貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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625話

『さあ春の大一番とも言っても過言ではありませんG1レース、春の天皇賞が始まろうとしております。実況は赤坂が、解説にはメジロライアンさんをお招きしております』

『宜しくお願いします』

 

今日の解説を担当するのは何とライアン、マックイーンじゃないのかという意見も分からなくもないが、ライアンとてメジロ家の三冠として名を馳せているし、何よりランページとマジで殴り合った経験もあるので実力的には全く問題ない。

 

『本日の天皇賞春はどのような展開になると思いますか?』

『今回のレースは今の世代を牽引している世代の一つの幕引きにもなりますから色んな意味で注目度が違いますね』

『ええ。今レースでマチカネタンホイザが、そして今季でナイスネイチャとライスシャワーが引退を表明しております。カノープスの第一期黄金期がいよいよ終わりを告げてしまうのかと、各地で悲しみの声が漏れていると聞いております』

『ですので、皆さんにはこのレースを確りと見届けて欲しいです。そしてどうか終わりではなく、皆が引退ではなくまた新しい人生のレースに出走すると思って頂けると彼女らも嬉しくなると思います。なんだったらファイナルズとレジェンドレースに顔を出す事も平然とあるでしょうし』

『そうでした。元々ファイナルズとレジェンドは夢の舞台を実現する為に設立されたのですし、もしかしたらまたあの舞台で見られるかもしれないと思うと逆にワクワクするかもしれませんね』

 

そう、引退したとしても本当の終わりなどではない。何だったらランページのように平然とレジェンドレースやファイナルズに顔を出す事だってあり得るのだ。そう思うと悲しみは未来への期待へ変換されていくというものだ。

 

『前年度覇者ライスシャワーを打ち倒すのは同じくメルボルンカップを制したビワハヤヒデか、それとも三冠ウマ娘たるナリタブライアンか、それともそのライバルにして凱旋門二着のサクラローレルも名乗りを上げております。それらを踏み越えていくのはチームプレアデスが誇る菊花賞ウマ娘にしてジャパンカップ制覇のスーパーエースのマヤノトップガン、自らの引き際に華を飾れるかマチカネタンホイザ、同じくダービーウマ娘とランページ世代の意地を見せられるかナイスネイチャ、改めて列挙しても凄まじい名前が上がり続けております。本当にメジロランページの世代から色んな意味でレースが様変わりした印象が拭いきれません』

『それ、ランが聞いたらなんか言われますよ?』

『大丈夫ですよ、呼び出し喰らって出向いてみたらセントライト、ハイセイコー、スピードシンボリのお三方と一緒に暴君がいた時に比べたら何んともありませんから』

『応、だったら今度はうちのお婆様とウラヌス御大呼んでやっから楽しみにしてろよ赤坂テメェ』

『いやああああそれはご勘弁を!!?』

『だから言ったのに……』

 

そんな寸劇染みた実況と解説のやり取りのレース場からは笑い声が響いている、観客だけではなくこのレースを走るウマ娘たちの緊張も程よくほぐれていく。

 

「ライス先輩今日は宜しくお願いします!!」

「うん、チケットさんも宜しくね」

 

ゲートに入る前に声を掛けられるライス、カノープスのもう一人のダービーウマ娘たるチケットも出走するこのレース、他にもタイシンもこのレースに名乗りを上げているが、面子の濃さに先程のコメントに混ざっていない事がやや不満げなのか、走りで見返してやると言わんばかりの笑いを、浮かべている。

 

「ライスちゃ~ん今日は宜しくね☆」

「うん、マヤちゃんも頑張ろうね」

「今日はマヤが勝つからね、You Copy?」

「フフフッライスかもしれないよ」

「マヤだも~ん」

 

ライスを平然とちゃん付けして仲良さげに話すマヤに出走一部ウマ娘は戦々恐々としている。見た目こそ大人し気なウマ娘だが、その実、海外で勝利を収めている上に前回覇者、更に付け加えるならばランページに溺愛されている事も相まってライスの事をそこまで知らないウマ娘からしたら、ルドルフ級に超格上で話しかける事すら戸惑われるような立場になっている。

 

「ほう、もう勝利を確信とはプレアデスのスーパーエースは戦力分析も出来ないと見えるな」

「違うもん、それだけ自信があるってだけだもん!!ブライアンちゃんやローレルちゃんにだって負けないもんね!!」

「フフフッ負けませんよ?」

「それよりもさ、天皇賞春終わったら海外行っちゃうって本当なの~?」

「なんだ、先輩から聞いたのか」

「うんランページさんから聞いた~」

 

それは遂に凱旋門制覇に向けて本格的に動き出すという事、ブライアンとローレルは天春が終わって休養が終わり次第渡欧する事が決まった。滞在先は矢張りというべきかランページの紹介でアイルランドになっているとの事。

 

「悪いが、お前とのレースは今回で一時打ち止めだ。私の勝ち逃げとさせて貰おう」

「あらブライアンちゃん、フローラさんと走った私に逃げなんてよく言えますね。しかも長距離なら負けない自信がありますよ」

「それは此方とて同じだ。それに凱旋門には姉貴も一緒だ、私に敵はない、いるのは味方だけだ」

「それってローレルちゃんも味方判定でいいの~?」

「別に味方同士に競ってはいけないという事はあるまい?」

「なんかブライアンさんらしいね」

「だろう?ライス先輩も行くか」

「う~ん……一応トレーナーさんに相談はしてみるけど……」

「いや軽いジョークのつもりだったんだが……」

 

そこには歴史ある春の天皇賞のスタート前とは思えぬ程に和やかで楽しげな雰囲気がそこにあった。だがゲートインの指示があると一斉に空気が張り詰め、限界まで引き絞られた弓の弦のような空気へと豹変した。そこにあるのは唯一つ―――勝つのは自分だ、ということのみ。

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