貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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64話

ローズステークスへの出走を取りやめてしまったフローラ、彼女を心配していたがレースを放置する訳にも行かずにイクノと共にそのまま出走。勝ちこそはしたが、集中力を欠いてしまったが故に2着のイクノとはクビ差だった。そしてライブも終えてフローラがいるという病院へと駆けこんだのだが……受付の待合椅子に座っていた東条を見つけると直ぐに駆け寄った。

 

「おハナさんフローラは!?」

「病院よ、静かになさい」

 

そこに居たのは困り気な顔をしていた東条の姿だった、それにもしやと思いながらも何事なのかと尋ねた。

 

「何があったんですか」

「脚に軽い炎症が見つかったのよ、全くあの子ったら直前まで隠すなんて……お陰で病室で説教しちゃったわよ」

「それでは、大事では……」

「屈腱炎とかを心配してくれてるなら安心しなさい、あの子は無事よ」

 

そう言われて、思わずランページだけではなく同行していた南坂やイクノですら気が抜けてしまった。それを見て心配させて済まなかったと東条も謝る。

 

「でも如何して病院に?」

「私としてはローズステークスを回避させる事は決まってたのよ、秋華賞に全てを尽くそうって練習をしてたんだけど……あの子の意思を尊重して登録はしてたの、でも炎症が見つかったのよ。それでギリギリまで待つ事にはしたの、完治してたら出す、してなかったら取り消し」

「それでまだ治っていなかったと」

「酷くはないけどこの世界だと油断は出来ないわ」

 

東条の判断には南坂も賛成だった。無事是名バを掲げている以上、怪我の兆候を見逃がす訳には行かないのでその辺りには注意をしているし軽い怪我でも油断は出来ない。例え小さな怪我であっても、それがウマ娘にとってのガンや不治の病にも繋がりかねないのだから。

 

「でもまあ無事でよかった、突然出走中止となりました。なんてアナウンスされたからビビりましたよ」

「それについてはフローラに文句を言ってちょうだい、本当にギリギリまで納得しなかったんだから」

 

それは、ルドルフとシービーから受けた特訓の成果から来る自信故なのだろう。それだけの手応えと確信があるのだろう、それはローズステークスを回避しようと考えていた東条の言葉からも十二分に汲み取れる言葉だ。楽に御せる相手ではなくなった……事なのだろう。

 

「それでは秋華賞には」

「問題なく出れるわよ、その時こそフローラが戴冠する日よ」

 

挑戦的で自信に満ち溢れたその瞳に思わずランページは笑いで返してしまった。それにつられるようにイクノも眼鏡を上げる。

 

「上等だ、叩き潰してやりますよ」

「此方も負けるつもりはありません、ラモーヌさんとモンスニーさんの教えをお見せしましょう」

 

しかし、それで喜ぶような二人でない事は二人ともわかっている。この二人とてメジロが誇る二人に指導を受けているのだから……決して油断出来る要素はない。

 

「それではおハナさん、私達はこれで」

「ええ。私はもう少し此処に居るから何かあったら連絡を頂戴ね」

 

そうして病院を後にする、いい意味で心配して損をしたという奴になってしまった。だが良い意味でならば良かった、と安堵している。

 

「ハァッ……なんか疲れたな」

「奇遇ですね、私もです」

「気疲れ、ですかね」

 

それは二人も同じなのか、何処か疲労に満ちた声が出てしまった。ずっと緊張していたからだろうか……何か美味しい物でも食べて気分をリセットする事を考えるのだが……そんな時にランページの携帯が鳴った。見てみるとそこにあったのは合宿で連絡先を交換していたモンスニーの文字。急いで出る事にした。

 

「はいもしもし」

『私だ、レースで随分と集中を欠いていたようだな。それ程までにアグネスフローラの事が気になったか』

「……はい、心配になってしまって」

『気持ちは分かる、だがそれでお前が不甲斐無い走りをして一番に失望させるのは誰だ。私か、お婆様か』

「……っ」

 

唐突に掛ってきた電話に思わず言葉が詰まった。確かにローズステークスでは集中力を欠いてモンスニーに指導された走りの一端すら見せる事が出来なかった。それ所か、これまでのレースで最低の走りといても良い酷い物だった。

 

『違うな、不甲斐無い走りを自分のせいにされたフローラ自身だろう。お前は彼女を言い訳にして辱める気か』

「そんなつもりはっ……!!」

『つもりはなくとも結果はそうだと言っている。競走中止になったら不安になった?集中力を欠いた、そんな事理由にならん。お前の行いは、フローラだけではない。ローズステークスを目指していた、出走したウマ娘全てを侮辱した。それを理解しろ』

「……はい」

 

通話の内容は当然イクノには聞こえていた、心情的にはランページの気持ちは分かるがモンスニーの言いたい事もよく分かる。出走した以上は自分に出来る最高の物を出さなければ失礼だ。だから自分は揺れてはいたが、出来るだけ気持ちを切り替えて臨んでいた。

 

『出来る事ならば私がトレセンに行って鍛え直してやりたい所だが……此方も忙しいのでそんな暇などない。故に、秋華賞ではそんな不甲斐無い走りは絶対に見せるな。見せたら……分かっているな、期待している』

 

言いたい事を言い終えたのか、モンスニーは一方的に通話を切った。ランページはそのまま携帯を仕舞い込みながらも南坂を見た。

 

「……南ちゃん、俺って最低かな」

「私はそうは思いません。ライバルを思う気持ちは正しいと思います、ですがモンスニーさんの言いたい気持ちも理解出来ますし正しいと思いますので一概に何方の方がとは言いません。ですのでこう言います―――秋華賞でフローラさんを完璧に迎え撃ちましょう」

「それが良いですね、それが最大の謝罪であると共に最大の礼儀だと思います」

 

その言葉にランページは静かに頷きながらも顔を上げて空を見ながら思う、今度こそ……正しい自分の走りで……。

 

 

 

 

「おハナさん、間に合いますよね」

「絶対に間に合うから今は安心して養生しなさい」

 

病院の一室で東条と話すフローラ。ローズステークスには出たいと思っていた彼女にとって、この出走取消は屈辱だった。早く戦いたかった、打倒したかった、それ程までに自信がある。三冠ウマ娘二人を相手に鍛え上げられた自分を。

 

「だから―――秋華賞で見せ付けなさい。貴方の強さを」

「絶対に、見せ付けます」

 

もう負けは許されない、絶対に勝ってやる、独裁者を打ち滅ぼすのは自分だと叫んでやるのだとフローラは決意を胸にしながら空を見上げる。

 

 

 

 

「良いんですか、時間はあったのでしょう?」

「それは甘やかしです、ランページに必要なのは正しい厳しさです」

 

メジロ家の邸宅、アサマと共に居たモンスニーは携帯を仕舞い込みながらもその問いに答える。時間はあるし言った通りに鍛えてやる事も出来る、だが敢えてせずに突き放す。自分が教える事は教えた、だから此処からは自分自身で心を育てていく段階。他の皆がランページに優しくするならば自分は厳しくする。鞭は自分がやる、既にウマ娘としては引退している自分ならば恨まれる身としては丁度いい。

 

「レースで最終的に物を言うのが精神力、根性です。精神は肉体を超えていく、理屈ではどうしようもない程に説明出来ない力がある。それを身に付けてこそ彼女はメジロ家のウマ娘として相応しくなる。メジロの誇りではなく、ランページという一人のウマ娘としての誇りを手に入れる」

「あらあら、私以上に惚れこんでいるようね」

「私の全てを叩き込みましたからね―――惚れ込んでいなければそんな事はしません」

 

そう言いながらも空を見る。

 

「(私に足りていなかったのは心だ、シービーに絶対負けないと思いながらも彼女の才能との差に心が折れていた……技術は教えた、身体も整えた、後は自分との勝負……自分で作れ、勝ち取れ、トリプルティアラを)」




フローラは秋華賞に出ます。少しだけ悩みましたが……そこで最後のティアラを掛けた戦いが行われます。
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