貴方の強さは私が知っている。   作:魔女っ子アルト姫

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76話

「長いようで短かったわね、ア~ンこれで最後っていうのが寂しいわ」

「俺からしたらあんだけ我儘言ったのに、そんな事を言われるのは複雑というか嬉しいというか……まあ結局追い抜くどころか並び立つ事すら出来ませんでしたけどね」

「フフッそう簡単には追い付かれないぞっ♪」

 

茶目っ気タップリにそういうマルゼンスキーに慣れて来たのか笑顔で返せた。今日まで走り込み続けたせいか、トレセン学園のジャージは薄汚れている上に解れてしまっている部分も出来ていた。それは暗にマルゼンスキーとの走りがそれだけの激しさに満ちていた事を示していた。

 

「それじゃあ今度はその走りをレースで見せて欲しいわ、今のあなたならきっとジャパンカップでも十分走れると思う。後はエースのお仕事ね」

「有難う御座いました」

「ううん、私も夜の峠のタイムアタックに付き合ってくれる相手がいてくれた楽しかったわ♪いい経験になったんじゃないかしら、折角だから車も買っちゃってアタシと一緒に夜のドライブにゴーゴーしない?」

「既にバイクあるけど……まあ買い物とかで考えたら車の方が便利か……考えときますよ」

「フフフッそれじゃあ今度メールでおすすめの車を送っておくからね、それじゃあバイビー!!」

 

そう言いながら一気にアクセルを吹かして加速してカウンタックを走らせていくマルゼンスキー、相変わらずとんでもない加速は彼女自身の走りにも見えてくるから不思議だ、これもコーナリングの特訓だと称して夜の峠に連れ出されてせいなのだろうか……というかあれは本当に特訓だったのだろうか、唯々彼女の道楽に付き合わされただけなのではないだろうか……タイヤ交換やらも手伝わされたし……。

 

「まあスポーツカーとまではいわないまでも、車は持ってもいいかもな……南ちゃんだけに車を運転させるのも気が引けるしな……」

 

走る感覚と似ているから、という理由で風を肌で感じられるバイクに乗っているが……車も車で良いかもしれないと思っている自分は絶対マルゼンスキーに毒されている。コーナリングの特訓だって恐怖心を支配する為と言っていたが……絶対にやりたかったからだ、まあカウンタックを運転させて貰ったのはいい経験になったかもしれないけど……。

 

「さてと……行くか」

 

長く世話になったコースに頭を下げてから、バイクに跨ってアクセルを勢いよく回す。前輪が勢い良く浮き上がり、軽くウィリーしてからそのまま走り出す。

 

「……不味い、マジでマルゼンスキーさんの加速癖が付いちまった……治さないと……保健室で治らねぇから性質悪ぃなこれ」

 

 

「ただいま~南ちゃん今戻って来たぜ~」

「あ~ランが帰ってきた~!!お帰り~!!」

「おっと」

 

トレセン学園へと戻り、カノープスの部室へと入るとターボがいの一番に抱き着いて来た、それを受け止めながらも南坂へと軽く会釈すると向こうも笑顔で返してくる。

 

「お帰り~如何だったのよ特別特訓って奴は」

「ようネチャネチャ」

「ネ・イ・チャ!!」

「わぁってる定番のギャグだろそう怒るなって……お婆様もとんでもないこと組んでくれるぜって軽く恨んだわ、お陰様で俺の中にあった自信が粉々に砕け散ったって感じぃ?」

 

やれやれと両手を上げて参ったと言いたげなランページ、だがしかし約2週間の特別特訓で随分と雰囲気が変わったようにも思える。表向きのそれは全く変わってないようにも感じられるのだが……なんというか、纏う物が変わっている気がする。

 

「お姉様お帰りなさい」

「おっ~ライス~!!少し会わないうちにまた可愛くなっちゃってまぁ~」

「ぴゃぁっ!?お、お姉様恥ずかしいよぉ~……」

「よいではないか~」

 

そう言いながらもライスに抱き着きながらも頬ずりするランページと大胆なスキンシップに赤くなりながらもまんざらでもなさそうにしているライス。そんな様子にタンホイザは思わず隣のイクノに耳打ちする。

 

「な、なんかランページさんちょっと明るくなった?」

「そう、ですね。明るくなったというか外向的になったというか……」

 

何方かと言えばクールな印象を受けるような感じだったランページが此処まで自分をさらけ出しているというのも色んな意味でレアな光景な気がする。その視線に気づいたのか、バツが悪そうな顔をしながらも口を開く。

 

「あ~……悪いライス、今日まで特訓付けててくれた人が特別に明るかったから影響されたっつうかなんというか……自分に自信が付いたっつうのか……影響されて感覚がマヒしてるっつうのか……」

「悪い予想が的中した、と言った所か?矢張りあいつの影響を受けているらしいな」

 

そう言いながらも部室に顔を出したのはカツラギエース、呆れたような予想が当たって嬉しくないと言いたげな表情にランページは頭を掻く。

 

「あ~……すんません、あのテンションについてくには自分も同じ領域に入るしかないっていうか……」

「言いたい事は分かるがもうあいつはいないんだから通常のテンションにギアを下げろ、何時まで攻めるつもりだ」

「面目ない……」

 

溜息混じりだが、まあ思惑通りに行ったという事なのだろうと納得するしかないだろう。

 

「それじゃあ、お前の特訓の成果を皆に見せてやれ。奴に教わった、いや教わった事はないだろうが……学んだ事を見せてやれ」

「モチの……勿論です」

「……やっぱり移るよなそれ」

「ええ……」

 

カツラギエースはランページの肩を優しく叩いてくれた。なんというか昔流行っていたのもあるが、妙に口に残るのである。

 

「それじゃあまあこれをどうぞ、新しいジャージですので」

「あっ悪い南ちゃん」

 

皆には先に行って貰いつつ、自分は一旦新しいジャージに着替える事にした。改めて見ると本当によくもまあ2週間で此処までジャージを酷使出来るものだ……まあそれはシューズも同じだが……そう思いながら外に出ると丁度そこにはチケットとハヤヒデがいた。

 

「あっ先輩お帰りなさい!!帰って来たんですね!!」

「よっチケット、相変わらず声でけぇな。ハヤヒデも元気そうで何よりだ」

「お久しぶりです先輩、しかし驚きましたよカツラギエースさんがトレセン学園に来ていると聞いた時は」

「まあOGだし来てても可笑しくは……?」

 

と、ハヤヒデの背後で何かがいる気配を感じた。僅かに黒い髪が見えた、覗き込むように背伸びをするのだが隠れるように動かれる。

 

「なんか後ろにいる?」

「いますよ、恥ずかしがってる?」

「ほらっお前も会いたいと言ってただろう、だから今日はその為にチケットと一緒にカノープスの部室まで着いて来たんじゃないか」

 

ハヤヒデは酷く柔らかく優しい声で後ろにいたウマ娘に手を差し伸べた、だが肝心の彼女はハヤヒデの後ろから出ない。長く大きい白い髪の影に完全に隠れてしまっている。

 

「あ~……俺なんかやっちゃってる?」

「すいません先輩、先輩に非があるのではないんです。寧ろ貴方に憧れているんですよ、あれだけの舞台で堂々としながらも走れる貴方に。だからほら……今日こそ挨拶をするだろう?私だけならいざ知らず、先輩やチケットにも迷惑を掛ける気か?」

「ううっ……」

 

それを言われると弱いと言わんばかりに声と身体を震わせる、勇気を振り絞るかのようにハヤヒデの後ろからそのウマ娘は出て来た。艶やかで長い髪はハヤヒデに似ていると言えば似ているが、凄い癖っ毛の彼女と違って酷く滑らかな髪質をしている。そして特徴的なのは鼻に絆創膏を付けている事、それらを見た上でハヤヒデとの事を考えるともう一人しか該当するウマ娘はいなかったのだが……ランページは内心で凄い顔をしていた。

 

「ナ、ナ……ナリタ……ナリタブライアンです……あ、あのサイン貰えますか……?」

「―――あ、ああ勿論。喜んでさせて貰うよ」

「っ―――有難う、御座います……!!」

「よかったなブライアン、勇気を出せて偉いぞ」

「うおっ~頑張ったねブライアン、感動だぁ~!!」

 

勇気を出した事を褒めるハヤヒデ、臆病な彼女が勇気を出せたことに感動するチケット、チケットの号泣に驚きつつも姉に頭を撫でられつつもサインを貰える事を嬉しく思うブライアン。そんな状況にランページは思った。

 

「―――何これ」




という訳で、ビワハヤヒデの弟こと、シャドーロールの怪物、ナリタブライアンのエントリーだ!!
ウマ娘では強大で無愛想な一匹狼、と言った様子でしたが、史実では自分の影にさえ怯えたり、水たまりに驚いて騎乗者を振り落す程に臆病な性格だったそうです。

史実の性格を取り入れる、第一弾として彼女を採用しました。
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