貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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65話

開始直後からの全力全開、傍から見れば自暴自棄の玉砕戦法にしか他ならない。だが余りにも、余りにもそれが―――桁違いに強く思える程に彼女は遥か前方を走っていた。

 

「ドッカンッターボォォッ!!!」

 

2番手のウマ娘との距離、残り300mにして―――約10バ身以上。もう直ぐ垂れてくるはずだ、この最後の直線で必ず大幅な減速が起きる筈だ。そうでなければ可笑しいと、同じメイクデビューに臨んでいるウマ娘達はそう思った。如何に1400mという短距離に区分されるレースであっても、一呼吸を入れる事も無く最後まで走る事なんて絶対にあり得ない。

 

「ターボ全開ィィィィ!!!」

「嘘でしょ……なんでまだ上げられるのよ、どうなってるの!?」

 

その懸念は普通ならば正しい、その見たても正しい、しかしそのウマ娘は最初から最後まで先頭でいたいという単純な気持ちだけで走っている、それが一番気持ちいいから。そしてそれを形にする為にカノープスに入ってからずっと、それを行う為に走り続けてきたのだ―――同じチームのメジロランページとイクノディクタス、その二人に追い付く為に。

 

『これは凄まじい!!圧倒的、これは正しく圧勝!!ツインターボ、正しく圧倒的な大差勝ち!!なんと13バ身差!!カノープスからまた途轍もないウマ娘が鮮烈なデビューを飾りましたぁ!!』

「やったぁ~!!見てたかラ~ン!!今日からカノープスのエースはターボが貰っちゃうもんね~!!」

 

そんな大言壮語も真実味を帯びる程の走りを見せ付けたターボは嬉しそうに飛び跳ねるようにしながらも勝利を喜んだ、今日まで走り込んだ時間は決して嘘をつかず、今、その結果を証明したのであった。

 

 

「よし、此処っ!!」

 

此方は1800m、そのレースで半分を超えて1000mを越えたという所で一人のウマ娘がもうスパートを掛け始めた。残り800mという地点での余りにも早すぎるスパートに他のウマ娘達は驚いた事だろう。そのウマ娘はどんどん加速していく、そしてバ群を越えて一気に先頭へと躍り出るとそのままトップを駆け抜け続けた。

 

「(持つ訳がない、絶対に持たない!!)」

 

まだまだ先もある筈なのにも関わらずのロングスパート、必ず潰れると思われていたそのウマ娘はどんどん加速していく。そしてまるでステップをするかのような軽やかな足取りで坂を登り切るとその速度のままで坂を下っていく。当然外に振られる、だがその遠心力さえも利用するように加速していく。

 

「まだまだ行ける、全然行ける!!」

 

余裕を持ったままだった彼女に、他は焦っただろう。全く垂れない、速度も落とさない、そしてそれに動揺して完全に勝負の仕掛け所をミスした彼女らは、先頭を駆け抜ける彼女を捉えきる事が出来なかった。

 

『ゴールイン!なんと、1000mを越えてからのロングスパートでそのまま駆け抜けたナイスネイチャ、7バ身差の余裕を見せ付けて堂々の1着!!』

「まだまだ行けちゃうけどね。あっ応援どもども~♪」

 

機嫌よさげに1着を取れたことに嬉しく思いながらも観客たちに笑顔で手を振るネイチャ。そんな笑顔にレースを見に来た者はファンになるのだが……同時に、またもやカノープスが強くなることを予感した。

 

『ツインターボ、大逃げの圧勝劇!!』

『ナイスネイチャ、怒涛のロングスパート!!』

『カノープスが来年も台風の目となる!?』

 

「嬉しいのは分かる、分かるけどな……どんだけ買ってんだお前は!?」

「だってターボの事こんなにおっきく書いてくれてるんだよ!?買うしかないじゃんこんなの!!」

「加減しろバカ!!」

 

カノープスの部室に山のように積み上げられているのはターボとネイチャの事が書かれた新聞、見事にデビュー戦を勝った二人を新聞は大きく取り上げた。今一番勢いがあると言ってもいいカノープスから二人の新人が出たのだからある意味当然と言えば当然なのだが……余程嬉しかったのか、ターボはあちこちでその新聞を買い占めて来たらしい。

 

「凄い量の新聞……全部ターボさんとネイチャさんの事が載ってる奴」

「良いなぁ~先輩たち、アタシもこんな風に載りたいな~」

「だからってこの量は……」

 

ライスとチケットはシンプルに新聞に載った事への称賛と自分もそこへ目指そうと思っている、素晴らしい事だが……いくらなんでも多すぎる。

 

「お前これ、幾らしたんだよ……」

「えっと……分かんない♪」

「これレシートね、一応メイクデビューでの賞金で買ってるから」

「……なんでデビューでの賞金をこれに使ってんだよ……」

 

確かにメイクデビューでも賞金は出る、だがこれだけの新聞を買う位なら新しいシューズを買ったりすることに使えばいいのに……と思わざるを得ない。

 

「兎に角、二人とも無事にデビュー戦勝利できてよかったな」

「えっへん!!」

「合宿でモンスニーさんとラモーヌ先輩にあれだけ扱かれたからね、あれに比べたら全然だったよ」

 

それを言われたら納得するしかないから改めてあの二人の凄さという物を感じずにはいられない。それに合宿を行う前からずっと自分とイクノと走り込んでいたターボとネイチャ、しかも本格的なレース形式でずっと走り続けて居たお陰で競り合いにも強くなっているしスタミナもスピードも同期と比べると着いている。それが合宿で高められていると考えるとデビュー戦で勝つのも当たり前だろう。

 

「アタシ達の事は置いといて、いよいよだね秋華賞」

 

ネイチャの言葉に全体に緊張が走った、ランページとイクノが挑む秋華賞。最後のティアラを掛けた戦い、無敗での三冠を目指すランページ、それを阻み今度こそ自分が戴冠を果たすのだと誓う者達。言うなればランページ対それ以外のウマ娘の対決とも言える。その中にはイクノやフローラもいる。今度は流石に……と思う者も多い。ローズステークスでのギリギリの勝利がそれを裏付けている、と考えている者も数多い。

 

「お姉様、大丈夫?」

「……安心しろライス、ローズステークスじゃ情けない所見せちまったが……今度はそうはいかない、南ちゃん」

「ええ。メニューは既に構築済みです、合宿で得た物を完璧に物にするまで続ける物を」

「あんがとよ……んじゃ始めるか」

 

外へと出てコースへと向かいながらもランページは空を見た、そこに本当の自分が居る気がして。

 

「……悪い、お前まで言い訳にする所だったよ……お前は俺なんだからな、だから―――今度は一緒に走ろう」

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