貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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653話

マヤノトップガンは天才である。この評は決して過大な評価などではない。その天才っぷりはメジロランページの全身走法を短期間で物にし、全ての戦術に精通出来る、東条や沖野もその天才っぷりには肩を竦めて認めるしかない程。

 

「はぁはぁはぁはぁはぁ……」

 

そんなマヤノトップガンにとってプレアデスのメニューは常に変化し続ける空のようなもの、天才であるが故にあっという間に適応してそのメニューの本質や目指すべきものを理解してそこへと駆け出してしまう、あっという間に応用へと辿り着いてしまうのは嬉しくもあるのだが、逆に基礎が疎かになり易いという欠点も抱えている。

 

「んもう重いよ~!!!」

「だから言っただろう?ランページが使ってるのと全く同じ重さだって」

「此処まで重いとは思わなかったんだもん~!!!本当にランページさんこれ使ってるの?」

「使ってるけど?」

 

そう言いながら指を向けた先には平然とシンザン鉄を打ち付けているランページ、そしてそのまま平然と走り出していく。

 

「あれだけ重さ違うって事ないよね……」

「いやそれはないよ、というかこれまでマヤが使ってるのが日常生活で使うレベルの重さの奴だからね」

「……これ最初に使いだしたシンザンさんはなんでよくこんなの使おうって思ったね」

「それは思う」

 

現代のスポーツ科学としてはシンザン鉄でのトレーニングはメリットよりもデメリットの方が遥かに大きく、怪我のリスクを考えると使わない方がむしろ良いとすら言われる前時代的な異物、と言われる事の方が多い。そんな物を使い続けて結果を出して来た筆頭がメジロランページとイクノディクタス、カノープス。

 

「もう重い~……」

 

これまで8倍までは比較的に簡単に攻略してきたマヤだったが、流石に10倍はそう簡単にはいかないらしい。これにはランページも少しだけホッとしている面もあったりする。流石にこれまで簡単にクリアされたら自分の立つ瀬がない、技術面ならまだしも肉体面でも勝られたら冗談抜きで泣く自信がある。

 

「それでも確りと使えてる辺りは流石だよマヤ」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、それでも重い~……」

 

単純に使える時間が短いだけで確りと使えてはいるだけ大したもんである。これで本当にダメなら即座に中止するのだが、ちゃんとは使えているので継続するほかない。

 

「と言ってもマヤ、宝塚記念では間違いなく必要になって来るからね」

「……うん」

 

最大のライバルであるブライアンとローレルは欧州に行っている、宝塚記念の大本命とされているのがマヤノトップガン。他にも一応のライバルこそはいるが、マヤが圧倒的な1番人気に推されている状況、勝って当然とまではいかないが……。

 

「現状、トゥインクルシリーズを背負わされてしまっている。君の翼には本来要らない筈の重みになる物だけど、その重みを背負っても尚、本来の走りが出来なければいけない。ハッキリ言って、面倒な話だ……だけど、その重さなんてものはこのシンザン鉄に比べたら極めて空虚で価値その物が無いに等しいんだ」

「価値、ないの?」

「ないさ、だって君自身が価値を見出さない」

 

ハッキリとそう言い切る坂原、宝塚記念での勝利を世間から求められているという期待を価値が無いと切り捨ててしまう姿にマヤは目を白黒させる。

 

「勝手に押し付けて来るような物を受け取って、その価値観を共有する事もないさ。宝塚記念の勝利の価値は君が決めればいい」

「マヤが……決める」

「そう、君が決めていい。そうだな……これで勝ったらプレアデスの絶対的なエースオブエースの座を確保出来る、なんてのはどう?」

「エース!?マヤがエースでいいの!!?」

 

エースオブエースの称号、それを手に入れる事が出来ると言われてマヤの瞳の輝きが増して、坂原はやっぱり食いついてくれたと微笑む。

 

「エースは唯優秀な人がなれる訳じゃない、任せられた任務を安心して任せられる人の事を指すと僕は思ってるよ。実力があっても滅茶苦茶な人には仕事を振っても安心できないだろう?」

「確かに……」

「つまり、君は安心して勝利を齎せるような絶対的なエース、つまりトップガンとして君臨出来る。出撃すれば確実に成果を上げるエース……そんな存在として記憶されるってのは中々に、滾る物がないかなマヤノ君」

「うんっうんうんうん凄いキラキラしてる!!!マヤやる、絶対になる~!!!」

 

よ~し!!と元気に放り出すように外していたシンザン鉄を再びシューズへと嵌め込むと、マヤノトップガン、行きま~す!!と再び元気よく駆け出して行くのであった。本当に手のかかるお嬢様だと思っているとランページが珈琲を差し出して来た。

 

「我らがお姫様のやる気は引き出せましたかな、王子殿下」

「上々って所かな。ちょっと口八丁してる気分になるかな」

「口も舌も使いようって奴だよ、言葉一つで稼ぐ奴だっているんだから人を乗せる事も十分な才能だよ。落語家のあれなんですげぇぞ」

「あ~毎週楽しみにしてるよ、TVもニュース以外だともうあれしか見ないかも」

「あと某村」

「それな」

 

ケラケラと笑いながらもそんな事を話す二人。その視線の先にいるマヤを見つめる。

 

「仮にさ、マヤが凱旋門に行きたいとかいったら君はどうする?」

「当人の意志確認して、スケ調整しつつ送り出すかな。当人が行きたいなら行かせてやるだけだ」

「君らしいね、惨敗するとしても?」

「それも人生だろ。俺は無敗だけど俺の教え子がそれに準ずる必要もない。人生には酸いも甘いも必要なのさ、まあ俺の場合は酸いも苦いも辛いもあったけどな」

「敢て聞かない事にしとくよ」

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