貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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637話

「……」

「大丈夫か上ちゃん」

「大丈夫だと思ってる?ねぇ本気でそう思える、この状態の俺にそんな事が良く言えるね」

「だから割と心配してる声色で問いかけたと思うんすけどね」

 

酷く疲れましたと言わんばかりに助手席のシートに沈み込んでいる上水流、助手席もバケットシートであるがゆえに更に酷く沈み込んでいるように見える。と言ってもこればっかりは何時までも逃げ回っている訳にもいられないので致し方ない。

 

「いやぁでも結構大らかな人達だったな、俺は一発ぶん殴られる覚悟で来たんだけどな」

「それどっちかというと俺がすべき覚悟じゃね?」

「そんな事言われてもさぁ……端的に見たら俺ってば上ちゃんが酒で酔ってた間だろうか構わずに喰っちまった女なんだぜ?しかも一発妊娠、しかも一打席二安打のおまけ付き」

「そこは一打席二打点の間違いなんじゃ……」

「いやぁ人間ダビスタゲーでさ、こういう言い廻しされる動画シリーズあんのよ」

 

『まさか、女性にそこまで興味が持てていなかった息子が……こんな素敵なお相手を見つけるなんて……不肖の息子ながらどうか、末永くよろしくお願いします!!』

『ちょっとお父さん、不肖なのは貴方でしょう、事業の失敗して作った借金返済をこの子にも押し付けそうになって大慌てだったのは誰なのよ……ああっランページさん大丈夫、もう借金はチャラになってるから』

 

「まあ、素直に認めてくれたのは嬉しいんだけどさ……もっとこう、あったんじゃないかなぁって思えちゃってさ……」

「言いたい事は分かるぜな」

 

今回、ランページが行ったのはお相手のご両親への義理通し、即ちご挨拶である。何故交際に至ったのか、如何して結婚へと至ったのかという経緯を全て話したうえで既に懐妊している事なども正直にお話して、結婚を許してほしいという頭を下げて来た。上水流曰く普通の一般的なご両親と聞いていたのだが……自分と対面してもそこまで取り乱す事もなく、自分の話を一言一句聞き逃さぬようにと真剣な顔で聞いてくれた。

 

「でもさ、正直俺は嬉しかったな。メジロ家云々を色目なしで俺を見てくれた上に、何時でも遊びに来て良いって言ってくれてさ」

「まあ、昔から友達何時連れて行ってくれてもいいって言ってくれる程度には良い親だったと思うよ。休みに友達連れてプール行ったり、帰りに回転ずしに連れて行ってくれたり……そう思うと、なんだかんだで子供にも気を掛けてくれる良い親だったとは思う」

「俺の叔父叔母に比べたら億倍良い人だぜ?本当にな」

 

メジロランページというどでかい看板にも拘らず、それには見向きもせずに個人として見つめようと努力してくれた。

 

「これで堂々とお義父さんお義母さんって呼べるわけだ、というかよくもまあデキ婚染みてるのにあそこまで素直に孫を喜んでくれるとはな……」

「実際はデキ婚でもないんだけどな」

「でもぱっと見そうみられても可笑しくなくね?」

 

そんな話をしながらも車を走らせるランページ、自慢のインプレッサも今日も快調に飛ばしていく。そんな車内で上水流は素直に嬉しさがあった、確かに特殊な出会い且つ結婚の仕方だが……それでも自分達は幸せな家庭を築けるという不思議な確信がある。いや築いて見せる。

 

「……ランページ」

「なんじゃらほい」

「もうあの街に帰らなくていいから、君の地元は俺の地元だ」

「応よ、元々あの街に戻る気はサラサラねぇよ。あるとしたら世話になった人達への挨拶回りぐらいじゃねぇかな……その人達だって町を出て府中に引っ越すって話があるからな」

 

上水流も気にしてしまうランページの地元騒動、現在あの街は正式にメジロ、シンボリ、URA本部からの勧告と訴訟検討中の書面が届いており大パニックに陥っている。その訴状が届く前に町長は危険を察知したように辞任して、現在は街御輿に積極的だった副町長が引き継いでいたらしいのだが……現在泥沼に陥っているとの事。

 

「スーちゃん辺りの怒りが凄いからなぁ……下手したらあの街、隣町に吸収合併されんじゃね?」

「普通に考えて肖像権の侵害やら名誉棄損案件だもんな、自業自得さ」

 

そう言いながらもシフトレバーに置きっぱなしの彼女の手に自分の手を重ねる。

 

「君は俺が守る、それが全う出来る様に努力するから頼ってくれよ」

「……ああ、こっから時間が経つ程に俺がプレアデスの指導に立てる時間が減る恐れがあるからな。その時は頼むぜサブトレーナー」

「独裁暴君の後釜としては不安が残るだろうけど、信頼できるように努力はするさ。プレアデスは君の名の下に一丸になってるとも言えちゃうからね」

「そこが弱点よな~名が売れすぎてるってのも困りもんだぜ」

 

そんな事をケラケラと笑い飛ばしながらもランページは車を走らせていく。まもなくオークスだ、エアグルーヴの勝負レース、母との二冠を果たす為、自分とターボの後に続けるのかと無駄に世間は彼女にプレッシャーをかけるだろう。そんな彼女を支えてやるのがトレーナーの役目だ。

 

「いざって時は上ちゃんも遠慮なく俺のコネは使っていいからな。訴訟とか」

「出来ればそういう事が起きないと心から願いたいよなぁ……因みに既に訴訟抱えてます、って事は無いよね……?」

「俺個人はないよ、メジロ家としてはあるけど」

「あるのか……それって君の地元って事じゃ」

「ないよ別に、俺のファングッズを無許可で製造販売して利益得てたダニ駆除のための訴訟」

「Oh……」

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