『賑やかな秋を彩る秋華達、秋華賞の舞台で美しく華を咲かせるのは一体誰なのか!?秋華の冠を被るの一体誰なのか!?』
『6枠12番アグネスフローラ、3番人気です。最後のティアラの奪還を目指します』
『2番人気4枠8番イクノディクタス。桜花、オークス、ローズステークスと銀メダルが続いております。矢張り、独裁者への叛逆を先導するのは彼女か!?』
『スタンド、いやレース場に押し掛けたファンの期待を受け止めながらいざ世代の頂点へと歩みを進める独裁者、一番人気2枠4番、メジロランページ!!此処まで11戦11勝!!無敗の二冠ウマ娘が最後のティアラさえも独占し、歴史に名を刻むのか!?』
日本ダービーの来場者数に負けない人が集う京都レース場、それだけ多くの期待と思いがゲートインした自分達へと向けられている。
『各ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました』
さあいよいよだ、この日を待ちわびて来たのだ。その為に努力してきたと言っても過言ではない、周囲から向けられる重圧が更に増して行くがそんな事知った事ではない。俺は俺の走りをするだけと意識を強く持つ、そして時を待つ……そして遂に―――
『スタートです、おっと少々バラついているが、矢張り飛び出すのはメジロランページ、いやそれを許すまいと多くのウマ娘達がその背後を狙っている!!なんという光景でしょうか、独裁者の独り舞台を許すものかと叛逆の狼煙が次々と上がっていく!!何という事でしょうか、これはメジロランページ対他全員と言ってもいい程の光景です!!』
異様な光景だ、真っ先に飛び出したはずのランページを多くのウマ娘が既にマークして離され過ぎないように距離を保っている。普段ならば5バ身、6バ身はあっという間に離すはずなのにそれが2バ身程度しか作れていない。
「分かっちゃいたが息苦しいねぇ……まあ好きなように走ればいい、俺だってそうさせて貰うだけだ」
真後ろにはイクノ、左後方にはフローラが、前以外には行く道が完全に絶たれている状況が作られた。これは幻惑逃げは使えない、使おうとすればその途端に自分はバ群に一気に飲まれていく事になるのだろう。そうなれば抜け出すのは至難の業、つまり、自分は常に逃げ続けなければならない。呼吸を入れる隙も与えられないレース状況が形成されてしまった。
「これは苦しいですね……常に逃げ続ける、脚を休められない……重圧を受けながらは相当にキツいです」
南坂も汗をかいている。イクノやフローラは当然のようにマークしていた、これまでもそうだったがそこに他のウマ娘全員が参加してきた。呼吸を事前に合わせたわけでもないのに此処まで合致している、全員が三冠達成を阻みに来ている。逃げ続ける事はランページなら出来る、だが……この重圧は余りにも重い。
「ラン頑張れ~!!イクノも頑張れ~!!」
「お姉様頑張ってぇ~!!」
「どっちも頑張れ~!!」
「先輩ファイトォ~!!」
皆も必死の声援を送っている、これが少しでも力になってくれればいいのだが……こうしている間にもランページは他者からの
『さあ第3コーナーへと入る、先頭は未だメジロランページですが後方は2バ身差。これが独裁者が受ける重圧なのか、後方からは虎視眈々と狙う者がいるぞ!!』
「此処だ、此処で―――行くっ!!」
上り坂に入った時、フローラがギアを上げた。此処でまさかの人物がスパートを掛け始めた。第3コーナーの上り坂を加速していく、その姿は三冠ウマ娘のミスターシービーに被るモノがある。合宿で得た物を此処で出すと言わんばかりにギアを上げて来た、だがそれを許すまいとイクノもギアを上げる。
「残念ながら私も此処ですので」
「良いわよ、先ず貴方に勝たないとランページさんに勝てる道理もない物ね!!」
『此処でアグネスフローラが加速、いやイクノディクタスも行った!!上る上っていく、そして鋭い加速は遂に独裁者の喉元まで迫るのか、迫れるのか!?後1バ身、さあ間もなく第4コーナーだ、この下り坂で捉えられるのか!!?』
京都レース場の急坂、淀の坂をイクノは鍛え抜かれたパワーで遠心力に対抗する事でコーナーを加速しながら攻める事が出来る。それはランページも同じ、そしてその世界にもう一人―――介入した。フローラも同じように加速したまま坂を下っていく、合宿で三冠ウマ娘に迫る為に覚えた事、それは精神力の強さ。
「絶対に負けない!!」
『アグネスフローラが必死に追い縋る!!イクノディクタスもあと少し、届く、届くぞと届いたぞ!!遂に二人が独裁者、メジロランページに並んだ!!そしてそのまま直線に入る、後方のウマ娘達も一気に加速する!!独裁者はもう終わるのか、此処で独裁は終わりを告げてしまうのか!!?』
恐怖を支配して思い切った勝負を仕掛ける、それこそが三冠ウマ娘に迫る唯一の方法だった。淀の坂だろうが全力の走りをする、そんな心を持ったフローラはあの坂を猛スピードで下る事が出来た。そしてその加速で遂にランページに並んだ。後方からの重圧も迫ってきている、後は彼女を抜くだけ!
「行けっフローラ!!!」
東条の檄が飛ぶ、勝てる、これならば絶対に勝てる!!そう思った時、イクノを抜いてランページを―――抜いた!!
『アグネスフローラ、アグネスフローラだ!!此処まで長く戦ってきた反逆者が遂に独裁者を打ち破るのか!?』
重圧を感じながらも遂にランページを抜いた、重圧がランページに圧し掛かっている、それが自分にとっての好機だった。最大限に警戒される舞台こそ自分が勝つ最大の好機。今日でお前の独裁も終わりだ、後はゴールするだけだ!!
「―――そうか、そういう事か……考えてみりゃそうだな」
そんな言葉が聞こえて来た、すぐ後ろから。ランページの声だ、焦りは微塵もなく、納得に満ちている声があった。諦めたのか?いや違う、これは諦観ではない、寧ろ―――高揚感に溢れた声。
「この状況こそ、俺が、俺達が輝く場面―――さあ暴れるぞ、かき乱すぞ、振り切るぞ―――」
瞬間、暴れ狂ったのような風がやって来た。それに驚愕すると目の前には再び独裁者が自分を追い抜いていた。自分が先を走っていたのに何故!?いやそれよりもなんだあの走り方は……これまでに見た事も無いような走りだ、脚、いや違う、全身が、全てのパーツが連動して大地を蹴っている。何処までも力強い走りはそれ迄受けていた重圧を全て跳ね除けながらも悠然と王者の風格を纏って突き進んでいく。
「追い、付けない……!?いや違う、負けないんだぁぁぁ!!!」
負けていない、まだ終わっていない!!自分はまだ走っている、走れるんだ!!気持ちで負けるな、覆せ、引っ繰り返せ!!独裁者に挑み続けるフローラ、だがその身体には重さが付き纏い始めていた。先程まで感じなかった重圧が自分にも牙を剥いて来ていた。
「なんで、急に……ランページィィィィッ!!!」
「お前らが俺にくれたもんを俺が使おうが俺の勝手だぜな、なんたって俺は―――ターフの独裁者だ!!!」
『メジロランページ、メジロランページが追い抜いた!!アグネスフローラを振り切った、どんどん加速していくぞ!!最早問答無用、我に敵なし、歴史に名を残す権利すらも独占保有!!古き歴史を塗り替えて、過去の栄光も掴み取る!!史上二人目のトリプルティアラが今、誕生しましたぁぁぁぁ!!!メジロランページが無敗でトリプルティアラを達成ぃぃぃぃぃ!!!史上二人目、メジロラモーヌに続いてメジロ家がトリプルティアラを達成しました!!!無敗のトリプルティアラは史上初!!歴史に名を刻みましたぁ!!』
新しい歴史が刻まれる、それを作った独裁者、それを達成したランページは息を吐きながらも笑みを作り続けていた。アグネスフローラは2着、3着イクノディクタスという結果になった秋華賞、だがフローラは敗北したがその表情に悔しさは微塵も無かった。
「……参ったなぁ完敗だ……強いなぁランページさんは」
最早羨望の眼差しを向けてしまう、圧倒的に不利な状況だったのにも拘らず、向けられた重圧さえも自らの力に変えて駆け抜けていった……認めるしかないだろう。彼女こそ、全てのティアラを独占するに相応しいウマ娘だと。
「……満足したぜ……最高の走りが出来て」