『さあ全員が良いスタートを切りました。内からイクノディクタスが伸びて行く、アグネスフローラも負けじと伸びていきますが外からメジロランページ、メジロランページが大外から飛び出して行く!!さあ今日も先頭だ。だが開始から逃げ大逃げを打ち続けてきたメジロランページですが、今日は一味違うと言わんばかりに更なる大逃げを打ちました!!』
G1レース、エリザベス女王杯。史実のメジロラモーヌはこの女王杯を含めた三冠を取った。此方ではラモーヌは秋華賞とこのエリザベス女王杯を征してのトリプルティアラとなっているが……ランページは如何なのか、無敗のままこのG1も取ってラモーヌさえも超えてしまうのか、様々な期待が寄せられて行く中で遂に行われたエリザベス女王杯。
『既に5~6バ身と離れているでしょうか、まだ始まったばかりなのにこれ程迄の逃げを打って大丈夫なのでしょうか!?これは暴走なのか、それとも作戦なのか!?後方のアグネスフローラとはイクノディクタスに2バ身を付けていますが、イクノディクタスも良い走りをしています。おっと此処でメジロランページが更にペースを上げて行く!!まだまだ行けるのか、何処まで駆け抜けるつもりなのか!!?』
周囲からのマークは受けていたが、そんな事知った事かと言わんばかりに飛び出して行く。マークをあっさりと振り切って突き進み続けて行く、幾らなんでもペースが速過ぎると誰もが思う中でランページは必死に走り続けていた。
「まだ、まだまだ先にいる……!!」
自分の目と身体に焼き付いた敗北の記憶が、常に前方に幻影を映し出し続けている。鮮烈で衝撃的な強さを持つウマ娘、彼女と毎日戦い続けている。それは直接的な対決が終わってからも尚続いている。
『逃げる逃げる!!半分を過ぎて尚も逃げ続けます!!』
「これが、これが逃げてるように見えるてんなら……お門違いだ!」
脚に力を込めて更に走る、自分は逃げているのではない。追いかけているんだ。カツラギエースからも言われた、逃げウマ娘にとって最高なのは逃げて差す。途中で失速した状態から再度加速する、という事で悪い意味で使われる事もあるが、そうではなく溜め逃げを行えば良いと言った。
「さあ此処からスパート!!」
「私もここで!!」
『さあアグネスフローラとイクノディクタスが上がってきた!!爆走し続けるメジロランページへとじわじわと迫っていく!!流石に此処までとなると厳しい―――いやっ縮まっていない!!縮まっていないぞ、アグネスフローラとイクノディクタス、スパートを掛けているのにも拘らずメジロランページとの差が縮まっていない!!』
どよめきが走る、後方のウマ娘との差はどんどん開いて行くのにも拘らず、前のランページとの差が一向に詰まらない。その答えは簡単、二人は確かにスパートを掛けているが同時にランページも更に加速している。
『メジロランページの一人旅!!アグネスフローラとイクノディクタスを全く寄せ付けない、なんというウマ娘なんだ!!彼女は進化し続けている、また一段と大きく強くなっている!!逃げて差す、これがターフの独裁者か、今メジロランページが1着でゴールイン!!そして2着にはアグネスフローラ、3着にイクノディクタス!!アグネスフローラに8バ身を付けてのエリザベス女王杯圧勝!!メジロラモーヌが辿った旅路を、完全無欠の戦績で今駆け抜けましたぁ!!!真の女王が此処に誕生しましたぁ!!!』
ゴール板を越えた時、ランページは確かに勝利を手にした喜びを感じていたが……まだまだ届かぬ高みに敗北した事に悔しさを感じた。
「ランページさん……一体どんな特訓をしていたのですか、全く追い付けませんでした……」
「単純な話だ、俺の目の前をずっと走ってる相手がいると思ってそれを追いかけてたんだ」
「つまり、逃げているのに追っていたと?」
「ああ、そう思うと先頭を走ってるよりも気合が入るんだ」
しかも追いかけているのはマルゼンスキーの幻影、それを抜く為には自分が更に進化する必要がある。その幻影を抜けた時こそが本当の意味で自分が成長したと実感出来る時だと思っている。
「完敗です、ですが私は今回の走りで手応えを得ました。エースさんに教わった走法を試してみましたが思った以上に嵌りました。これを徹底的に磨けば―――あなたにも勝てると確信します」
「言ってくれるな、俺にはモンスニーさん直伝の走りもあるんだぜ。そう簡単にはやられないぜ」
そんな二人をフローラは汗だくになった額を拭いながらも見つめていた、本当に敵わないな……と実感させられる。これまでは背中ばかりを見ていたイクノよりも先着出来ている、と思えば成長も感じられるのだが……それではまだまだ足りないのだ。あの独裁者と称される彼女を打ち破るには。
「まだまだ、鍛えないとダメみたいね……逃げて差す……差すか……」
エリザベス女王杯2着、その現実を受け止めながらもフローラは確りと前を見ていた。そして自分の脚で確りと地面を踏みしめながら前へと進もうとしている。東条は2着という結果に不満はなかった、寧ろ良く戦ったとフローラを褒めてあげたいと思っている。完璧なペースと走り、見事なスパートだった、だがそれ以上にランページの走りが凄かった……そんな言葉が見つからなかった。
「マルゼンスキーと走った事が相当に効いてるみたいね……どう対策、いや、フローラの最大限を活かす走りを見つけ出すしかないわね」
「メジロランページさん、優勝おめでとうございます!!今のお気持ちをお願いします!!」
勝利後のインタビューを受けるランページ、これでラモーヌを完全に超えたことになった。ラモーヌはクラシックの有馬を越えて、ドリームトロフィーリーグへと移籍した。シニアを走らずにそちらに移るのは珍しい、トゥインクルシリーズのラストを除けば完全にラモーヌを越えた事になったランページに報道陣が殺到している。
「次走は何を考えているのでしょうか!!?」
「矢張り有馬でのメジロライアンさんとの対決でしょうか!!?」
記者たちが気になるのは矢張りそこだった、クラシック三冠を取ったライアンとの対決。それが実現するかもしれない年内最後のレース、それに出走するかどうかが気になって気になって致し方ないのである。
「考えてない訳じゃないが……生憎、そっちに向けて調整している暇がないんでね」
「ど、如何言う事でしょうか!!?」
「俺の次走は―――ジャパンカップだ」
その言葉にフラッシュの嵐と共にどよめきの声が広まった。てっきり有馬記念への出走が濃厚とされていたのにジャパンカップへと舵を切るとは思っていた者は少なかったからだろう。だがランページはそんな状態を気にも留めずに言葉を続けた。
「さあ南ちゃん、これで後戻りは出来ねぇぜ。覚悟は良いか、俺は出来てる」
「とっくの昔に私だってしてますよ。その為のスケジュールメニューも」