貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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638話

「オラオラオラァ俺を休ませたいだぁ!?だったら少しは俺を抜けるようになってから抜かせってんだよぉ!!」

「ハッお腹の子供に悪影響があっても知りませんよ!!」

「そこんところは抜かりがあると思ってんのか、三女神のお墨付きで全く問題ねぇ!!」

 

妊娠何ヶ月になる事やら、それなのに全くお腹が大きくなる様子がない為に本当妊娠しているのか?と思わせるランページのプロポーション、そんな身体だからこそ全く問題ないと言わんばかりに駆け抜けていく。オークス前の最終確認、メジロラモーヌやターボと走り込みを続けていた結果の確認と現状の把握、その為にランページが直々にエアグルーヴと模擬レースを行っている。

 

「(矢張りとんでもない……既に現役を退いて数年、レジェンドレースの為に身体も鍛え続けていたのも知っているが、ウマ娘というのは此処まで能力を維持出来るものなのか……!?)」

 

これまでメジロラモーヌ、ツインターボからトリプルティアラたる者の力とは何たるかを教え込まれてきたのだが、矢張りその二人よりもずっと圧倒的な力を持っているのがランページ、これが、世界最速最強の走りなのか……全力で走っているというのに10バ身差以上に距離を詰める事が出来ずにいる。しかもランページはまだまだ力を温存しているように思える。

 

「先輩頑張って~!!!」

「FIGHT~!!!」

 

チームメイトが声援を送ってくれているが、それでも力の差は明白だと言わざるを得ない。確実に自分は負ける、そんな事は分かっていたが現実として此処までハッキリと突き付けられてしまうと……辛さすらある。自分が目指すべき、いや目指せるような物ではないという事が答えとして、理解出来た。そもそもランページのそれを継承出来るウマ娘は極めて少数派、それに追いつけるのは……

 

「エアグルーヴの走り……変わってる……」

「えっ変わってるんですかスズカさん?」

「いえ、確かにそんな感じするわ。少しずつだけど……リズムが別の走りに」

 

プレアデスの中でも唯一ランページの走りを継承出来る立場にいるスズカにそれが真っ先に気づいた。この変化は……キングも遅れながら気づく、リズムが明確に変化している。

 

「これって、もしかして……」

 

サニーが続く、幻惑逃げでも溜逃げでもない、この走りは……

 

「矢張り、この走りしかないっ圧倒的な強者へと挑む為の走りは、これ以外にあり得ないっ!!!圧倒的な強者へと挑み、凌駕する為のそれは自然に辿り着く到達点!!!」

「俺としては微妙な気分だぜなぁ……」

 

エアグルーヴの到達した走りは、フローラの物だった。己が走りが自然とそこへと行きついた、数多くのウマ娘たちが望むであろう到達点の走りの一つの究極系、それを成し得たのはたった一人に勝ちたいと望んだ果てに生まれる奇跡、それを体現し始めた。

 

「届けぇぇぇッ!!!!」

 

裂帛の叫びと共に脚に、身体に力が漲るのを感じ取った。オークス想定の2400mレース、ランページが駆け抜けた軌跡の中でエアグルーヴは……8バ身差まで迫る事が出来ていた。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……俺の教え子が到達したのはあいつの走りかぁ……まあそもそも俺の走り自体が超ピーキー仕様で出来る奴が限られてるから自明の理ではあるんだけどなぁ……あのド変態に感謝せにゃならん日が来るとか頭痛が痛いどころの話じゃねぇなぁ……」

 

走り終えたランページは溜息交じりに倒れ込むようにしながらもキッチリと走り切ったエアグルーヴを見る、走りのレベルとしては十分すぎる程度には合格点、オークス出走も問題なく認められるのだが……その走りがフローラの走りというのが本当に複雑な気分になる源泉になっている。

 

「後進の利点は先人のあれこれを美味しい所取り出来るって所にもあるしなぁ……はぁ……あいつの走りかぁ……その威力も知っている俺からしたら有用なのも分かるんですけど……」

 

溜息が止まらない、どれだけフローラの走りが嫌なのかが分かる。フローラの走りと言ってもあれみたいな身の危険は感じないし、レベルとしても申し分ない筈なのに釈然としない……。

 

「お疲れ様、どうだった」

「いやぁ……端的に言ってすげぇ複雑ですたい。大多数のウマ娘にとってフローラの走りの方が遥かにやり易いし有用なのは分かるんよ、一定のレベルからフローラの走り取り入れると伸びるのも分かる、だけどあいつが量産されるって思うとマジで気分悪くなりそう」

「どんだけ嫌なんだよ」

「人の純潔狙うような奴ぞ」

 

本人が聞いていたら風評被害だ!!名誉棄損だ!!と叫ぶこと間違いなしだろうが、実際そんな所なのだから致し方ないだろう。寧ろ走りとしてはランページのそれは逃げウマ娘の中でも更にスズカのような極少数派にしか適応できないもなのでは、戦術として圧倒的にフローラの方が優れているのも事実なのだ。それでも複雑な物は複雑だ。

 

「じゃあ、矯正する?」

「誰がするかよ、エアエアが自分で見つけて自分で選択したもんだぞ?それをトレーナーが気に食わないの一言で全否定するなんて馬鹿な話があるかよ。このまま伸ばす、決定事項だ」

「そういう事はホントリアリストだね」

「あいつの走りを俺が更に強化するのも一興だからな」

 

まあ元凶はランページさんが私のママに!?とか言い出しそうだが……もう気にしない方向性で行こう、気にするだけ精神汚染されるのがオチだ。

 

「さてと……オークスはどういう走りになるか、そこだけは楽しみだな」

「フローラ走りになったら?」

「……我慢する」

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