「うぅっ~緊張してきたぁ……」
「らしくねぇな、それでもダービーウマ娘かよ?」
勝負服を纏いながらも部屋の中をうろうろと歩き回っている彼女へと向けて声を掛ける。そんな彼女は自分の姿を見ると嬉しそうな笑顔を浮かべるのであった、
「今更緊張したって始まらねぇだろ」
「分ってるけど……緊張するなっていうほうが無理だよぉ……だってお婆様来てるんだよ?」
「別に脅しに来てる訳じゃねえんだからいいだろ、態々応援に来てくれてんだぜ」
呆れながらもそう言う、今日はお婆様ことメジロアサマも此処に来ている。孫の走りを見る為に、応援する為にやって来ているのだ。それはわかっているだろうが……だからこそプレッシャーを感じてしまう、態々お婆様が来ているという事実だけで緊張する。
「ランは気楽でいいよね……もう終わってるんだから……」
「今度は次のレースに期待寄せられてんだから今のお前と大差ねえよ」
この日、行われるレースはG1レース、菊花賞。クラシック三冠路線のラストレースでもある。ライアンが挑むのは最後の一冠の奪取、それを取った時……ライアンはランページとの約束であるダブル三冠を達成する事になる、だがその為にライアンへと掛かる期待の重圧は半端ではない。残念な事だが、クラシック三冠とトリプルティアラではクラシック三冠の方が期待値は高い。
「ライアン、お婆様や俺はお前を脅す為に来たんじゃない―――一緒に走りに来たんだ」
「一緒に走りにって……」
「パーマーにも言った事だけどな。期待はお前を押し潰す為の物じゃないんだ、お前の力になる為の物だ。今日、メジロのウマ娘はメジロアサマとメジロランページが一緒に走る、そう思ったら―――元気、湧いてくるだろ?」
突拍子もない上にパーマーにも言っていたのか、と内心で想ってしまった言葉だが気付けば身体の震えが止まっているのだから驚いた。お婆様と一緒に走るというのはいまいち想像がつかないが……親友と一緒に走る、そう言われたら……走らない訳には行かない。何時か一緒に走ると誓ったその日を実現する為に、その予行演習に挑む気持ちでいけばいいんだ、そんな軽い気持ちの方が、背負うモノが軽くて走れるかもしれない。
「うん……うん、そうする。勝って来るよラン」
「応、走って来いライアン」
「へへっ実はトレーナーさんと対菊花賞に向けての秘密特訓もして来たからね!!」
「ほほう、言うじゃないの、それで勝てなかったら恥ずかしいぞ~?」
「まあ見ててよ」
そう呟き合うと自然と二人は抱き合った。深く深く、互いの身体を抱きしめ合った。
「行ってくるね、ラン」
「行ってらっしゃい、ラン」
初めて、互いをランと呼び合いながらもライアンは控室を後にした。その瞳にはもう揺るぎはない、静かに炎が滾る、その炎を全開に燃やして今日を勝つ。
京都レース場3000m。それが菊花賞で走る、京都レース場の淀の坂と呼ばれる高低差4.3mの坂を二度超えて走る長距離レースは想像以上に辛い。これを乗り越えるウマ娘にも求められるのはスピードとスタミナ。皐月賞は最も速いウマ娘が、日本ダービーは最も運があるウマ娘、そして菊花賞は最も強いウマ娘が勝利すると言われている。
『3000mの長丁場、未知の旅路へと漕ぎ出して、手にする栄冠誰のもの!!クラシックロードの終着駅、菊花賞!!最強の栄誉を手にするのは一体誰なのか!!?』
3000mという未知の道のり、此処を誰が攻略するのか誰も分からない。最後の勝負は大荒れが起きるという予言なのか、天気は生憎の雨、それによってバ場状態は重。10月という寒さをいよいよ本格的に感じて来る季節、だがそれにもかかわらず京都レース場には熱気が充満している。その熱気が雨など全て吹き飛ばすと言わんばかりだ。
「ライアン、今日は宜しくなの!!そして、負けないからね!!」
「アイネス!!うん、宜しくね!!」
ゲート前、アイネスと顔を会わせると直ぐに握手をする。ライバルとはいえ同室の仲良し同士という事もあって笑顔でその手を取り合えている。緊張も無いと言わんばかりの笑顔に周囲は強い……と思わざるを得なかった。
「ライアン、今日は宜しくお願い致しますわ。アイネスさんも」
「うん、マックイーンも宜しくなの!!」
「菊花賞、私にとっては春の天皇賞の前哨戦―――ですが、そう簡単に勝ちは譲りませんわよ。メジロ家の名に懸けまして」
「それは私も同じだよマックイーン、此処まで来たのに負けちゃったらランに怒られちゃうよ」
そんなやり取りをしながらもマックイーンは自分のゲート前へと移動していく。今回彼女の人気は5番人気、重賞にこそ出場はしていないが……前走では3000mにも出走している。同じメジロ家というのもあって彼女は5番人気にまでなっているが……恐らく、長距離という舞台においては最も恐ろしい敵になるだろうとライアンは思っている、アイネスも油断は出来ない。この菊花賞……決して楽なレースにはならない。そんな思いを抱きながらもゲートインする。
『ゲートイン終了しました。さあ二冠ウマ娘メジロライアンが三冠を達成するのか!?それとももう一人のダービーウマ娘、アイネスフウジンがリベンジを果たすのか!?いざ往かん、菊花賞―――スタートしました!!』
始まった菊花賞、全員が一気に走り出して行く中で先頭でペースを作るのは……やはりこのウマ娘、アイネスフウジン。
『さあ先頭に立ったのはもう一人のダービーウマ娘のアイネスフウジン、その名が如く風神のように前へと行きます』
「行っちゃうのぉ!!」
余程スタミナの強化に自信があると言わんばかりの先頭、それに次々とウマ娘が続いていく。そして中団にはマックイーンが付ける、そしてライアンは……
『おっとメジロライアンは最後方におります!!出遅れたのか、後ろから数えて3番手にライアンです!!二冠ウマ娘メジロライアン、後方から菊花賞を攻めます!!』
「……随分と後方に固まってますね」
「そうですね」
VIP席、そこにランページの姿があった。今日はアサマと一緒に観戦する為にVIP席にいた、そしてそこからレースの状況を見つつそんな言葉を呟いた。
「1番人気のライアンをマークしようって連中が多数……って所かな、こうなるとアイネスの逃げ具合で決まるか」
「それもあるでしょう、恐らく大半はライアンをマークしようとしている筈……ですが、あの子があそこまで後方にいるという事を彼女らは予測したのでしょうかね」
普段の位置よりもずっと後方で待機しているライアン、じっと息を潜めながらもスタミナを温存する作戦なのか。これがトレーナーに言われたという対菊花賞に向けての特訓の成果だというのだろうか。
「しかし、アイネスさんも随分と逃げますね」
「ええ。俺と同じ逃げが得意な筈ですが……そうなると相当にスタミナが持つのか」
間もなく1000mを通過する、それでも先頭はアイネス。後方とは10バ身は離れている、この差をキープし続けられるのであれば彼女にも勝ち目は見えて来る。京都レース場の直線は短い、そして普通のウマ娘は淀の坂では鉄則を破らない。まあ自分やイクノのせいでその鉄則が息をしていないと言えばそうだろうが……。
『さあ間もなく1500m、折り返し地点ですが未だ先頭はアイネスフウジン!!このまま逃げ切れるのか!!?』
規則正しい呼吸を守り続けて未だ最後方、後ろから数えて4番手にいるライアン。周囲には自分をマークし続けているウマ娘ばかり、だが……焦る様子も見せず唯々マイペースに走り続けている自分に焦りが見え始めて来た。
「アンタ三冠が掛かってるのよ、何でそんなに落ち着いてられるの!?」
「10バ身以上よ、このままじゃあ絶対に負けるわよ!!?」
思わずそんな言葉が聞こえて来ても何処吹く風、自分の走りに徹し続けている。自分達から逃げようともしなければ前を追おうともしない、これではマークしている自分達の方が大敗北になってしまう。そんなのはごめんだ、と言わんばかりに次々と上がっていく。
『おっと此処でレースが動いたか!?次々とアイネスフウジンを猛追していくぅ!!ブラックボウ、レッドサーキット、ワールドエース、どんどん上がっていくぅ!!』
「……此処ですわ!!」
そんな追走するウマ娘達が淀の坂へと入った時、マックイーンも飛び出して行く。仕掛けるタイミングは此処しかないと一気に飛び出して行く、淀の坂を上がる為に少しペースを落としたアイネスにマックイーンが一気に喰らい付こうとする。
『此処でメジロだ!!メジロでもマックイーンがやって来た!!一気にアイネスフウジンを捉えられるのか!?さあ第4コーナーへと入る、マックイーンを筆頭に一気にアイネスフウジンへと迫っていくぅ!!』
「くぅっマックイーン!!」
「捉えましたわアイネスさん!!」
第4コーナーを越えて間もなく直線に入る、既にマックイーンとアイネスは1バ身程。最早アイネスの有利は完全に無くなっていた、後は完全な体力勝負。
「ハァハァハァッ……負けないのぉ!!!」
再びギアを上げる、今日の為に必死に繰り返してきたスタミナの強化特訓。3000mを走り切る為にやって来た事を活かす時が来たと言わんばかりに加速する、だがマックイーンとて負けてはいない。長距離という舞台で自分は負ける訳には行かない、メジロ家の悲願である天皇賞連覇、それを果たす為にも此処を譲る訳には行かないと追走する。
「ライアンやランページさんだけがメジロではありませんわ、私だって、メジロのウマ娘なのです!!」
「―――それはこっちも同じだよ!!」
突然の声に横を見る、そこにはライアンが猛スピードで自分達に並び立たんと迫って来た。
『メ、メジロライアンだ!!外から、外からメジロライアンが一気に上がってきた!!メジロライアンがマックイーンとアイネスフウジンを強襲ぅ!!』
「さっきまで後ろにいたんじゃ……!?」
「もう力は溜まった、後は開放するだけぇ!!」
焦る事も早まる事も無く、ジッと待ち続けて来たライアン。自分を気にしてペースを乱されて上がっていったウマ娘を抜く事なんて簡単な事だった、これまで溜め込み続けて来た力を下り坂の途中で開放して加速を利用しつつ一気に距離を詰める。途中からなら遠心力もある程度弱まるし、何より自分の筋肉ならば遠心力に十二分に対抗出来るとトレーナーが太鼓判を押してくれた。
「京都の直線―――後は此処を全力で行くだけぇ!!」
『メジロライアンが一気に伸びてくる!!これが二冠ウマ娘か、ダービーを競い合ったライバルには負けないと言わんばかりに猛スパートを掛けるメジロライアン!!アイネスフウジンも粘る粘る、だが流石にもう苦しいか!?マックイーンも負けてはいないぞ!!』
「私だって、私だって―――負ける訳には行かないのです!!!」
その言葉の通りにマックイーンも伸びて来る、3000mという長距離にも拘らず全く疲れが見えない。それ所か漸く身体が温まったと言わんばかりの覇気を纏いながらも加速していく。その加速に必死に走るアイネスは付いて行けず、ライアンとマックイーンに離されていく。
「くぅぅぅっ!!!」
アイネスが脱落し、いよいよ残ったのはメジロのウマ娘のみ。二冠ウマ娘のライアンか、それともマックイーンか!?
『どちらも譲らない!!残り200m、勝つのはライアンの夢か!?それともマックイーンの意地なのか!?メジロの一騎打ちだ、メジロメジロメジロ!!ライアンかマックイーン何方なんだ!!?』
「勝つのはアタシだぁぁっ!!!」
「負けませんわぁぁぁぁっ!!!」
完全な一騎打ち、両者ともにメジロのウマ娘としての誇りを携えながら疾駆する。
「ライアン、行けえええええ!!!」
「マックイーン……ライアン……!!!」
VIP席のランページも応援に熱が入る、アサマも拳を握りこんだまま必死の思いでそれを見届ける。もう何方が勝っても可笑しくない、完全に並び立っている。その思いが届いたのか、両者の走りがまた一段と力強くなっていく。さあもうゴールだ、何方だ、どっちが―――
『ゴールイン!!!どっちだ、何方なんだ!?完全に横並びでゴールしました!!もう一人のダービーウマ娘、アイネスフウジンが3着を守り切ってゴールイン!!さあそして菊花賞を取ったのはライアンか、それともマックイーンか!?』
「グッはぁはぁはぁっうっ……」
「クゥッ……ハァハァハァ……」
両者ともにこれ以上動く事が出来ないと言わんばかりに崩れ落ちる、やるだけのことはやった、全てを出し切ったと言わんばかりの両者。そして電光掲示板が写真判定から切り替わって勝者を告げた時、京都レース場は大歓声が上がったのであった。それを聞いて二人は顔を上げた、自分か、それとも相手なのか……そこにあったのは……
『メ、メジロメジロメジロ!!!メジロライアンがやりました!!!メジロライアンが、菊花賞を征しましたぁぁぁぁぁ!!!!メジロライアン三冠達成ぃぃぃぃ!!!しかもこのタイムはレコードです!!3分5秒2!!レコードでの三冠達成です!!!そして2着のメジロマックイーン!!彼女も3分5秒3とレコードでの走りでした!!トリプルティアラとクラシック三冠!!正しくメジロ黄金期!!!クラシックとティアラを独占!!メジロ家が大記録を打ち立てましたぁぁぁぁ!!!』
「や、やったぁっ……」
勝利への喜びを露わにする気力すら残っていないのか、ライアンは思わず仰向けで倒れこんでしまった。その隣にはマックイーンは座り込んでおり、同じように荒い息を立てている。
「全く……凄いですわライアン、負けるとは思ってませんでしたのに」
「マックイーン、も……凄かったよ……」
「でも……不思議と爽やかな気分ですわ……次は天皇賞(春)で戦いましょう、その時こそ……勝ちますわ」
「ハハッ……アタシだって負けないよ……」
「素晴らしい……素晴らしいレース、でしたよ……二人とも……」
その二人の様子を見てアサマは思わず大粒の涙を流してしまっていた。それはランページも同じであり、涙ぐんでしまっていた。
「すげぇなぁ……すげぇよライアン……ああ全く……本当に……」
アンケートは、分かりやすく言うと……
史実みたいに影にも怯える様な臆病なナリタブライアン。
真逆だと、妹の分もレースや人生を楽しもうとするアドマイヤベガ。
史実の馬の性格を取り入れるのはあり?
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あり、見てみたい。
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無し、見たくない。
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寧ろ逆を見てみたい。
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どっちも見たい。
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興味なし。