貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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63話

「違う!!走るというのは脚だけじゃない、全身で走るんだ!!お前の走りは唯脚が速いだけだ、それでは確実に何れ食われる!!全身だ、全身を一つにして走れ!!」

「はい!!」

 

常に怒号が飛びながらの特訓、カノープスとしては異様な光景がそこにある。ラモーヌ自身はカノープス全体を見ているが、モンスニーは違う。彼女は殆どランページに付きっきりで指示を飛ばし続けている。

 

「それにしても凄い迫力ね……あれがシービー最強のライバルと言われたウマ娘、メジロモンスニー……是非とも走っている所を見たいわね」

「あいつの対策に俺も頭を悩ませたからな……」

 

その様子を見た東条は思わず彼女の迫力に呑まれそうになっていた。百戦錬磨のリギルのトレーナーである彼女ですらモンスニーのそれは気圧される程のモノを感じさせる。沖野としては久しぶりに彼女の迫力に背筋がゾクゾクしてきた、シービーと共に戦ったクラシックを思い出してしまう。

 

「そうだ、さっきよりはマシになってきてる。だがマシになってるだけだ、お前はまだまだ下手くそのヒヨッコだ、一つ一つの力は優れているがお前はそれを活かしきれていない。何故か分かるか」

「えっと……連携が取れていない?」

「少しは分かってきたようだな」

 

ニヤリと笑いながらも肩を叩くモンスニー、そのまま少し身体を触るぞと許可を取ってから脚、膝、腿、腰、腕、肩へと昇っていく。

 

「お前の身体は頑強だ、頑強な上に膝の関節は柔軟性が高く可動域も広い。天賦の才と言っていい物がある、言うなれば最初から最高速度が高い上にそれを活かすスペックもある上に無理も出来る。だが無理をさせているからこそ無駄が多い」

 

そう言いながらも懐からハーブシガーを取り出して吸い始める、モンスニーも吸ってるんだ……という親近感を覚えるが、如何にもその姿は酷く熟成された渋みを感じさせる。なんだか自分のそれがカッコつけの道具のようにも感じられるような差だ。

 

「お前はまだまだ最高速度を更新出来る、身体に無用な負荷を掛けずにな。今やっているのはその為のオーバーホールという所だ、思った以上に上半身のバランスも良いからそこまで時間は掛からないだろう。問題は―――使い方と繋ぎ方だ、それをマスターした時……お前はラモーヌですら到達出来なかった領域に足を踏み入れる」

「ラ、ラモーヌちゃん先輩にも……!?」

「そこは保証しよう、私には出来たがラモーヌには出来なかった。だが私にはラモーヌ程の素質が無かった、残酷な話だがな」

 

そう前置きしながらも、シガーを燻らせる。

 

「だが、お前なら出来る筈だ。現にお前は既にダブルティアラだ、それが証明している。これまでは素質によるごり押しに過ぎない……モノにして見せろ、私の全てを」

「―――はい!!」

「いい返事だ、もう一度だ」

 

そう言いながらも走り出して行くメジロ家の新入りを見つめるモンスニー。本当に羨ましくてしょうがない自分が居て笑えて来る。自分が見つけた本当の意味での走り、潜在能力を最大限にまで引き出して行う走法。それを使ってもライバル(シービー)には勝てなかった、自分と彼女とは残酷なまでの素質が違っていたのだ。彼方が溢れんばかりの才能を持つ天才ならば、自分はありきたりの力しかない凡人。凡人の限界が自分だった―――だがそれをあの娘が使えば何処まで走れるのだろうか。

 

「こんな、感じか!?」

 

才能もある、努力も欠かさない、理想的な優等生だ。だがそんな彼女には常に影がある、ライアンから聞いた時は驚いたが……走りを見て納得した。その影が彼女を強くしたのだ。だが影だけではいけない、光もいる、自分達(メジロ)がその光になってやらなければならない。

 

「まだまだっ脚を上げろ、同時に腕も速く振れ!!」

「はい!!」

 

もう自分は走るつもりはない、時折ドリームトロフィー関係のイベントの仕事のオファーが来るが全て断っている。自分はウマ娘としては出し切った、だから育成する側に回ったのだ。その為にトレーナーの資格も取った、必要ならば次のメジロのトレーナーになるのも悪くはないと思っていたが……

 

「ランページさん、此処ですけど上げた方がいいと思います」

「あっ言われたらそうだな……んじゃ此処は?此処は下げるべき?」

「その場合……そうですね、少しずつ試して行きましょうか」

 

少なくとも、彼女には必要がないらしい。彼女にとっての最高のトレーナーだ、如何やら自分のやり方も分かってくれたらしいし既に咀嚼も済んでいる。あれは並のトレーナーではない……寧ろ、本当にトレーナーなのかとすら思う。ならば後は引き継ぎを頼むとしよう。

 

「ランページ、後はお前次第になる。如何に走法が優れていても使い手が追い付けなければ意味がない、そういう意味では私がそうだったからな……使いこなして見せろ、メジロランページ」

「―――はい。確りと受け継ぎます」

「南坂トレーナー、此処からは其方に任せる。慣れも必要だろう、その間のカノープスは私が見ておいてやろう。集中しないと慣れないだろうからな」

「ご迷惑をお掛けします」

「引退したウマ娘が出来るのはこの程度だからな、気にするな」

 

 

「ラモーヌ甘やかしすぎだ、次は私のメニューをこなして貰うぞ小娘共」

「やるやる~!!ターボのドッカンターボで肝臓抜いちゃうから!!」

「それまさか度肝を抜く意味じゃないよね?」

「肝臓抜いちゃったら大変だよ?」

「そうそうそれそれ!!」

「ラモーヌさんの次はモンスニーさん!!くぅっ~楽しみ~!!」

「私も頑張る~!!えい、えい、むん!!」

「それでは皆で走りましょうか」

「フフフッさてさて、如何なりますかね」

 

 

「それにしても本当にスパルタですね、モンスニーさん」

「やってる身としてはンな事考えてる暇ねえよ、必死に取り組まないと物に出来ないからな」

 

今までやって来た走りをバラバラにされたような気分。そしてそれを一つ一つの連携を考えながら再構築して行くような作業を行いながら走るのだから、辛いなんて考えを挟んでいる暇なんてない。寧ろ、辛いと考えられるだけ南坂のメニューの方が辛い。

 

「しかし、この走法の考え方は理に適ってますね……単純に脚力を強化するだけの走りではない、この走りがあったからこそモンスニーさんはシービーさんとあれだけの激戦を繰り広げたのだと思います」

「南ちゃんから見ても凄いんだ」

「ええ、間違いなく」

 

全身を完全な一つにして走る走法、しかもそれは普通の走りよりも負荷が掛からない。ウマ娘の走りとして理想的なフォームだ。それ故に此処まで築き上げるまでの道のりを思うと途方もない物を感じさせる。

 

「さあもう一度試してみましょう、今度はタイムも計ります」

「応頼むぜ南ちゃん」

 

計測を頼みながらもモンスニーを見る。彼女に出来た走り、凡人と自称する彼女の姿はそうとは思えなかった。あれが凡人な訳がないと、だが本人がそう言い切る。そう周囲に思わせたのは彼女自身だ、その力と技術がそう周囲に自分を認識させたのだ。ならば、自分がそれをモノにしたらどうなるのか、考えただけでゾクゾクする……今まで感じた事も無い高揚感と心臓の鼓動が加速していくのが分かる。

 

「さあ、やってみせるぜ……俺はメジロランページ、暴れ狂うだけだ!!」

 

そして来たるローズステークス、秋華賞のトライアルであるそのレースに出走したランページだったが……思わず視線を彷徨わせてしまった。

 

「ランページさん、如何しました?」

「いや……フローラ見てないか?」

「そう言えば……」

 

思わず、イクノと共に彼女を探してしまった。そしてその時……アナウンスが入った。

 

『お知らせします。本日出走予定だったアグネスフローラさんは、出走中止となりました』

 

「フローラが……出走中止!?」

「何か、あったのでしょうか……!?」

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