貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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641話

「……」

 

エアグルーヴは自他共に認める程に厳しい、自分にも厳しくするし他人にも相応に厳しい。周囲からは堅物だと思われているし自分でも堅物な可愛げのない女だと思っている。

 

「エ~ア~エア!!」

「キャンっ!!?ラ、ランページさん背後からいきなり抱き着かないでください!!?」

「いいじゃないのよ減るもんじゃないし、知らない仲じゃないんだしってあっぶね!?」

「お相手がいるのにそういう事を言うからです!!そこに直りなさい、説教して上げます!!」

「ブッ~エアエアのいけず~」

 

例えそれが独裁暴君たるメジロランページであったとしても決して曲げない、傍から見たらなんと不敬か、なんて豪胆なのかと思われるような行動だが……ハッキリ言ってエアグルーヴからすればランページを独裁暴君たるメジロランページとして見た事はそれこそ昔、サインを貰いに行った時ぐらいしか抱いていなかった。

 

「全く……如何して貴方はこう、軽いんですか……」

「フローラに比べたらそりゃ軽いわ」

「いやあれはもう別次元じゃないですか」

「確かに~」

 

改めてフローラの指導を受けた走りは安定した、いや進化しているのが分かる。そして改めて世界をその走りで驚愕させたフローラの力にも驚きを感じた。

 

「ランページさん」

「んっ?」

「オークスは、どんな展開になると思いますか」

 

後僅かに迫って来たオークス、彼女にとっての最大の目標、母が制した舞台を自分も制すると願う思いは日を追うごとに強さを増して自分を支配しようとする。そんな自分にランページは淡々と、オークスについて語る。

 

「18人立てのレース、お前さんは7枠15番。今の所、お前が突き抜けてるって言われてるが、他にもファイトガリバーやビワハイジっていう中々にいい奴らもいるからな……下手こきゃ負けるな」

 

そう、負ける可能性は十分すぎる程にあるんだ。目の前の暴君にも敗北の可能性はあった、それが最も顕著だったのがクラシッククラスでのレースだった、ライバルたるアグネスフローラの猛追を彼女は駆け抜けながらも真っ向から受け続けた。

 

「だったら下手をこかなきゃ良い」

「簡単に、言いますね」

「全力でやればいい、全力で整えて全力で準じて全力で体現すりゃいい。お前はいい加減にやって此処まで来たか?」

「そう思われたら心外ですね、私はいい加減な気持ちで走った事などありません」

「なら問題ないだろ、本気の全力で身体に刻み込んだもんってのはいざって時にはちゃんと出来るもんなんだよ」

 

どうしてそんな風に言い切れるのだろうか、私は貴方などではないのに……メジロランページはどうして私をそこまで信頼してくれるのか。

 

「教え子を信じる、当たり前の事じゃねぇか。可愛い可愛いお前を信じないなんて選択肢はない」

「本当にそれだけですか……?」

「他になんか言って欲しいか、何を言えばお前は安心する、何を答えればお前は走れる」

 

何故か、胸が苦しくなった。そう言われて自分が何を求めているのか分からなくなりそうになったのを―――これまでの走りから答えを得ていた事に気づく。

 

「……私は貴方の女帝です。独裁暴君たるメジロランページではなく、プレアデスのトレーナーのメジロランページのエアグルーヴです」

「つまり?」

「ただ、笑顔で走って来い、とだけ」

「幾らでも言ってやるよ、走ってこい、お前の走りを見せつけてこい」

 

その言葉が自分に万の力を与えてくれると理解した。憧れの人からの信頼の証以上に、唯々、当たり前な一言が熱と力を齎してくれるという事実に自分は納得していた。

 

「そんな女帝ちゃんの走りがあのド変態の走りかぁ……」

「何時まで言うんですか……天丼は三回までと母が言った事がありますが」

「だってぇ……」

「貴方の愛弟子はスズカでしょう?其方に任せてください」

「ぬぅっ……」

 

本当にこの人は……時に冷酷で冷静な指導者で、時には辣腕を振るい、時にはどこまで暴力的に相手を追い詰める苛烈さがあるのにこういう所は酷く子供っぽい。そんな姿が……

 

「……」

「どったのエアエア、腹でも減ったか?」

「私を腹ペコキャラにしないでください!?……いえ実は、親戚に困った子がいるのですが……如何にも家族にも心を開いてくれず……」

「ふぅ~ん……つまり、俺に何とかしてほしいと?」

「そこまで図々しくはないのですが……もしや貴方なら解き解してやれるのではと、今少しだけ思っただけです」

「……」

 

母が何度も引き取ろうとしたが、彼女自身が首を縦に振ってくれず、妹となってくれないあの子。家族そのものへの不信感を感じたそれをランページならばと何故か思ったのだ。この人ならば……勝手にそう思って、託そうとしている。

 

「今はちょっち忙しいからキチぃが、オークス後でいいんなら会ってみてもいいぞ」

「い、いいんですか?」

「なぁに俺を誰だと思ってんだ、皆大好きワールドレコーダーのランページさんだぞ?他人の心に入り込むなんてお茶の子さいさいよ、後不幸自慢じゃ負けん」

「なんの自慢ですかそれは……」

 

だが、不思議とあの子を何とかしてくれるのではという確信もあった。その為にも、オークスに勝ってこのことを正式にお願いしてみよう。

 

「さぁって、今日はうちに泊まってくか?上ちゃんがいなくて静かでよ~」

「同居、というかご一緒に住んでいるのではないのですか?」

「いや前の家を引き払う手続きとか引っ越しのあれこれに時間かかってんだと、上ちゃん結構荷物があるタイプらしくてよ、言うて俺の家の片付けもあるし」

「片付け……ならばそれは私がやりましょう」

「いや流石に教え子に家の掃除させるのは「やりますから」アッハイ」

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