まさかの海外からの引き抜き希望まで出てきたサニー、それには海外の戦術上の都合だったりが存在している事をランページは知る事になる。
「海外だとラビットがあるのは知ってるでしょ?」
「ああ、俺の大逃げへの侮りもその影響だろ」
「うん日本ほど逃げはそこまで重視されないというか、基本的に相手の体力を削り取る戦術としての認識が強いのよね」
海外にはラビットという戦術がある、ラビットとは本命である差しや追い込みを勝たせるためにペースメイカーとして最前線に立ってペースを乱す役割をする戦術の事。日本では勝つ気のない出走は禁止されているのでラビットは禁止されている。それ故にランページは最初こそ侮りの視線を向けられていたのもある。
「だけどラビットは兎に角前へ前へ出る事が肝要なの、ペースを目出す程の超ハイペース、味方を勝たせる為だけに体力度外視で駆け抜けていく。だけどあの子の幻惑逃げは寧ろラビットっていう戦術その物が偽装になる」
「敢てスピードを落とした所で相手へガス欠だって誤認させてペースを上げさせるって事か?」
「大体そんな感じ、私の所でも一応教えてはいるんだけど、幻惑逃げってかなり難しいのよね。日本以外だと使い手を探す事自体が困難で、貴方の過去のレースを参考資料にしてるぐらいだから」
逃げのバリエーションの一つとして教え込んだつもりだったのだが、それがまさか海外から予想以上の高評価になっている事に驚きを禁じ得ない。そもそも逃げが人気スタイルになる事自体が海外的にはあり得ないのがラビットという戦術があったからとも言える。
「だからぶっちゃけ逃げウマ娘って基本的に捨て駒的な印象が強いのよね、私も最初は全然注目されなかったし、お前は仲間の為の勝利を捨てて自己の為に走ったとか言われたりもあったわ、そもそも同じ陣営私だけだったから仲間=トレーナーなんだけど」
「筋違いもいい所だな」
「インタビューでそれ言ったらビックリされたわ、シルバーストーンは孤立無援!?って書かれた。いやその理屈は可笑しいと思ったけど」
そんな事もありながらもサニーの走りは海外では極めて効果的に利くとの事、ランページの影響で更にラビットの効果も上がりつつあり、逃げウマ娘が出るとほぼ確実にマークされるからだという。それに関しては知らんが……。
「んじゃスズカの場合は」
「あっちは完全なラビットだと思ったら全然落ちねぇじゃねぇか!!!っていう私パターンでこっちはこっちで常にハイペースで相手を乱すパターンね。というかあの子何なの?サニーは地面をかなり力強く踏み込んだ上でその反発力を使って脚を上げてるけど、あの子は……芝の上を滑ってるわ、それなのにスリップせずにコーナーを曲がり切っている、雨の路面をドリフトしてるみたいな感じでコーナリングしてるわよ、何教え込んだの?」
サニーは力強い、だがスズカはその対極。極力足への負担を無くしコースその物を利用する方針で育てた。その結果として誕生したのはまさかのドリフトに近い走法、走りながら向きを変えていくのではなく曲がりながら走る。その結果としてスズカのコーナリングはランページと同じく最ウチのギリギリを駆け抜ける。
「あんな柔らかな足捌きは見た事がないわ……現役時代に是非とも組み込みたかったテクよあれ。ねぇマジでどうやって教えたの教えてよ」
「教えたっつうか……峠攻めてたらスズカが勝手に習得したっつうか……」
「また峠なの!!?何日本って山がトレーニング施設扱いでもされてんの!!?」
「国土の7割が山みたいな国だから間違ってないとも言えないのがひでぇなそれ」
実際問題としてスズカの走りは自分の走りを教え込んだところにスズカが好んでいた峠の走りのあれこれをプラスアルファしていった結果として生まれた突然変異のそれ近いのである。自分はサニーのような力強いステップで芝の更の下の地面を捉えて、パワーで走る事で遠心力に対抗して最短距離を駆け抜ける、だがスズカにそんなパワーはないので逆に遠心力を利用して遠心力で身体の向きを調整するという技巧派型。
「遠心力を……大外から強襲する以外にこんな利用法があるなんて……だけどこの走りはちょっと合う子が極めて限られるわね……フォームが一切ブレない事と左右に障害物となるライバルがいない事が前提になる……それを大逃げで先頭で立つ事でクリアして、寧ろ先頭でそれをやる事で相手にも心理的なプレッシャーになる……凄い発想よ、ねぇあの子も」
「いい加減にせんと日本から蹴り出すぞ」
「だってぇ……じゃ、じゃあの子が海外挑戦する時は私にアシストさせて!!!それならいいでしょ!?」
「いや……そもそも海外に行かせるならアメリカだと思うが……あっちで全部左回りだろ」
「こっちに来てよ!?あの子のクラシックこっちで走らせない!!?」
「無茶言わんでくれます?俺への負担がクッソ増えるやんけ」
まあスズカがそれを望むならば話が別になって来るのだが……海外戦線への興味があるのかいまいち分からない……。
「スズカ~お前海外戦線とか興味ある?」
「今の所全く」
「だとさ」
「一瞬で亡くなった!!?」
「死んでんじゃねぇか」
兎も角、逃げが高評価なのは素直に有り難い所だ。自分の走りを教え込んでるメンバーが良い感じなのは喜ばしい……と思っているとよろよろとしながらも此方へと歩いてくる影が見えた。それは……
「何やってんすかグッバイヘイローさん」
「わ、私もやるわよ……この程度で根を上げるなんて超一流じゃないわ……!!」
「いや超一流ならそういう時は休むのに徹しそうな気も……」
「無理すんなBBAwww」
「マジで殴るわよサンデー!!!?」