貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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655話

「まあこんなもんかぁ~……」

 

そう言いながらも口の中に飴を放り込む、適度な甘さと酸味が頭の中に溶け込むような快感が染みわたるのを感じながらも空を仰ぎ見る。本当にいい天気だ……此処、阪神レース場は晴天による良バ場となっており、実に気分が良くなる天気をしている。そんな空の下でレースが行われれば本当に楽しくて気分のいい物になる―――

 

「なぁ楽しかったかお前ら?私は……まあそこそこ楽しめたよ」

 

冗談じゃない、何が楽しかったかだ……楽しい訳がないだろう……!?

 

「そりゃそうだろうな、結果から見ればアンタらは惨敗も惨敗、勝つ為に執念を燃やすのも結構、目標に据えて努力するのもありさ、だけど唯努力し続けてりゃ弦は何れ切れてその反動が襲う。時折、緩めてやるのもいるのさ……その見極めを今度は重点を置いてみるといい」

 

そう言いながら立ち上がったステイゴールドが見据えた掲示板、その一番上には自分が背負っていた9の数字、自分の中にある記憶と記録にも重なる筈のそれだがその順番は上から3番目だった筈……だから今回自分は楽しんでみたのだが……結果はそこまでの楽しくない結果だった。

 

「よっトレーナー、私の走りは如何だったかな?」

「こりゃまた、どえらいことしやがったなぁお前……」

「そうかい?私からしたら60%ぐらいのつもりで走ってたんだよ、まあ最終直線辺りで本気出そうと思ったんだけどさ、全然だったから」

「全然、ねぇ……」

 

今日、阪神レース場ではステイゴールドのメイクデビューが行われていた。その結果は……ステイゴールドの大差勝ちだった。序盤から差しのポジショニングをしながらもマイペースな走りを見せていたステイゴールドだったが……中盤に差し掛かろうとした所で一気に前に出ると、周囲のウマ娘がそれに負けじと上げていった結果として、それを全て振り落としていった。最終直線付近では僅かにスピードが落ちこそしたが、シフトチェンジをする車のように一瞬の減速から加速を狙っていたのに、既に大差が見えていたのでそれを取りやめていた。それでも大差での勝利になった。

 

「まあよくよく考えてみればさ、サンデーとよく走ってんだからそりゃ基準があれにもなるわなって我ながら納得しつつ笑ったよ」

「基準があれかぁ……」

 

ステゴはプレアデスの中で最もネメシスに顔を出しているといってもいい、それはランページがいるのもそうだが、サンデーがネメシスの指導教官的な立ち位置にいるからである為。そして落ち着くまでサンデーと散々やりあった為に、今でもよくレースをしている。その影響からか、サンデーは世界最高峰の走りの技術とその強さを間近で吸収する機会に恵まれ続けていた。

 

「それと相手の戦術があれだったな、こっちを徹底マークするのは良いんだけどさ、メイクデビューの場だから私の能力とか計りようないじゃん?だからどのタイミングで仕掛ければいいとかどんなウマ娘なのかもわからないって心理的な負担も影響してんじゃないかなって思いました〇」

「なんで最後適当になった」

 

だけどステゴの分析はかなり的を射ている、というよりも正解その物のように思える。メイクデビューは良くも悪くも初めての舞台なので精神的に不安定になってしまっている子も多い、そこで快進撃中のプレアデスのメンバーと一緒になりました、なんて言われたら不安も加速する……。

 

「半分以上は相手の自爆って訳か……俺としては自分のチームのウマ娘の実力だけで勝ちました、って胸張って言いたいもんだねぇ」

「んじゃ次はそうするから、そのデカい胸を張る準備だけはしといてくれ」

「別の意味では準備が確約されてるようなもんだけどな」

 

お互いに華が咲いたように笑いだす風景に、誰かが思った。独裁暴君たるメジロランページの後継者は様々な要因でエアグルーヴだと。それは彼女が既にダブルティアラである事も大きく関係しているが……何故かそれ以上にステイゴールドの方が似合うように感じられるのだ。

 

自由気儘に駆け抜ける、自分がこう走りたいからそうしているだけ、その果てに勝利が付随しているのはレースという弱肉強食の世界に自分の法を敷いた暴君に被る所があった。こう見るとエアグルーヴは新たな法を敷くのではなく、既にある法に則って勝負を挑んでいる。だがステイゴールドは自分のやりたいようにやるだけ、そしてその果てにある勝利にはそこまでの興味すらない。唯、自分の物になったのであれば貰っていく程度の認識しか持ち合わせていない様に見える。

 

「こんなの……ないじゃん……」

 

自分達がどれだけレースの勝利を望んでいるのか、どれだけ苦しいトレーニングを積んで来たのか、それなのに……勝者の勝利を祝う為の振り付けをするしかないのか……他者の勝利を祝う事が出来なければ、リスペクト出来なければ勝者になる価値もない。そうかもしれないけど……。

 

「んじゃ今日の晩飯はアンタの奢りって事で」

「平然とトレーナーから集ろうとすんなよ」

「スピカじゃ普通って聞いたぞ?この前もシービーに歌舞伎連れてかれた後になんか店に連れ込まれてたし」

「沖ノッチェ……そんなんだから財布が薄くなるって事を分かってるだろうに……分かったよ何が良い?」

「んじゃハンバーガーで」

「レースのお祝いなんだけど」

 

レースの世界には一番早く駆け抜けた勝者とそれ以外の敗者しか存在しない、それがレースという物だ。それに適応できないならばこの世界から外れる他無い。何時かその勝者の座を簒奪する気概でなければ、適応できないのだ。

 

「んじゃバガキンでいいよな、クーポンあるし」

「おっいいね~何時かアメリカで本場の奴も食いたいなぁ~」

「なんかハンバーガーの大食いもあったな、ポテトも含めて完食したらクリアだけど、水分摂取が一切禁止の奴」

「ハハッ何それ面白そう」

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