貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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665話

矢張りというべきか、現状ではマヤが一番警戒されており、圧倒的1番人気となっている。ブライアンやローレルがいないからある意味当然と言えばその程度なのだが……人気とは裏を返せばどれだけの人間に注目され、警戒されている事のパラメーターとも言える。長年ずっとその座に座り続けていた物からすれば今回も考える要素が多いなぁと溜息が出そうになる。

 

「ンで、件のマヤは引っ繰り返ってる訳か」

「だってぇ~……この蹄鉄滅茶苦茶走り難いんだもん~!!!」

「そりゃそういうもんだからな」

 

流石のマヤも10倍シンザン鉄には苦戦を強いられており、本当にランページはこんなものでマジのレースを駆け抜けていたという事実にさえ懐疑的になっていた。これまでは素直に尊敬してくれていた筈のマヤからそんな目を向けられてちょっと泣きそう……というのは完全な嘘ではあるが、あのマヤからもそう言われる程か……。

 

「こいつを現段階でまともに使えるのは俺を含めてイクノにライスの三人ぐらいだからなぁ……そう言われても致し方ねぇか……」

「さ、三人……」

「改めて聞くと本当にとんでもないね……本家本元のシンザンさんを含めても四人しかないっていうのが色々と物語ってるね」

 

そんなマヤの為に本当に使えますというのを証明する為に、一度蹄鉄を外し、落としてから重さを証明し、付け直したうえで根性トレーニングで用いる巨大タイヤを引いて見せる。ついでに坂路も少しだけ登って見せようとしたら流石にそこまでしなくていい!?と言われた。

 

「もうそれやっちゃったらばんえいウマ娘だよ……」

「もういっそそっち目指してみるのも悪くねぇかもしれねぇな」

「だからもうそれはトゥインクルシリーズの範疇の外だってば……」

 

そんな風に証明を終える訳だが……マヤは改めて蹄鉄を見る。

 

「……でも9倍じゃ駄目なの?」

「ぶっちゃけた話、効果だけを言えば7~8倍で頭打ちなんだよなこれ」

「……え?」

「ほら日本刀みたいもんだよ、折り返し鍛錬ってあるだろ?刀はあれを15回ぐらい繰り返して層が2万とか3万とか作り出すけど実際は二回ぐらいで刀としては完成してるって奴」

「じゃあなんで9倍とかやらせるの!?」

 

7~8倍で効果自体は頭打ちになって、それ以降の効果はそこまで変わりはないがないのであればなんでやらせるわけなのか……しかしやっている意味も割と単純。

 

「意味なんて簡単よ、とことん突き詰めた方が安定するからだ」

「安定……?」

「7~8倍でもいいとは言われてんだけど、そこでストップするとどうにもブレが出るんだよね。それだったら上限に達せさせて、天井に付けちゃった方がその他が安定する柱に出来るんだ。シンザン鉄で得られる効果としてはそこまでで十分、だけどその他の為に活かそうとすると限界までやった方が伸びが良い」

「……本当?」

「ホントホント、伊達にずっとシンザン鉄使ってる訳じゃないぞ」

 

マヤは懐疑的になってしまうが、それを使ったが故に大きな成績を残している人が目の前にいる上に、その他の使用者も軒並みとんでもない事をやっているので自分が否定的な意見を出した所で、何も変わらない。

 

「……じゃあマヤ頑張る、マヤだけ駄々こねて使うのやめたとか言われたくないもん」

「いい子だ、ライスみたいに頑張れ頑張れ」

「ムゥッ……ランページさんってばライスちゃんの時ばっかりは笑顔になっちゃってズルい……」

「だってライスは妹だし……」

「ドーベルが泣くよ」

「あれはほら、どっちかというと家族だし……ライスは魂のシスターだから」

「なんだろう、全然納得いかない」

 

そんな事を言いながらもマヤは改めて蹄鉄を嵌めたシューズを履き直す、本当にずっしり来る重みだ。改めてこんなものを履いてG1レースに出走し、凱旋門やブリーダーズカップで優勝したこの人は化物なのではないだろうか……と思ってしまうが、ならば自分はその化物の恩恵を活用する事で自分を伸ばす事をすればいいと開き直る。

 

「それじゃあ、ランページさんの実績を利用させてマヤはフライトしちゃいま~す」

「おう好きにしてくれ、使えるもんは何でも使って構わん。引退した奴の実績が現役中の奴に活かされるならめっけもんよ」

 

マヤはそんな言葉を受けながらも駆け出して行く、不思議とシンザン鉄の重みは感じるのに、重さによる苦しさは軽くなっているような気がする。受け止め方によって変わる物なのだろうか……。これは増槽、レースに至るまでの補助燃料タンク……本番ではこれを切り離して軽量化を計る。そう考えるとなんだかロマンを感じ始めた、敵陣地に深く食い込んで秘密作戦を遂行する系のあれこれを感じてしまった。

 

「……良いかも」

 

最近、父がとある映画の続編に協力しているらしいが、それもこういう感じの設定だったりするのだろうか……そんな事に思いを膨らませながらも全身走行で駆け抜けていくのであった。

 

「う~ん、本当によくもまあ走るもんだ……」

「マヤの場合は10倍の方が経験値は多く得られるだろうからな、体幹的にも含めて最適な物だと思ってるよ。宝塚記念まであとちょっと……暑い夏の号砲となるG1レースか……」

「どうしたの?」

「いや、宝塚記念走った事なかったなぁって思って」

「あれ、そうだっけ?」

「走ろうと思わなかった事がない訳じゃないけど、帝王賞やらの方に出てたしなぁ俺……我ながら王道を外しまくるな俺、火事場の天才でも名乗るか」

「何処のジャンク屋だよ君」

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