがこんな大会社の代表になるとはなぁ……」

「なんか、ここまでなるとは思わなかったもん……ランも起業したら?」

「ンな暇ねぇよ、つうか毎度毎度俺をイメージキャラに使うのやめてくんね?」

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