「合理的に考えれば当然の事でしかない、正しい選択適した選択、レースの世界で最も生き残るのが適者生存、状況に応じて変えられる走りだな……」
見つめる画面の中にはフローラがいる、フローラが走った海外戦線の映像記録。当初フローラの海外戦線はそこまで良い評価をされていなかったというが、それは大多数の中での話であって実力者は初戦から海外の環境に適応し始めている姿に驚きの声もあったという、第2戦にはほぼ完璧に適応し、3戦目には海外でも自分のフルスペックを振えるようになっている。
「……」
これが自分を追い続けた果ての走り、自分がどのような戦術を取ってこようが最終的に単純な実力勝負が出来るように瞬時にギア比を変え、フォームを変える事が出来る走りは改めて怪物染みている。それを制御するフローラもこれに至れるようにトレーニングを施した東条にも頭が下がるような思いが湧き上がるのは指導者側に回ったからこその感想だろうか。
「完璧に俺想定、俺がいないレースでも俺がいる前提で走ってやがんな……しかも最初の数戦は敗北する事でデータを取る事が大前提……そこまでするかって位にスナイプしに来てるなぁこれ……南ちゃんにも頭が下がるわこれ」
自分がフローラに勝てた大きな要因は南坂という元FBIの力があったからこそだろう、フローラと東条の作戦予測が極めて正確だ。そのお陰で勝てた。
「そして、フローラもフローラでこれは適した走りが出来る事自体が異常の極みだな……」
作戦ごとに走りを部分ごとに走りを組み替えるなんて普通に考えれば出来る訳もない、そこまでするのは最早個人専用の機体を作戦ごとにフルメンテしながら微調整するような物。しかしそれを可能にしたフローラの執念……その果てに二人目の凱旋門賞制覇ウマ娘となった。
「確かに俺の走りよりもずっとやり易い……いや俺のも大概だけどこいつもこいつで大概だけどどっちかというとこっちなのは確かだな」
ランページのそれは極まった一つの究極、だがフローラの走りはその究極の一を絡め捕る為にバランスよく伸ばされた総合力。総合力さえあれば同じ走りをする事が出来る。
「複雑ではあるが、このまま伸ばさせるのが賢明だなぁ……」
教え子が自分の走りではなくライバルの走りなのは思う所こそあるが、それが有用ならば認めるだけでしかない。
「問題は俺がフローラの走りを教えるのは難しいって事だよなぁ……」
「あっじゃあ教えましょうか?」
「毎度のことながらテメェ一体どっから沸いてんだ」
「謝りますからそのナイフしまってくれますか……?」
職員室の自分の席で見ていたのだが、デスクの下、即ち自分の脚とデスクの間から出てきたので咄嗟に隠し持っていたナイフを握って振り下ろす体勢のランページに流石のフローラも顔を真っ青にしながら宥めようとする。
「お前マジで訴えてやろうか、ああいやそれはダメだなタキオンの将来に関わる。お前がアグネス家から絶縁されるまでは待ってやる」
「なんで私が絶縁される前提何ですか!?」
「タキオンから聞いてっぞ、本家からガチで扱いに困ってるって」
「タキちゃああああああああああああああんっ!!?」
本当にこいつは自分に続いて凱旋門賞を制したウマ娘なのだろうか……性格面は壊滅的だけど実力とか実務能力は確か、ナデシコにスカウトされる部類の立場かと思うのであった。
「つうか、お前としては良いのかよ。態々敵さんを強くするようなもんだぞ」
「えっライバルではありますけど敵ではないですよね?」
「そういう所を大真面目に口に出せる辺りは尊敬したるわ」
「―――ランページさんが私を尊敬、これが、婚約!!?」
「どこの海賊女帝だテメェは。お前はもう少しテメェのキャラを大切に扱う事を覚えろ、今年入った新人トレーナーが色々と打ち砕かれてるような目してっぞ」
フローラに憧れを持っていたトレーナーが次々に曇った目をしていく。これも一種の曇らせなのだろうか……。
「というかさ、割とまじで教えてもいいもんなのか?おハナさんからもしても敵に塩を送るようなもんだろうからお前の一存で決めていいのか?」
「私は良いと思いますよ、いい結果を出す為には相手が弱いことも重要ですけどそれはあくまで記録上の強さでしかありませんし本当の意味で強くなる為には自分から強くなりたいって思えるような相手が必要でしょ。イクノさんみてくれたいよあの人一体何戦走ったと思います?」
「確か50超えてた気がする」
この理論の体現者はフローラだけではなくランページとフローラと競い続けたイクノもいる。イクノの場合は南坂が可能な限りランページどころかカノープスメンバーとぶつけるようなローテを組んでいた。それゆえか一番やばいのはこういうローテを組んだ南坂なのでは?という意見もネットにはあるが大体その通りなのである。
「まあ、いいなら依頼したいが……」
「んじゃお引き受けしますね!!いよっしゃぁぁ~テンション上がって来たぁぁぁ!!」
「……お前、合法的にプレアデス、詰まる所俺の近くに来れるから引き受けたとかじゃないよな……」
「……チ、チガイマスヨ……」
「……俺ももう上ちゃんのご両親にご挨拶して来たからマジで変な事すんなよ」
「ホント私への信頼皆無!?」
「デスクの下から顔を出す奴に信頼なんぞない、辛うじてあった筈の信頼を砕いてるのテメェぞ」