貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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70話

「よっ無敗のトリプルティアラ」

「失せろ変質者、警察呼ぶぞ」

「まだ何もしてねぇだろ!?」

「許可も無しに触ったことを許した覚えはねえぞ、まだ執行猶予中なだけだわこのだぁほ」

 

あと数日で菊花賞、そんな状況だがトレセン学園にやって来たランページ。のんびりとシガーを吸っていると沖野がやって来た、しかも背後には東条トレーナーも引き連れて。

 

「好い加減にしなさい、アンタ私に何回平手打ち喰らえば止める訳?」

「待ってくれおハナさん!!俺は初対面以降こいつの脚を触ってねぇ!?」

「そもそも無断で触る事自体が問題だと言ってるのよ!!」

「全く以てその通り、タイシンの脚も勝手に触ったらしいじゃねえか。三つ子の魂百までって奴かよ、性根の奥底まで変態気質かテメェコノヤロー。うちのライスの脚触ったら殺すからな」

「ライスシャワーか、確かに最近良い感じだよなぁ……あの細い脚とは思えないほどの速度が出るし一回……へぶぅ!?」

 

するな云々の話をしているのになんで態々そんな事が言えるのだろうか……全く理解が出来ない。東条の鋭い平手が沖野の頬を強襲、見事なまでの紅葉模様が刻まれた。ちなみにその時、ランページは舌打ちをした。

 

「冗談だって!!分かるでしょおハナさん!?」

「分かりたくはないけどね!!というか、今のは感謝しなさい。私は貴方を守ってあげたんだから」

「はぁ?」

「見なさい」

 

指が指す先を見てみると……そこには先程まで自分が立っていた位置に拳を突き出しているランページの姿があった。そう、拳を放っていたのである。流石に本気ではないが、ウマ娘のパワーで放たれるパンチと普通の人間である東条の本気に近い平手打ち、何方が強いかと言われたら一目瞭然である。

 

「……今度そんな事言ってみろ、スピカはトレーナー不在で解散になんぞ」

「わ、分かった……マジで済まんかった……」

「私からも謝らせて頂戴、同僚が済まなかったわ」

「ったく……なんでこんなトレーナーが三冠ウマ娘を担当した事があるんだよ……」

「腕だけはいいのよ、腕だけは……性格に反比例するみたいにね」

「そこまで言いますか御二人とも……」

 

此処まで言われるまでやっている行いが不味いなのだという事を取り敢えずご理解頂きたいと二人は心から思うのであった。

 

「んで天下のリギルとスピカのトレーナーが俺に何の用なのかね」

「天下の無敗の三冠がこんな所で寝っ転がってるから何やってんだって思ってな」

「ほっとけ。俺は俺だ」

「そんな貴方がなったのは三冠ウマ娘、しかも無敗だからルドルフと同格のね。そういう者には相応の態度というのが求められるのよ」

 

端的に言えばもっと礼儀正しくなれと言いたいのだろうか、と言われてもこれが自分なのである。今更変えろと言われても困る。

 

「何、会長みたいに面白くねぇ駄洒落でも垂れればいい訳?」

「そういう事じゃないわよ……後それルドルフには絶対言わないで頂戴」

「シービーさんは普通に言ってるぜ、それつまんないね~って」

 

それを聞いて東条は頭を抱える。それで偶にルドルフが調子が悪そう、というかテンションが低かったりしたのか……だが実際ルドルフのギャグセンスはお世辞にも良いとは言えないのでシービーのそれを責める事は出来ない……どうにも居心地が悪くなってきたので東条は咳払いしつつも、貴方でもいいか……と持っていた封筒を渡してきた。

 

「実はこれを南坂に渡して欲しいのよ、彼に頼まれていた物を纏められたから」

「南ちゃんがリギルに頼み事ねぇ……何を頼んだ訳?」

「あっそれ俺も気になるな」

「……まあ、言っても構わないかしら―――次のジャパンカップに出走表明をしている海外ウマ娘の情報よ」

 

それを聞いて納得した。確かにリギルの方が元々大きなコネクションがあるし情報の蓄積も多い、だがそれを聞いて沖野は驚いていた。

 

「おいおいおいおハナさん、そんなの渡しちまっていいのか!?」

「頼まれた物を渡すのが可笑しい事ではないでしょう、今年はウチから出るウマ娘はいないわ」

「いやだとしても……」

「アメリカイギリスフランスにオーストラリアからも来るのかジャパンカップ。唯のG1じゃないだけの事はあるな、流石国際G1」

「って何でお前は普通に開けてみてんだよ!?」

 

と真っ当なツッコミをする沖野、それは幾ら担当トレーナー宛てとはいえ、担当ウマ娘が気軽に見て良い物ではない。そこには各国ウマ娘の情報がある、その情報を守る義務だってあるのに簡単に……と思っていたのだが東条は別に構わないという。

 

「問題ないわよ、だってこの子はジャパンカップに出るんだもの」

「そゆこと、つまり俺の為のデータって事」

「はい、その通りです」

「おいおいおいマジかよ、エリザベス女王杯にだって出るんだろ?それなのにジャパンカップなんて……ってうおおおおおおおお!!?」

 

何時の間にかやって来ていた南坂に驚いて引く沖野、東条も驚いたのかポカンとしながらも一緒にデータを見ている南坂を見た。

 

「お、お前いつの間に!?」

「錚々たる面子ですねぇ……G1を勝ったウマ娘ばかりです、気になる方はいますか?」

「このゴーストフリーズって奴、俺と被ってんだよ」

「聞けよ!!!」

「あ~はいはい、今忙しいからまた後でな」

 

軽くあしらわれてしまい、何だか悲しい気分になる沖野。今回ばかりは同情するのか、肩を叩く東条。

 

「経験の差で言えば圧倒的なのは確実、G1を複数勝ってるのも当たり前って連中ばっかだな……しかもここにオグリさんやヤエちゃん先輩も出るんだよな……スゲェレースになりそうだなジャパンカップ」

「言うなれば日本ウマ娘対外国ウマ娘のレースですからね、此方も相応のメンバーで迎え撃つのは通例になっているのがジャパンカップです」

「そこに無敗のトリプルティアラが出るって噂があるから大騒ぎになってるのよ」

「まあ噂なんて不透明なもんじゃなくてガチで出るんだけどな」

 

東条はやっぱり本気で出るつもりなのか……と思う。クラシッククラスでジャパンカップを選択するウマ娘は少ない、加えてそれに勝ったことがあるウマ娘なんて……日本ではまだ存在していない。

 

「おい南坂、マジで出る気か?」

「ええ、ランページさんがそのつもりですから」

「今の内に戦っておかないとオグリさんと走れる機会が無くなっちまうからねぇ、こっちも焦ってんだ」

「いやそれなら有記念でいいじゃねえか……ジャパンカップなんてエリ女から中1週だぞ」

 

エリザベス女王杯だってシニアクラスとやり合うG1レースだ、そこから中1週間でジャパンカップに挑むなんて過酷が過ぎるローテーション。本当にそれで行くつもりなのか……と沖野は不安になるがランページの瞳は揺らぐ事も無く資料を封筒にしまい直すと南坂の胸板に押し付けた。

 

「勝つだけだ、どんなレースだろうが勝ってやる―――その為の合宿でもあったんだ、行くぜ南ちゃん。新しいシンザン鉄、届いてんだろ?」

「ええ。届いてますよ、今日の所は合わせだけにします。菊花賞が終わった辺りから特訓開始です」

 

そう言いながらもカノープスの部室へと向かっていく二人を東条と沖野は見つめた。

 

「なんというかなぁ……本当にやる気なのかよ……」

「やるんでしょうよ、でなければ私にあれを頼みはしないわ……客観的なデータが欲しいって態々頭を下げに来たのよ、自分でも集められるのに……本気で獲りに行くのよ。ジャパンカップを」




「あれ、これが南ちゃんの集めた資料?おハナさんの数倍はないかこれ……?」
「各国に伝はありますから、それを使ってお願いした物です。ですがおハナさんの物も非常に有用ですので合わせて使います」
「……マジで南ちゃんって何もん?実は某国のエージェントでした、とかそんなオチないよね?」
「私は貴方のトレーナーですよ」
「今はそのお綺麗な笑顔が唯々怖えよ」
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