貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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66話

「お久しぶりです」

「よぉっ身体は良いのか」

「元々大丈夫でした、ローズステークスにも出たかったのですが……おハナさんに止められてしまいましたから」

 

以前あった時のように、寝そべりながらシガーを吸っているとフローラが隣に腰掛けて来た。如何やら無事に退院出来たらしい、そもそもそこまで深刻な怪我という訳ではないが……

 

「悪かった、ローズステークスでは不甲斐無い走りをしたのをお前のせいにする所だった」

「それを言ったらその原因を作った私も同罪です、ルドルフさんとシービーさんとの特訓で無理をし過ぎたようです―――あなたに勝ちたいという気持ちが余りにも強くなりすぎてしまったようです」

「要するにお前にそう思わせた俺のせいって事だろ」

「そうなっちゃいますね、すいませんフォローしようと思ったのに全然できてませんね」

「全くだ」

 

遠回しに自分のせいだと言われるが、分かっている節があるのでランページもそこまで真剣には取り合わない。此方だって走りの事を出してしまったので正しくお互い様だ。

 

「次はいよいよ秋華賞ですね」

「皇帝様達に教え込まれた事で勝てたらいいな」

「勝ちますよ今度は―――貴方に敗北の味を味わわせてやります」

「そりゃいいな、是非教えてくれよ―――散々俺がご馳走した味をお前が俺にね」

 

バチバチにやり合う訳でもなく、軽口のやり合いをする二人。それを遠めに見ている後輩、そして先輩までもが固唾を飲んで見守っていた。何か起きないかとハラハラしてしまう。

 

「そろそろ行きます、こんな所で寝ている場合じゃないので」

「あっそ、好きにすればいい」

「随分と余裕ですね」

「余裕なんざねぇんだよこれでも……シガーの消費量がまた増えて来てな」

 

その言葉の意味をフローラは理解出来なかった、一先ず自分の事を優先しようと頭を下げてからその場を立ち去った。喧嘩などが起こらなくて良かったと周囲から安堵の溜息が聞こえてくる中でランページはシガーを吸い尽くすとそれを携帯灰皿に押し込むと立ち上がった。

 

「さてと……やるか」

 

自分もと言わんばかりに歩き始める、向かう先は当然カノープスの部室。秋華賞まで後僅か……

 

「ライアン、お前との約束は確りと果たす」

 

 

そして、遂にこの日がやって来た。クラシッククラス、ティアラ三冠路線の最終戦―――秋華賞。この日を多くの人々が待ち侘びていた、史上二人目のトリプルティアラが誕生するかもしれない……そんな期待が此処、京都レースに収束されていた。当然それだけではない、他のウマ娘達がそれを阻止するのか、最後のティアラを掴み取って自らも女王であると勝鬨を上げる事で独裁政権を終わらせるのか……無敗の三冠が掛かっているのにも拘らず、其方にも多くの期待が寄せられていた。

 

「わわっ凄い人……」

「ライスちゃん、はぐれちゃったら大変だから皆で手つなごう」

「それじゃあアタシの手使っていいですよ、これでも力には自信ありますから!!」

「おっ~チケット頼もし~!」

「エッヘン!!」

 

日本ダービーに負けない程の人数が京都レース場に集っている、その人の波にさらわれないようにとカノープスのメンバーは手を繋いではぐれないように務めていた。

 

「それにしても凄い人だねぇ……まあ最後のティアラが掛かってるんだから当たり前か……」

「でもさでもさ、なんか皆ランが負ける事も期待してる感じしない?」

「ライスもそう思う、イクノさん達が勝つ事も期待してる感じ……?」

 

ライスたちが感じた違和感、それは無敗の三冠という大記録が掛かっている割にそれが防がれる事にも大きな期待が寄せられている事にある。普通ならば無敗を応援すると思うのだが……そんな疑問には南坂ではなく、近くにいたウマ娘が応えてくれた。

 

「単純な事だ、今年は一強という訳ではなく明確な対抗者がいる。しかもそれは確かな実力があり、勝っても可笑しくない。それが続いたのだから其方にも期待が掛かる」

 

そう、この世代のティアラ路線はランページだけが強い訳ではない。他にもイクノやフローラを筆頭に彼女を追いかけ、追い抜かし、自らが勝とうとする者が多く居る世代でもある。故に皆が応援をする、ランページが勝つのを、イクノが勝つのを、フローラが勝つのを。そんな言葉を掛けたウマ娘はサングラスをチラリとだけズラして表情を見せるとカノープスの面々は直ぐに誰か分かった。

 

「あっモンスニー来てくれたんだ!!」

「お婆様の代理だ、来たかったらしいが予定が合わないらしくてな……それで私が来た」

 

本当はアサマが来ようとも思っていたらしいが、流石にライアンの菊花賞の事も考えると2週連続で時間を取る事が難しいのでどちらかがいけないという事になってしまった。なので直接教えたモンスニーに代理を頼んだのである。

 

「モンスニーさんはランが勝つと思ってる?」

「さあな、少なくともローズステークスのようなふざけた走りをしなければいい競り合いは出来るだろう」

 

余計な事を考えず、自分の走りに没頭さえすれば負ける事はない筈だ。間もなくゲートインが始まる、もう直ぐ始まってしまう、最後のティアラを巡る戦いが……。

 

「ランページさん、今日こそは勝たせて貰いますよ」

「散々聞いて耳にタコだ」

 

ゲート前で改めて声を掛けるフローラ、勝負服に身を包んでいる彼女はこれまでの彼女とは違う物を纏っている。あの二人との特訓は伊達ではない、そんな雰囲気を感じさせる。今まで戦ってきたフローラとは違う、確実に今が一番強い。そんな事を思っている時にイクノが小声で自分に声を掛けて来た。

 

「ランページさん、気を付けてください。私に言えるのはその位です、私も敵ですが……私は正々堂々と貴方を破ります」

「そう言って貰えると嬉しいな、頑張ろうぜイクノ」

「ええ」

 

そう言いながらも拳を数回ぶつけ合ってから握手を交わす。同じチームというのもあるが、イクノとしては真っ向から破ってこそ本当の勝利という考えがあるのだろう。ターボ的に言わせれば正々と走って勝った方が気持ちいいから、と言った所だろう。まあそんな相手が一番厄介ではあるのだが……そんな時、背後から囁きを受けた。

 

「……アグネスフローラだけが敵だと思ったら足元、掬われますよ」

「掬ってみろ」

 

それ程気にも留めずに飄々とした態度を貫き通す。勝ち続けているのだからこういう物が向けられるのは分かっていた事だ、だがしかし……これはこれでかなり凄まじい。イクノとフローラ以外のウマ娘が自分に向けてデバフスキルの矛を向けているのでは……と思いたくなるような状況だ。

 

「(鋭い眼光に強い圧迫感、さっきのはささやきで他には逃げ牽制にetc……他にもいろいろ向けて来てんな。本格的にマーク受けてるな……)」

 

無敗の二冠ウマ娘なのだからある種当然だ。今まではそれを受ける前に逃げ切って来たが、今度という今度はそうはいかないだろう。全力で相手も喰らい付いて来る筈……だがそれで勝てると思っているのならば甘く見られている。

 

「マークだろうが何だろうが……暴れてやるだけだぜ」

 

―――秋華賞が、始まる。

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