貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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652話

短い間に日本各地を飛び回る、なんだかハッキリ言ってURAファイナルズとレジェンドレース設立の為に足を伸ばしていた頃に戻ったかのような気分になる。と言ってもこれを遂行する為に色んな制約なんかがあるのであの時よりも面倒になってしまったなぁと思ってしまうのだが……まあこれも巡り合わせと思うしかないだろう。そんなこんなで京都にやって来た、目的はスズカのメイクデビューである。

 

「さてスズカ、気分は?」

「楽しみです」

「そいつは結構」

 

レース前のスズカは緊張が皆無、フンスフンスと言いたげにやる気満々であった。サニーは当人の気質や戦術的な幅を求めて自分の幻惑逃げを伝授したが、本質的には弟子ではない。本当の意味で自分の走りを継承しているモノこそがスズカ。それが今日どんな走りをするのか……。

 

「以前言った事覚えてるか?まだ走るな云々的な奴」

「はい、サウナに入ってる的なあれですよね」

「そうあれ、今思うと微妙な例えだったなぁ……」

 

良くも悪くもスズカに自分の走りを教え込んだ代償として、スズカのスピード狂な部分と肉体的な問題が嚙み合って負担が増大する。それを回避する為に全力の走りを許可してこなかった。

 

「だが今日はその枷を一時的に解いていい」

「どのぐらいまでですか?」

「そうだな……6~7割って所かなぁ……ハッキリ言うぜ―――だ、良いな」

「分かりました、先頭の景色は誰にも譲りません」

「譲っても良いぜ、最後に先頭の景色を奪い取るのも一興だ」

「いえ、譲りません」

 

強情め、と言いながらもその頭を撫でてから勝利の女神のキスを落としてやってから控室を出る。

 

「さてどうなるかな……」

 

 

『さあ京都レース場、芝1600メイクデビュー。本日のメインイベントと言っても過言ではない一戦です。トゥインクルシリーズという熾烈な航海へと漕ぎ出していくウマ娘たちの大事な初戦……その舞台にメジロランページのお膝元たるプレアデスの一人、サイレンススズカが出走します。先日はサニーブライアン、タイキシャトルという二名のデビューを見事に勝利しているプレアデス、二日連続で勝利で飾れるか』

 

実況でもネタにしやすいからか、分かり易い程に持ち上げる。リギルでもこんな感じなのかな……今度おハナさんに聞いてみようと思う。赤坂ならここまで分かり易い事は言わない、もうちょっと言い方を変えるだろう……。

 

「スズカの調子は如何だった?」

「まあまあだな、にしても上ちゃんも酔狂だねぇ……ただ疲れるだけだろ」

「流石に君だけを行かせるのは無理だろ、俺の同行は最低条件だ」

「やれやれ愉快だねぇ」

「どこの兄さんだよ」

 

ランページの遠征の最低条件が精密検査と一人の同行者、上水流の同行。上水流には色々とランページの監視項目が課されているのだが……そんなに自分に信頼がないのかと当人は思っているのだが、そうではなくてお腹の子と当人の安全の為なのだという事を理解しろと言いたい。

 

「ゲートイン完了、今回のレースはどう思う?」

「さてね……圧勝出来て当たり前の相手ばかりだ、苦戦すら論外だ」

「……まあ今回は粒がそろってないとは思うけどそれ程かい」

「トレーナーも含めてウマ娘が俺を見てる、見てるにしてもフローラ程でもない、そんな奴らなんて……俺のスズカの相手じゃねぇ」

 

『スタートっしましたがサイレンススズカ素晴らしいスタートを切りました!!!ポンと飛び出て既に5バ身は離れているでしょうか!!?』

 

最高のスタートダッシュ、自分も現役中にやった事のあるスタートの音のみに集中して後はそれに合わせて加速するだけのそれ。しかもスタートがいいのもあるが、それに一瞬気を取られていたのか他のスタートが良くなかった。全員がスズカをマークしているのがいい証拠だ。

 

『2番手にウェーブビート、3番手にラムセスバレーと続いていますがそれ以上にサイレンススズカが先を行くぞ先を行く、完全に一人旅でありますがこれは掛かっているのか、いやそれにしては走りにブレが全くないぞ今コーナーに掛かりますがこれは腕が擦っていないか!?いや擦っていないぞギリギリを見極めていると言わんばかりの所を駆け抜けていきますサイレンススズカ最短の道を駆け抜けていきますサイレンススズカ!!』

 

既に10バ身以上の大差を付けているスズカを必死に追いかけていく面々、だが余りにも無謀。誰がスズカを育てたと思っているんだ、この独裁暴君の走りを直に教え込んだそれのスピードは君達にとってはオーバースピードであっという間に体力の限界に踏み込んでいく。その上で最短距離のコーナリングをしていくという悪辣さが複合して、メイクデビューレベルのウマ娘では到底追い付けない程の異次元のスピードを発揮する。

 

「馬鹿、なっ……なんなんだよあのスピード……!?」

 

誰かのトレーナーなのか、スズカのそれに圧倒される声が聞こえて来る。悪いけど運がなかったと諦めてくれ、自分やターボ、ラモーヌなどと言った面々に比べて峠で走り込んだ結果として、妙にコーナリングに強くなったあいつに追いつくには同じレベルをやるしかない。それが最低条件。

 

「問題はこのコーナリングをフルスピードでちゃんとやれるかどうかだな……遠心力に対抗する、なんて結構な課題だねぇ……だがまあ―――ちゃんと言いつけを守ったな、後で飴をやろう」

 

『サイレンススズカ完全に一人旅!!完全独走、メイクデビューを鮮烈な自らだけの舞台へと染め上げて見せたぞサイレンススズカァァァァ!!!これはとんでもない新人が出て来たぞ!?来年のクラシックが今から楽しみでしょうがありません!!』

 

「フゥッ……良い水風呂だったわ、もう少し冷たかったら最高だったけど」

 

まだまだ余裕だと言わんばかりに息を整えるスズカ、途中でもっと速く走りそうになったが、何とか抑えて走る事が出来た……これならランページにも怒られないだろう。そんな事を思っているとランページが手を振っていたのでそちらへと駆け寄る。

 

「いかがでした?」

「合格点だ。願わくば、もうちょっと歯応えがあるレースが良かったな」

「喉越しが良いレースだったと思ってください」

「そだね」

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