貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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69話

「あ"っ~……疲れた」

 

溶けるように座り込んでいるランページ、口にはシガーが銜えられ、口の端からは煙が漏れている。そんな姿を見ながらも南坂は苦笑しながらもスケジュール帳を確認している。

 

「頑張ってください、次で今日は終わりですから」

「分かってる、分かってるけど疲れるもんは疲れるのよ……南ちゃんなんか飯食いに行こうぜ精神的な栄養が不足してる……」

「それじゃあ次が終わったら夕食を御馳走します、何が良いですか?」

「チャーシュー麺大盛り、メンマと卵上乗せ」

「吃驚する位庶民的なんですけど」

「いや御馳走だろ」

 

御馳走と言われたらご馳走ではあると思う、庶民感覚で言ったら。しかしメジロ家の一人となったランページはまだまだ庶民的な感覚で溢れている、そもそもメジロになったと言っても基本的にトレセン学園で過ごしているので貴族的な事をまだしていないので無理もないとは思うが……

 

「この辺りに美味いラーメン屋とかねぇかなぁ……もう何だったらアイネスがバイトしてる店でもいいし」

「ハハッ……そう言えばもう直ぐ菊花賞ですね、アイネスさんも張り切っているらしいですね」

「ああ、スタミナを付ける為のトレーニングをしまくってるって話だったな」

 

史実では、屈腱炎が原因でダービーを最後に引退したが、ウマ娘の彼女は元気いっぱいであり菊花賞にも名乗りを上げている。ダービーもあって堂々の2番人気である。と言ってもやはりスタミナに不安があるのでその強化メニューをしまくっていると聞いている。

 

「最近じゃパーマーやヘリちゃんと一緒に走ってる聞いたからな、菊花賞じゃあどうなるか全然予想出来ないな」

「そうですか、ライアンさんが三冠を取るかどうかの菊花賞……楽しみですね」

 

自分の秋華賞もそうだったが、菊花賞もどうなるか分からないのだ。出来る事ならばライアンの勝利を望むが、相手はマックイーンにアイネス、他にも有力なウマ娘達が向かって来る。それを薙ぎ倒す必要があると思うとこれは本当に大変な道だ。

 

「……さてと、俺も負けねぇように頑張るかぁ……サイン会だっけ?」

「ええ、軽い取材の後にURA主催のサイン会ですね」

「まあお婆様が選んでくれたんだから大丈夫だろうな……んじゃあまあ頑張るか」

 

何時までも疲れた云々を言っている訳には行かない、有名になればこういう事になるのは分かっていた。阪神ジュベナイルフィリーズを勝利した辺りから、こういった事への対処法を南坂から教えられているから出来ない訳ではない。

 

「そう言えば……URAが是非とも授与式で送ったもう一つの勝負服を着て欲しいと言ってましたが」

「テメェらURAのスタッフが全員同じ格好したら考えてやるって言っといて」

「そういうと思って丁重にお断りしておきました」

「パーフェクトだ南ちゃん」

「感謝の極み……!」

 

到着したので車から降りながらも南坂は彼女の後ろに続きながらスタッフとの電話を思い出した。

 

『授与式で渡した勝負服を着て貰えるようにお願い出来ませんか?』

『ランページさんがシンプルにあのデザインを嫌ってたので無理だと思いますよ』

『き、嫌っ……い、いえそこを何とか交渉して……!!』

『でしたら当日のスタッフ全員がその勝負服と同じデザインの衣装を着てくださればやってくれると思いますよ?』

『え"っ』

『勿論男性スタッフも全員です』

『……なかった事にさせてください』

『はい分かりました』

 

 

「ふふっ」

「どったのよ南ちゃん」

「いえ、お断りした際の電話の事を思い出しまして」

「何よ何よ気になるじゃないのよ」

 

 

「メイクデビューからずっとファンなんです!!」

「おっそりゃ嬉しいね~これからも応援よろしくぅ」

 

「こ、ここここっこれにサインお願い出来ますか!?」

「応よ、というかそのまっさらな白シャツに書いてやろうか。それ期待してるんでしょ?」

「よ、宜しいんでありますかぁ!?」

 

とファンとの触れ合いを行って少しでもサイン会を自分なりに楽しもうとしているランページ。ファン一人一人の反応が全く違うので意外とこれが面白い、握手するだけで号泣する、サインを家宝にする、そんな大げさな反応をする人が多い。

 

「ほらっお願いしないと」

 

次の人が来ていたのか、と気を引き締めて臨もうとしていると……そこに居たのはウマ娘の母親の後ろに隠れている小さなウマ娘、見た所中等部に入る前……小学5~6ぐらいだろうか。

 

「すいません、如何にも緊張しちゃってるみたいで」

「ハハッ大丈夫ですよ……というか、んんっ?お母さんどっかで逢いました?」

「いえ初対面の筈ですよ?」

「ですよね」

 

柔らかな瞳とアイシャドウが実に似合っているウマ娘のお母さん、何故そう思ったのかは謎だがとうとう勇気を出したように前に出ながら震える手を持ったサイン色紙を出してきた。

 

「サ、サインお願いします……!!」

「勿論、ファンサービスは俺のモットーですから」

 

練習の賜物と言わんばかりに流暢な手つきで自分のサインを書いていく、その最中にも少女は此方をキラキラとした目で見つめて来る。も少しサービスしてあげようかなと思いながらもその子に笑いかけるとその子は意を決したかのように大きな声を出した。

 

「わ、私は……私は!」

「んっ?」

「母のように、そして貴方のように強くて速いウマ娘になります!!」

 

突然の大声に周囲のスタッフ達も驚くが、直ぐに微笑まし気な笑顔を向けた。それを向けられたランページは思わず、ルドルフとテイオーのあの場面を思い浮かべた。そうか、自分はルドルフと同じような立場になったのだからもう誰かの憧れとされる側に立っているんだと思い知った。

 

「ほほう、それは光栄の極みだ……だけど、それは大変な道だ。お母さんみたいになるのも、俺みたいになるのもな」

「分かっているつもりです!!」

「なら、トレセン学園で君が来るの待ってるぜ」

 

サイン色紙を差し出しながら笑顔で言う。

 

「君の名前は?」

「エ、エアグルーヴです!!」

「―――エアグルーヴ、よし覚えておこう。待ってるぞトレセン学園で」

「はい!!」

 

頭を撫でた後にお母さんの希望で一緒に写真撮影をする事になった、その写真を撮った後に二人は笑顔で手を振って帰っていくのだが……ランページの内心は穏やかではなかった。

 

「(まさかのエアグルーヴだったよ……言われてみたら確かにロリグルーヴって感じするわ……)」

 

まさかあの少女が将来的に女帝とまで言われる事となるエアグルーヴだったとは……だがそうなるとあの母親はダイナカールという事になるのではないだろうか……

 

「(……んっ?いや、ダイナカールはシービーさんと同期な筈だから違うかな流石に……となるとお姉ちゃんとかかな……なんか深淵に触れそうだから止めておこう)」

 

そんな不意打ちサプライズもありながらもサイン会は順調に進んでいくのであった。




基本年代に沿っているけど、偶にこういう事が発生するかもしれない……あのお母さんはダイナカールかもしれない……だけどダイナカール似のエアグルーヴのお姉ちゃんかもしれない、という事にしといてください。
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